「我、邪で邪を制す」(2023)

 

不思議な雰囲気の台湾製クライムアクションをNETFLIXで観ました。

 

 

監督はウォン・ジンポー。予告編はコチラ

 

ギャングの幹部を殺したならず者のチェン・クイリン(イーサン・ルァン)が、その被害者の葬儀に潜入して、別の幹部を射殺。暴力団対策で葬儀を監視していたチェン・ホイ刑事(リー・リーレン)が現場を逃走したクイリンを追跡。取っ組み合いの格闘の末、チェン刑事に失明させる痛手を与えてクイリンは逃げ切ります。それから4年後。クイリンの祖母の面倒を長年見ていてクイリンの主治医でもあるチャン医師(シエ・チョンシュアン)が、隠遁生活をしていたクイリンにステージ4の肺ガンで余命数ヶ月であることを告げます。死を覚悟したクイリンは自首しようと警察に出頭。しかし、彼が殺人犯だと気づかない警察官にザツな対応をされているうちに、掲示板に記載されていた国の重要指名手配犯ランキングなるリストを見たクイリン。そこで自分が重要度ランキング第3位に入ってることを知って、自分よりランキング上位に名を連ねているトップ2の二人を始末して、ランキング1位に繰り上がってから自首しようと考えを改めます。

 

最初の標的はランキング2位のホンギ(ベン・ユエン)。ホンギは元嫁の連れ子シャオメイ(ワン・ジン)が経営する美容院に潜伏している様子。義理の娘であるシャオメイに性的関係を強要しているようです。一方、クイリン逮捕に執念を燃やして足取りを追っていたチェン刑事がホンギを尾行しているクイリンの居場所を突き止めます。クイリンは尾行に気づいて逃げるホンギを追いながら、自分を逮捕しようとするチェン刑事の追撃を交わして、抵抗するホンギの殺害にも成功。次の標的はランキング1位のブルヘッド。ある新興宗教の合宿所にいることを突き止めたクイリンは、合宿に参加して潜入捜査をしてるうちに、重病患者に奇跡を起こして完治させると評判の教祖(チェン・イーウェン)から、ブルヘッドは数年前に亡くなったことを聞かされます。そして教団員として慎ましく生活していた自分の病状が回復していることを、教祖の診察で知ったクイリン。これまでの罪を悔い改めて熱心な信者となって暮らしていたところ、別の事実が判明して・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「周處除三害」。英題は「The Pig, the Snake and the Pigeon」。"周處が三つの害悪を駆除する"という意味で、三国志の呉の武将(周處)が若かった頃に、3つの悪を成敗すればご利益があると言われて実行すると、暴れん坊だった自分が改心して立派な人物になったという故事がベースになっているとのこと。英題の動物は、仏教用語の三毒(蛇、豚、鶏)が由来。怖い物知らずだったクイリンが、主治医にガンを宣告されたのがキッカケになって、世にはびこる悪人を始末することを決意する流れは故事の内容に沿っています。どうせ死ぬなら俺より悪いヤツをぶっ殺して、自分がナンバーワンの悪党になってから死んでやるという主人公の動機がユニーク。最初の標的ホンギを殺すことが不遇だった娘を救い出す行為にもなっていて、教団に入った後に起こる新たな展開も、善意に目覚めたがゆえの行動になっています。ヤケクソの悪意が善行になってしまう奇妙な話は、教訓があるようでないような不思議な感触。

 

刑事やホンギとのバトルシーンはなかなかのバイオレンス味を出しています。終盤にも唖然とするドギツい場面が登場。ホンギ教祖の役者さんの得体の知れない不気味さも、教団のみんなが幸せそうに合唱する気色悪さもGOOD。対して、無法者クイリンを演じるイーサン・ルァンにはどこか憎めない純真さがあって、全体に漂うダークな空気を緩和させる存在感がありました。キュートな魅力があるシャオメイ失明してしまうチェン刑事との絡みがもっとあるのかと思ったら、終盤に再会するのみだったのはやや消化不良。ちょっとしたハッピーエンドに感じる話の結び方も、全てが回収されたと感じるものではありません。ただ、予想しない方向に話が進んでいく面白さがあるので、主人公の突飛な行動に身を委ねて観ることをオススメしたい映画でございました。