「緋牡丹博徒 お命戴きます」(1971)

 

シリーズ第七弾をU-NEXTで観ました。

 

 

監督はシリーズ3作目となる加藤泰。予告編は見当たらず。

 

上州の伊香保温泉。久保田組の手下にイカサマをしたとして追われていた渡世人(汐路章)を助けたお竜さん(藤純子)。その賭場に行くと、イカサマをしていたのは久保田組側だったことが判明。胴師をしていた組長の弟、猪之助のイカサマを見破ったお竜と久保田組が揉めていたところを止めに入ったのが結城組の二代目組長結城(鶴田浩二)。最終的にたまたま温泉に来ていた大親分、大前田英次郎(嵐寛寿郎)が仲裁に入って、手打ちとなります。この1件で兄弟分の久保田組組長と結城の間に亀裂が入ります。結城と親しくなったお竜は父の七回忌で九州に帰りますが、数か月後に行われる高崎の勧進賭博の日までに再会することを約束して別れます。

 

上州では陸軍御用の兵器工場が垂れ流す汚水によって田んぼを台無しにされた周辺の百姓たちが悲鳴を上げていました。暴動しかねない百姓のために工場側との交渉に尽力していたのが結城。一方、工場側の利権を握っていたのは富岡組。組長の富岡(河津清三郎)は工場長の大村(内田朝雄)や陸軍監督官畑中大尉(大木実)と結託。民衆側に立つ結城がジャマで仕方ありません。久保田組も富岡組側に付いています。お竜が上州に戻って来たのは、畑中大尉結城がボコボコにされた頃。その後、富岡たちは工場本社が地域住民に対して支払うことになった保障金を着服、さらには結城自らの手で暗殺。お竜は状況を打破すべく、東京にいる陸軍大臣にアポなし直談判、陸軍に現地調査させることに成功。悪業の露見を恐れた富岡と畑中は、工場長大村に罪を全て被せて、自殺に見せかけて殺害。結城の初七日法要の日。全ては富岡一派の仕業であることを知ったお竜は、何事もなかったように線香を上げにやって来た富岡たちのいるお寺乗り込んできて・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1971年6月1日。同時上映は「懲役太郎 まむしの兄弟」。今回のお竜さんの活動範囲は、上州→九州→上州(ちょっとだけ東京)。上州が舞台になるのは第二作以来。助けてくれた結城と縁ができて、公害に苦しむ民衆の味方である結城を消そうとする悪徳ヤクザ側と対決するシンプルな内容。これまでスター男優の力を借りてラストバトルを演じたお竜さんが本作では単身で戦いに挑みます。お竜さんは妻に先立たれた結城に少し想いを寄せている感じで、慕ってくる結城の一人息子を母代わりになって可愛がります。結城の仇を討って乱れ髪になっている状態で、東京のお土産でプレゼントした色鉛筆で描いた自分の似顔絵を見せられるお竜さん。自分がヤクザ者であることを痛感する悲しいラストシーンです。喪服姿で髪を振り乱してヤクザに立ち向かうお竜さんの美しさが絶品で、雷鳴轟く中での討ち入りシーンはシリーズ最高の出来栄えだと思います。口上を述べるシーンの口元アップもお美しいです。

 

終盤ではお竜さんの得意技である直談判が炸裂。陸軍大臣に直接交渉なんてできるわけないはずですが、料亭で商談を行っていたのが、まさかの熊虎親分(若山富三郎)芸者とイチャついてるところを見られて焦った熊虎親分の力添えもあって、陸軍大臣への直訴に成功。セクハラしようとした大臣を投げ飛ばすお竜さんを気に入る豪快な大臣役は石山健二郎。熊虎親分の使いどころが上手いです。加藤泰映画常連の汐路章は、お竜さんが上州に滞在するキッカケとなる渡世人役。自分を信じてくれたお竜さんのために命を賭けます。もう一人の常連、沢淑子は上州の農民役でちゃっかり出演。他に、血の気が多い結城の弟分役には待田京介。結城の跡目の座をちらつかせられて悪の道に引きずり込まれるヤクザ役には、配役ドンピシャの名和広。ポスターに記載されてる沼田曜一は出演しておらず、猪之助役あたりで出演予定だったのかもと予想。残念なのは、これまでのシリーズで必ず悪役で登場していた天津敏が出ていないこと。ただ、資本家も軍人も手玉に取るヤクザを演じた河津清三郎の悪役ぶりはシリーズ屈指。あと、蓑和田良太が賭場の合力役でシリーズ初出演しています。