「スペンサー ダイアナの決意」(2021)

 

ダイアナ妃の物語をU-NEXTで観ました。

 

 

監督はパブロ・ラライン。予告編はコチラ

 

1991年のクリスマスシーズン。この時期はエリザベス女王私邸サンドリンガム・ハウスに集うのが、英国ロイヤルファミリーの恒例行事。結婚10年目のダイアナ妃(クリステン・スチュワート)チャールズ皇太子(ジャック・ファーシング)の仲は冷え冷え。不倫・離婚のスキャンダル、周囲の厳しい監視の日々がエンドレスに続いていて、ダイアナ妃のストレスはピークに達しています。スケジュールだけでなく、着る物までもガチガチに管理されてる生活の息苦しさに耐えられず、どこかに逃げ出したい衝動に駆られることもしばしば。安らぎを得られるのは、愛する二人の息子たちと接している時だけ。子供たちと無邪気に話すシーンはとてもキュートです。

 

で、身の回りの世話をしてくれる人に気を許せずにいたところ、衣装係のマギーが復帰してきたので喜ぶダイアナ。彼女だけは自分の心情を慮ってくれる理解者だったようです。味方と思えるのが一人いるぐらいでは状況に変化がなく、摂食障害、自殺の妄想、自傷行為とダイアナの奇行は続きます。16世紀に自殺した英国の王妃アン・ブーリンの悲劇を自分に重ね合わせていて、短い生涯を予感しているかのようなダイアナ。短いのに長く感じるクリスマスシーズンの女王私邸滞在期間の閉塞感を打破すべく、王室関係者を悩ませる行動に出るのであったが・・・というのが大まかなあらすじ。


原題は「Spencer」。ダイアナ妃の旧姓です。監督は「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」でも、実在の女性をモチーフにしています。本作は伝記映画ではなくて、ある数日間をダイアナ妃がこんな心理で過ごしたのではなかろうかという想像を映像化した内容。米国人女優のクリステン・スチュワートが英国風のアクセントに直してダイアナ妃に挑戦。実在した著名人を有名女優に迫真の演技をさせてアカデミー賞を狙わせるパターンの映画で、思惑通り、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされていました。元ボディガードによると、これまでダイアナ妃を演じた人の中で最も実際のダイアナ妃の雰囲気に近い演技を見せているそうです。クリステン・スチュワート好きなので、何度衣装チェンジをする姿を見るだけで満足でしたが、神経をすり減らした痛々しい様子が全編続く展開は結構しんどいです。厳粛な王室の雰囲気を切り取った美しい撮影が、本作ではダイアナを苦しめる恐怖の対象となっています。

 

皇太子ら王室関係者がレジャーとして楽しんでいるキジ狩りの場面が何度も出てきます。乗り気ではない息子たちにやらせたくないという気持ち以上に、他の関係者たちが狩猟をしていることを過剰に嫌がっているダイアナ。狩猟で撃たれるためだけに王室で養殖されていたキジに、がんじがらめになっている自分を見ているようでした。ラストにダイアナが起こした行動をネタバレでいうと・・・、息子二人を連れて車でちょっとお出かけをするという、ささやかな息抜きの行動でしかありません。現実には、1992年の皇太子と別居する道を選んで、その4年後に離婚しています。本作は王室を離れる方向に舵を取った第一歩を描いているようです。王室のしきたりという怪物が女性を追い詰める心理ホラーともいえる不思議な映画でございました。