「インフィニティ・プール」(2023)

 

変態監督の息子の変態映画を新宿ピカデリーで観てきました。

 

 

監督・脚本はブランドン・クローネンバーグ。予告編はコチラ

 

高級リゾート地として知られる"リ・トルカ島"に滞在している夫妻。夫はスランプ中の作家ジェームズ(アレクサンダー・スカルスガルド)で、妻は出版社社長の娘エム(クレオパトラ・コールマン)。ジェームズは小説のインスピレーションを得るためにやって来たようですが退屈そうにしています。現地は危険なエリアが多いため、リゾート地エリアは柵で覆われていて、外には出てはいけないルールがあるようです。そんなある日、彼の小説の大ファンだという女性ガビ(ミア・ゴス)に話しかけられたジェームズ。彼女と夫に誘われて妻と一緒に夕食を楽しみます。売れてない小説の貴重な読者に出会ってご満悦のご様子。今度は、この島で休暇を過ごす常連の彼らと一緒に敷地外へとドライブに出かけることになります。誘うような目つきのガビに魅了されてるのがジェームズのホンネ。ピクニック先の林の中で立ちションをしていると、背後から急に現れたガビジェームズのムスコを握って、手コキをしはじめたんでビックリ。なすがままに果ててしまうジェームズ。ここまでは悪くない展開です。

 

すっかり酔っ払った3人を乗せて、ジェームズが運転する車でホテルに戻りますが、道中で通行人を轢き殺してしまいます。自首しようとするジェームズを制止するガビ。結局、そのまま死体をほったらかしにしてホテルに戻った翌日、警察がジェームズの部屋をノックします。逮捕されたジェームズは、刑事から「この島では、人を死なせてしまったら、もれなく死刑です」と宣告されて大ショック。「ただ、金を払えば、あなたのクローンを作って、クローンを死刑にするので助かりますよ」と言われて、何が何だか分からぬまま言う通りにすると、すぐにサイズを測られて型取りをして、いつのまにか悪夢を見た後に目覚めると自分のクローンが完成していました。「死刑に立ち会うのが義務ですから」と言われて自分そっくりのクローン処刑されるのを目の当たりにするジェームズ。その後、ガビ夫妻に呼ばれて、「あなたもようやく私たちの仲間になれましたね」と歓迎されます。これまでの出来事は悪夢の入り口にすぎず、ここからさらに狂乱の日々が続くことになっていくわけで・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「Infinity Pool」。無限大プールというか、無間地獄に落ちて抜け出せなくなったヘボ作家のお話。父譲りの変態チックな作家性が炸裂していました。ひと昔前のカナダの映画監督といえば、クローネンバーグとアイヴァン・ライトマンといったイメージで、最近はドゥニ・ヴィルヌーヴ一強となっていたところ、ひと昔前の息子たちが躍進してまいりましたという感じ。この島でなぜクローン人間がカンタンに作れるのか、そのへんの説明が全くないのが潔く、映画内シチュエーションを成立させるためだけのギミックとして機能しています。クローン人間を作る時とドラッグでハイになって乱交パーティー耽る時に、妖しげな映像を高速で繋いだイメージで魅せるのは単純でアナログな手法ですが前作「ポゼッサー」以上のインパクトあり。劇場鑑賞では気づかなかった相当卑猥なショットもサブリミナル挿入している一連のシーンが見どころ。エログロ満載なのに品があるのも父譲りで、今後も独特な映画作りに期待したいです。

 

主演のアレクサンダー・スカルスガルドは性的な快楽も体験しますが、殺しを強要されたり殺されたりイヌになったり自分をボコボコに殴り続けたり(容赦ない人体破壊描写あり)とほとんどは散々な目に遭ってばかり。それでも、興奮がやみつきになってしまったのか、他の常連客がシーズン終了と同時にそれぞれの暮らしに戻っていく中、一人だけリゾート地に居残る不気味なラストで映画は終わります。男を享楽の道に引き摺りこむ魔性の女を演じるのはミア・ゴス「PEARL パール」でも発揮していた顔芸を本作でも披露。パッとしないCMタレントの役どころでしたが、女優としての才能が十二分にあって、彼女の華やかさが映画に漂う気色悪さを少し緩和させています。今後、ホラー映画以外での彼女も観てみたいところ。なお、ギリシャかなと思っていたリゾート地のロケはクロアチアのシベニクという街らしく、映画の世界観とは真逆の美しさがありました。観る人を選ぶ内容かもしれませんが、全く予備知識がないままで観て個人的には大正解だった映画でございました。