「集団奉行所破り」(1964)

 

関西弁のテンポが楽しい集団抗争時代劇をU-NEXTで観ました。初見。

 

 

監督は長谷川安人。予告編はありません。

 

江戸時代の大阪が舞台。宿を営む勘助(金子信雄)は元海賊。ある時、海賊船を奉行所に襲われた7年前の事件を機に解散したメンバーを召集します。集まったのは、スケコマシの丹次郎(里見浩太郎)、藪医者の道伯(内田良平)、スリ師の捨吉(神戸瓢介)、その相棒の為七(市川小金吾)、素浪人の源太(大友柳太朗)、役立たずの吉蔵(田中春男)。そして、死んだ佐吉の妹だというお駒(桜町弘子)。勘助はメンバーに河内屋善右衛門の七回忌を営みたいと伝えます。河内屋は大阪屈指の廻船問屋で、大阪の水路開発にも貢献して庶民から絶大な支持を受ける人徳者でした。しかし、海賊を助けた際に奉行所から海賊の張本人とされて処刑されました。河内屋の持っていた莫大な財産を没収した大阪東町奉行の将監(原田甲子郎)は、財産の一部を他の廻船問屋に分配。その後、彼らの稼ぎを搾り取って老中になるための政治資金を奉行所の金蔵に貯め込んでいました。

 

勘助はその金を全部強奪して、河内屋の七回忌を豪勢に行おうとします。命の恩人のために一肌脱ぐことを同意した7人は着々と準備を開始。お駒は将監の妾になって内情を探ります。奉行所の見取り図をゲットするために、将監の腹心の部下である竹内金次郎(佐藤慶)の一人娘お糸(嘉手納清美)たぶらかす役目を担うのは丹次郎。河内屋の番頭だった竹内は、主人を裏切って同心になった悪党です。見取り図を盗み出す担当は捨吉。奉行所の侍を斬りつける役割は源太。やがて、同心竹内意外な真実を知って仲間に引き入れて迎えた強奪決行の当日の夜。奉行所に潜入した8人は計画通りに事を運びますが、眠っているはずの金箱は直前で別の場所に移動されていました。潜入者に気づいた奉行所の連中に取り囲まれた8人は絶体絶命の大ピンチ土砂降りの雨になった奉行所内で激しいバトルが繰り広げられて・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1964年8月26日。同時上映は深作欣二監督の「狼と豚と人間」。一連の東映集団抗争時代劇の1本とされる作品。脚本は小国英雄。私服を肥やす巨悪に一泡吹かせようとする小悪党たちのお話。捨吉を演じる神戸瓢介と相棒の為七を演じる市川小金吾のスリコンビによる軽妙な関西弁のやりとりが快調なテンポを生み出しています。一世一代のバクチに出るわりには奉行所襲撃の計画内容はかなり杜撰。愉快な活劇に終始するかと思いきや、無口な剣豪の大友柳太朗が役人嫌いになった理由、女を武器にしてサバイブしてきたお駒と彼女に一途な愛情を抱く吉蔵のロマンスには切ない要素もあり、ぞれぞれの曲者たちに見せ場のある群像劇が楽しめます。彼らを束ねる正義感溢れる司令塔になるのが、勘助を演じる金子信雄お上に盾突くキャラは珍しいかも。

 

話のネタバレをすると・・・、冒頭で捨吉が廻船問屋の旦那からスッた財布の中に奉行との密約が書かれた文書が入っていたのですが、捨吉は文字が読めないため、文書を折鶴にして部屋に吊るしてしまいます。文字さえ読めていたら、奉行所に潜入することなく、脅しの材料に使えていたのにという皮肉な設定が秀逸。潜入した奉行所では肝心の金箱が見つからなかったため断念。その代わり、奉行所内にある機密文書を片っ端から盗んで脱走します。囚人たちを全員脱走させるサービスも披露。船で逃げ出すもあいにくの悪天候による嵐に巻き込まれた一行。せっかく盗んだ文書も川に流れてしまいます。苦労が水の泡になったかと思いきや、文書を隠し持っているとハッタリを利かせて将監を脅迫。これまで暴利を貪っていた奉行所と廻船問屋の連中に自腹を切らせて、河内屋の七回忌盛大に行わせるというオチで映画は終わります。最後にポツンと浮かんたままの折鶴が印象に残る佳作でした。