「めし」(1951)

 

原節子東宝専属第1回主演作品をNETFLIXで観ました。

 

 

監督は成瀬巳喜男。

 

倦怠期真っ只中の岡本初之輔(上原謙)と三千代(原節子)の夫婦。東京から大阪に転勤で引っ越してきてはや数年、庶民的で慎ましい生活を送る二人。夫からの会話は食事がいつになるのかぐらいで、夫の使用人をしているだけの日々が続く三千代。ある日、初之輔の姪、里子(島崎雪子)が家出して東京からやって来て、しばらく泊めてあげることに。近所のドラ息子(大泉滉)と遊び廻ったり、家の向かいに住む二号さんの家に出入りしたり、初之輔にも色目を使ってみたり、奔放な態度に心を乱される三千代。初之輔もまんざらでもない感じで鼻の下を伸ばしているのがムカつきます。久々に会った同窓生からは幸せそうに見えるとうらやましがられますが、内心は真逆。東京に戻る里子を送るついでに、自分も東京に戻ってしばらく冷却期間を置くことにします。一度は、大阪には戻らぬつもりで新たな職を探そうとも思ったものの、なんやかんやしているうちに結局、自分の居場所は初之輔の傍だと悟った三千代は、東京に来て連れ戻しに来た初之輔と共に大阪に帰って、また再び安らぎのある日常に戻るのであった・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1951年11月23日。のちに傑作を連発する林芙美子モノの第一弾。この年の6月に急死して未完の絶筆となった原作をすぐに映画化してヒットしたようです。単に大阪ロケをしてるだけの夫婦モノでしかないですが、ポスターでは超大作扱いですね。実際、大したことは何も起きません。倦怠期の夫婦がちょっと距離を置いてみて、お互いの存在の大切さに気づくというだけのお話。戦後まもない時代の結婚した一人の女性が、一社会人としてどうやって生きていくべきかという点をきめ細やかな日常のスケッチをベースに描いています。平凡な主婦、シングルマザー、愛人、共働き、無職とさまざまな立場の女性を上手く登場させています。登場人物がいとこや姪と怪しい仲になりそうな空気に少しザワつきます。一部の田舎を除いてはもう失われてしまった日本の風景、近所・友人・知人・親戚・親との人間関係などの誇張がない描写がとても貴重。1953年頃まで存在していた大阪宗右衛門町にあったキャバレーメトロの映像もレア。

 

所帯じみた主婦像を原節子なりに好演。飄々とした上原謙と共にやはり華があります。淡々とした日常を引っ掻き回す島崎雪子がおいしい役どころ。原節子の実家にいる母の杉村春子妹の杉葉子その夫の小林桂樹の3人のアンサンブルが特に良かったですね。他には、コメディリリーフの大泉滉がいいアクセントになってます。また、原節子が大阪在住の同窓生が集まった女子会に出演してた風見章子が、後年のお婆さん役の印象が強かっただけに、とても美人さんに見えました。一番の名演は、夫婦二人と付かず離れず暮らしているネコだったかも。