「御用金」(1969)

 

雪景色がシンボリックな時代劇映画をU-NEXTで観ました。初見。

 

 

監督は五社英雄。予告編はコチラ

 

19世紀中頃、越前鯖井藩の漁村数十名が一晩で姿を消す事件が発生。奉公先から戻ってきたばかりのおりは(浅丘ルリ子)は、誰もいない集落の様子を見て呆然とします。「神隠し」が起きたと周辺住民も恐れおののくばかり。それから3年後、江戸の素浪人脇坂孫兵衛(仲代達矢)が刺客から命を狙われます。鯖井藩の神隠し事件の秘密を知る彼を始末しようとする勢力が企てた犯行です。幕府に上納する御用金を輸送途中に船が難破。その船から漁民が引き揚げた金を鯖井藩が没収。のみならず、口封じのために全員虐殺したのが神隠し事件の真相でした。当時、藩の要職に就いていた脇坂は、財政難を救う苦肉の策として金を奪うことまでは了承していたものの、漁民の皆殺しまでは許すことができず、事件首謀者で義兄でもある家老の六郷帯刀(丹波哲郎)と対立して、妻を捨てて脱藩していたというわけです。

 

鯖井藩が再度神隠しをしようとしていることを聞いて、脇坂は鯖井藩に戻ってきます。道中でチンピラ(常田富士男など)に追われる女賭博師助けたところ、その女が漁村の唯一の生き残りのおりはであることが判明。その様子を傍で見ている謎の浪人藤巻左門(中村錦之助)。一方、脇坂帰郷の情報を知った六郷は部下(夏八木勲)を使って動向を探ります。再び財政難に陥った現状を打破するには、二度と「神隠し」を行なわないという脇坂との約束を破るしかない状況に置かれた六郷は、脇坂を殺せないとも思っていて、脇坂の妻で実の妹しの(司葉子)を呼んで、一緒に逃げるように脇坂を説得してほしいと頼みます。その後、妻の制止を振り切る脇坂を鯖井藩の刺客が束になって襲い掛かってくるピンチを救ったのは、おりはと藤巻(実は、幕府の隠密)。そして、御用船が鯖井藩内の海を通り過ぎる当日。御用船を座礁させて御用金を奪おうとする藩と、それを阻止せんとする脇坂と有志たちは壮絶な死闘を演じることになって・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1969年5月1日。同時上映は「続・社長えんま帖」。フジテレビが初めて映画製作に乗り出した記念すべき1作。局のディレクターながらすでに映画監督もしていた五社英雄が、黒澤明やマカロニウエスタンのテイストを盛り込んだオリジナル脚本で臨んだ意欲作。その年で6番目の興行成績となるヒットを記録したそうです。撮影後の飲み会で主役の仲代達矢とケンカした三船敏郎が途中降板して、急遽中村錦之助が代役を務めたという逸話もあり。前年に東映から独立した錦之助に加えて、日活の浅丘ルリ子も共演。配給する東宝からは司葉子が出演。鯖井藩の刺客で西村晃、鯖井藩の重鎮の一人で東野英治郎、ガマの油売りで田中邦衛などをチョイ役レベルで投入する俳優陣も充実。下北半島でロケ撮影されたのも見どころの一つで、冬の寒々しい日本海を背景にダイナミックな時代劇が展開。思い入れたっぷりに撮った映像をできるだけ多く使いたかったのか、テンポが悪く冗長に感じる点、個々の俳優さんの演技トーンがバラバラで、全体の統制が利いていない点は否めませんが、豪華な詰め合わせ弁当を食べた気分にはさせてくれます。

 

主演の仲代達矢ギョロギョロした目つきだけが悪目立ちしてる印象。親友で義兄弟でもある丹波哲郎との最後の斬り合いもそんなに迫力がありません。中村錦之助演じる幕府の密偵役がストーリー上必要な役なのかも疑問。といった男優陣の評価はともかく、二大女優のスターらしい輝きには十分に魅了されました。まずは司葉子。当時35才前後(この年に結婚)のオトナの魅力とでもいうんでしょうか。眉毛ナシお歯黒でも落ち着いた美しさは健在で、夫に尽くす古めかしい女性像を堅実に演じています。そして、浅丘ルリ子。こちらは30才前後で、愛らしい美貌とベテランの貫録を感じます。チンピラに囚われて馬で引き摺り回されるのが本人かどうかは不明。藩を出ていく脇坂最後までついていこうとする司葉子には塩対応で、しなだれかかってくる浅丘ルリ子には手を出そうとしない仲代達矢にちょっとムカつきます。役のイメージ抜きで女優さんを艶っぽく撮りすぎていて、苦悩し続ける妻、身をやつした賭博師に見えない点はあるかも。まあ、豪華俳優共演の時代劇版マカロニウエスタンだと思えば、満足できる内容だと思います。