「乱れる」(1964)

 

U-NEXTで成瀬巳喜男のメロドラマの名作を観ました。

 

 

戦時中、山形から学徒動員で清水にやって来た際に見初められて18才で酒屋の長男と結婚した高峰秀子が主人公。結婚してすぐ旦那は戦死、空襲で焼けた酒屋を女一人で切り盛りして酒屋を再建させた頑張り屋の戦争未亡人。東京五輪景気で高度経済成長時代だった昭和30年代後半、スーパーマーケットが台頭してきて街の小売店には逆風が吹いてきており、近所の八百屋が資金難で自殺を図るなど、全ての人が好景気に沸いていたわけではなかったようです。次男の加山雄三は会社を辞めて、プー太郎になって実家でブラブラしていて頼りになりません。

 

そんな中、立地のいい酒屋を畳んでスーパーマーケットにするという話に周りの家族は賛同、そうなると、よそ者の高峰秀子の存在が邪魔になって、それとなく追い出そうと画策します。小さいころからずっと自分に優しくしてくれた11才年上の高峰秀子を慕う加山雄三は彼女をかばおうとしますが、姉としてではなく、一人の女性として愛していることをつい告白してしまい、高峰秀子はうろたえます。気まずい関係に堪えかねた高峰秀子は山形の実家に戻ることを決意して清水を出ますが、加山雄三が後を追って同じ電車に乗って・・・というコテコテのメロドラマです。

 

高峰秀子の表情で見せる繊細な演技と棒演技気味の加山雄三が妙にマッチしていました。細かい心理描写と昭和30年代当時の普通の街並みや山形の古びた温泉街のたたずまいにも風情があります。清水から上野経由で山形に向かう長い列車の道中で少しずつ距離を詰めていく2人の関係性にもしっとりとした色気を感じます。気持ちが昂った高峰秀子は実家の最寄り駅の少し手前の駅で下車して温泉で一夜を共にすると思いきや、最後はこんな表情で終わります。

 

脅威となるスーパーマーケットの宣伝カーからは当時の大ヒット曲『高校三年生』の音楽が繰り返し流れてきて、小売店側に肩入れしている自分の感情を逆なでします。そういった地元のスーパーマーケットもイオンモールの台頭で当時の潰れてしまった小売店と同じ目に遭うことになります。そう考えると、戦後から今でも営業を続けている商店街の小売店はすごいですね。頭が下がります。

 

成瀬巳喜男のフィルモグラフィーを改めてチェックしてみたら、まだ13本しか監督作品を観ていませんでした。どの映画も力みがなくて、サラッとした映像でありながら、細かい心理描写を積み重ねていて、たまにハッとさせられる場面もあって、シンプルな面白さがあります。自分が観た中でいうと、「晩菊」(1954)「流れる」(1956)「乱れ雲」(1967)の3本が好きです。特に、加山雄三がまたしても禁断の恋に悩む青年を演じた、成瀬監督の遺作でもある「乱れ雲」がお気に入りです。