「三体」(2024)

 

大人気ハードSFのドラマ化作品のNETFLIX版を観ました。

 

 

ショーランナーはデヴィッド・ベニオフとD・B・ワイス、アレクサンダー・ウー。全8エピソード。予告編はコチラ

 

1966年の中国・北京。文化大革命によって、物理学者イエ・ジョータイが衆人環視の中で「虫けらを排除せよ」と罵声を浴びせられながら、帝国主義を信奉するアインシュタインの「相対性理論」を教えた反乱分子として、紅衛兵たちに公開処刑されます。観衆に紛れて父の死を見届けるしかない娘のイエ・ウェンジエ(ジーン・ツェン)。そして、2024年のイギリス・ロンドン。世界各地で有数の科学者が次々と謎の自殺を遂げています。捜査を担当しているのは中国系英国人の刑事クラレンス(ベネディクト・ウォン)。クラレンスは警察機構よりもさらに上位のデカイ組織のトップ(リーアム・カニンガム)に雇われているようです。自殺者の一人で粒子加速器施設の研究者ヴェラ・イエは、父の粛清から紆余曲折を経て天体物理学者となったイエ・ウェンジェ(ロザリンド・チャオ)大富豪(ジョナサン・プライス)と間に生まれた娘です。

 

ヴェラ・イエの教え子で助手をしていたソール(ジョヴァン・アデポ)には大学時代からの仲良し5人組がいて、ナノテクノロジー研究センターCSO(最高戦略責任者)のオギー(エイザ・ゴンザレス)は現在の恋人。理論物理学の上級研究員ジン(ジェス・ホン)、しがない大学講師をしているウィル(アレックス・シャープ)、製菓会社の創始者となったジャック(ジョン・ブラッドリー)とも今も交流を続けています。マジメなリケジョのオギーに対して、ソールは浮気性。もう一人の女性ジンはエリート軍人のラジとラブラブ。ウィルは学生時代からジンが好きだけど告白できないでいるシャイボーイ。ジャックは食いしん坊のデブで金持ち。彼らが恩師ヴェラ・イエの葬儀に参加してすぐ、オギーは目の中でカウントダウンの文字が点滅する症状に悩まされ始めます。やがて、その症状の原因は、オギーの開発している研究内容に対する宇宙からの警告であることが判明。彼らも捜査対象者で、すでにクラレンス動向を監視中だったりします。

 

若き日のイエ・ウェンジェは犯罪者の娘として強制労働を負わされた後、物理学の才能を見込まれてある基地で働かされます。まだ見ぬ異星人との接触を図るために巨大アンテナを使ってメッセージを発信する施設であることを聞かされたウェンジェ。アテのない作業のため、宇宙からのリアクションは全くありませんが、ある仮説に基づいた手法でコッソリとウェンジェがメッセージを試すと、なんと数年後に異星人からの返信メッセージが戻ってきたではありませんか。ウェンジェはその事実を誰にも告げないまま、大学教授として社会復帰。しかし、その裏ではある外国人の協力の下、宇宙との接触を続ける極秘プロジェクトを進行させていました。その数十年にわたる秘密の行動が全ての始まりで、はるかかなたにいる異星人が地球の存在に気づいて、現在になって地球を侵略するという警告が発せられたわけで・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「3 Body Problem」。中国のSF作家劉慈欣の超ベストセラー小説『三体』のドラマ化。NETFLIX版ではメインの舞台を2007年の中国から現代の英国に変更。主人公の中国人研究者も英国在住のさまざまな人種のキャラに変える斬新な脚色。「三体」のナノテク素材研究者ワン・ミャオ、「三体II」の元天文学者ルオ・ジー、「三体III」の女性エンジニアのチェン・シン。といった別時間軸で動いていた各シリーズの主人公をオックスフォード大時代の同級生たちに変換して再配置。原作未読の視聴者にとっつきやすくさせるために、話を単純化しているところも大きな特徴。宇宙人が仕掛けたメッセージの謎。超リアルなVRゲームの存在理由とは。400年後に地球にやってくるという警告。宇宙人から虫けら扱いされる人類。先立って宇宙人が地球に送り込んだ監視アイテム。監視の中で人類の英知を結集して異星人に挑むプロジェクトの行方などなど。面白設定が目白押しでストーリーは単刀直入に進行していきます。

 

三部作の第一部を30話分をかけてじっくり描いた中国版に対して、8話に凝縮&再構成して三部作の第二部以降の展開も盛り込んだNETFLIX版の翻案力はお見事。虫けらに始まり、虫けらで結びます。CGクオリティ物量、展開のメリハリの面ではNETFLIX版に分があるかな。「ゲースロ」の玉ねぎおじさんこと、リーアム・カニンガムの即断即決ぶりが痛快。エロチックな要素はほとんどありませんが、たまに下着姿でうろつくオギーが目の保養パートも請け負ってくれています。VRゲーム"三体"ビジュアル化については、中国版の描写の方が手厚くて、エピソードも豊富。NETFLIX版にはVRゲームでのたくさんのシミュレーションを重ねて核心に迫っていく推理要素は少なめ。ただし、ゲームの筐体ログイン映像についてはNETFLIX版の方がカッコイイかも。若き日のイエ・ウェンジェの魅力は中国版の圧勝。愚直な映像化を楽しむなら中国版、スピード感とタバコプカプカ吸うシーンを重視するならNETFLIX版、といった感じです。