「裏窓」(1955)

 

ヒッチコック円熟期の名作をU-NEXTで観ました。

 

 

ピアニストの部屋でウロチョロしてるのが、アルフレッド・ヒッチコック監督。予告編はコチラ。淀川長治の解説はコチラ

 

足を骨折したため、アパートで2か月以上も車椅子での引き籠り生活を送っているカメラマンのジェフ(ジェームズ・スチュアート)。NYマンハッタンのグリニッジヴィレッジ在住の40代独身。何にもすることもないので、カメラの望遠レンズで向かいのアパート住人を定点観測するのが日課です。退屈な日常の鬱憤を和らげてくれるのは、訪問看護師ステラ(セルマ・リッター)とのたわいのない会話。そして、足繫く訪ねて来る恋人リザ(グレース・ケリー)の存在。20代中盤の超絶美女で金持ちの令嬢。職業はファッションモデル。リザはジェフに夢中だけど、ジェフの方が生活環境の違いを気にして、結婚には及び腰。贅沢な野郎です

アート志向の人間が住むだけあって、ジェフが覗いている住人達は多種多様。いつもボディを見せびらかすようにストレッチしている若手ダンサー子犬を子供のように可愛がる熟年夫婦愛の歌を奏でる悩めるピアニスト風変わりな現代アートを創作するおばさん孤独な夜を過ごす独身中年女や、アツアツの新婚夫婦もいます。その中の一人、いつも夫婦喧嘩をしている中年男(レイモンド・バー)の動きに怪しさを感じたジェフは妻を殺したのではと推理しますが、友人のドイル刑事ステラもリザも真に受けてくれません。しかし、次第にジェフの考えを信じるようになったリザがジェフに代わって捜査を開始。愛するジェフのためにと張りきったリザは、大胆にも中年男の不在時に部屋の侵入に成功、とここまでは良かったのですが、すぐに戻って来た中年男に捕まってしまい・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「Rear Window」。邦題は直訳です。ヒッチコック映画で最大のヒット作だったそうです。巨大セットで作られたアパートの一室からカメラがほぼ一歩も出ないシチュエーションで作られた世界は、まさに職人芸。サスペンスの大家だけにスリリングなシーンもありますが、いま観るとラブストーリーに比重を置いた作り。コーネル・ウールリッチによる原作の短編には、恋愛要素が入ってないようです。近所に住む人たちのさまざまな愛の形を垣間見るジェフ。妻を殺した中年男も妻の浮気を疑う嫉妬心からの犯行(という設定らしい)。リザの愛を受けとめる覚悟のなかったジェフも、二人で殺人事件に巻き込まれて(自ら絡んでいったというのが正解か)棺桶に片足を突っ込んだ体験を契機に、折れた両足をリザとの人生に突っ込んでいくであろう結末を迎えます。狭い空間で起きる物語なのに、大人の恋の行方を遊び心と優雅な気分で描いていて、ゴージャスにすら感じます。

 

とにかく、グレース・ケリーを愛でる映画かなと。最初に顔のアップで登場するシーンから、美しさに息を飲みます。いつか、大きなスクリーンで観てみたいなあ。独身男の部屋ファッションショーのように衣装替えをするグレースネグリジェ姿もGOOD。背中の開いた後ろ姿にもゾクッとします。ジェフ以上に殺人事件の解決にノリノリになって、殺されたであろう中年男の妻の結婚指輪を填めて、向かいのアパートにいるジェフにアピールする仕草もキュート。そんな女性に惚れられる年上の男をジェームズ・スチュアートに演じさせてヒッチコック自身の願望を叶えているんだろうと想像するとちょっとキモイですが、初見時以上にグレース・ケリーの魅力にノックアウトされてしまいました。なお、同じ原作を使った1998年のTVムービーでは、クリストファー・リーヴが交通事故で首から下が不随となった男という実生活に近づけた役柄(共演はダリル・ハンナ)で、療養中のアパートの一室から覗いてしまった殺人事件を解決する内容でリメイクされています。