「北陸代理戦争」

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「北陸代理戦争」(1977)

 

深作欣二の最後の実録やくざ映画を久々に観ました。

 

 

"北陸の帝王"と呼ばれた実在のやくざをモデルにした実録映画。

 

「新仁義なき戦い」(1974)シリーズの1作として企画されたものの、菅原文太が出演を断って別物として製作されたこと、渡瀬恒彦が撮影中、大怪我をして降板、伊吹吾郎に代わったこと、映画公開後に事件が起きてモデルとなったやくざが殺されてしまったこと、この映画のドキュメンタリー本として『映画の奈落』という著作があること等がこの映画に関する基礎知識になります。

 

主人公の川田登(松方弘樹)が競艇場の利権譲渡の約束を反故にした制裁として、親分(西村晃)を雪の地面に埋めて車で轢き殺そうとする脅しから映画は始まります。兄貴分(ハナ肇)を差し置いて、暴力でのし上がろうとする川田。福井県内の勢力争いに全国制覇を目論む大阪浅田組の"殺しの軍団"金井組が介入。次第に大阪浅田組の代理戦争と化していく抗争劇。

 

所詮ローカルの争いごとでしかないので、役者の顔ぶれがやや小粒です。男社会の中で自らの意思でサバイブしていくたくましい女性像は一連の「仁義なき戦い」シリーズにはあまりない点で、雪の中での撮影場面もビジュアル面で新鮮味を出しています。クライマックスの見せしめも冒頭と同じく、川田のお家芸が炸裂します。抗争するたびに相手を雪に埋める川田。恐ろしいです。「仁義なき戦い」の音楽に似たフレーズ(チャララーンで始まるヤツ)も効果的に使われています。松方弘樹がギラギラした暴れん坊を好演、この男に翻弄される姉妹(野川由美子と高橋洋子)の組み合わせも珍しく、華を添えています。西村晃とハナ肇の小物っぷりコンビも面白いです。なお、今作での簑和田良太は服役中の川田が収監されている刑務所場面の看守役で出ていました。

 

抗争渦中での映画製作・公開だったため、映画内ではこの後さらに勢いを増して暴れそうな形で終わる川田のモデルになったやくざは、公開後、地元の喫茶店で射殺されてしまう事件が起きました。ちなみに、福井県内では映画は公開されなかったそうです。小さい頃だったので全然知らなかったのですが、松方弘樹が演じた実在の人物は私の実家から徒歩で行ける所に住んでいました。