「女群西部へ!」(1951)

 

花嫁候補が全米を大移動する異色西部劇をAmazonプライムビデオで観ました。初見。

 

 

監督はウィリアム・A・ウェルマン。予告編はコチラ

 

1851年のカリフォルニア100人あまりの従業員を抱える大きな牧場を営むロイ(ジョン・マッキンタイア)。マジメに働いてくれる男たちに幸せな結婚をさせたいと思っていますが、この土地には女がいません。そこで、彼らの花嫁になってくれる女性を探すため、連れてくる花嫁候補を無事に送り届けるために雇ったカウボーイのバック(ロバート・テイラー)と一緒に大都会シカゴへ向かいます。現地で説明会を開くと、夫と死別した女子持ちのシングルマザー妊娠中の女性、教師、ダンサーなどのさまざまな女性が新しい土地での生活を求めて、花嫁に応募してきます。カリフォルニアまでの道のりで交通手段があるのは途中までで、残りの約3200kmは幌馬車で山や川、砂漠を越えなければいけません。先住民の襲撃や大嵐の恐れもあるので、3分の1は死んでしまう可能性があります。そんな過酷な旅であることを了承した140人の花嫁候補たちと、護衛として雇った15人の男たちと共にアメリカ大陸横断を開始するロイとバック。

 

140人の女性20台以上の幌馬車で一斉に移動させるわけですから、何度も大陸横断を経験したことのあるバックにとっても想像以上の旅となります。先住民の襲撃をなんとかクリアした後、トラブルを起こしたのは護衛の男。花嫁候補に手を出したら処刑するという決め事を破った男が現れて、さっそく追放するバック。反抗する護衛人を射殺して、自ら幌馬車を運転して頑張る女性たちをコキ使うバックの姿を見て、護衛の男たちは数人の女性を引き連れて去っていきます。残った男はバックと、老人のロイ、二人の護衛のみ。先住民の襲撃に備えて、バックは女性たちに射撃を教えます。その後、急勾配の谷を乗り越える試練では数名の女性が死亡。さらなる先住民の襲撃で、ロイ護衛の一人、女性も数名が死亡。それでも、自分で命を守ることを決意した花嫁候補たちはあきらめずに前進を続けますいくつもの苦難を共有して、たくましくなった女性たちを次第にリスペクトしていくバック。そして、旅はようやく終わりに近づいて・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「Westward the Women」。"西へ向かう女たち"といった意味。邦題は分かりづらいですが、映画の中身は単純明快。輸送するお宝が生身の女性たちである点が秀逸。文字通り山あり谷ありの展開で、ハラハラヤキモキさせてくれる極上のエンタメ作品でした。花婿候補の写真を提示されて気に入った男を選んで結婚していいという指名システムの話に乗った女たち。銃の腕前が確かな人もいれば、女同士で殴り合いのケンカをする威勢のいい人もいます。男性に助けられてではなく、身体を張った行動力とガッツで自ら局面を打開していく女性たちにエールを送りたくなります。広大な砂漠で仲間が出産する場面で、産まれてきた赤ちゃんの泣き声が聞こえて連帯感が強くなる瞬間も胸アツ。女に平気でムチを打ってビンタもかます女性蔑視丸出しのバックが、懸命な女性たちに感化されてフェミニストへと成長していく物語にもなっています。もちろん、互いに惹かれ合う運命の人との出会いもあり。純朴な従業員たち待望の花嫁たちと初対面するラストシーンはハリウッド映画らしいさわやかな感動を呼びます。

 

一方で、ハッピーエンドを迎えるだろうと思っていたキャラが男女問わずポンポンと死んでいく展開はなにげに壮絶。劇中にBGMはほとんどなく、ドキュメンタリータッチでハードな旅路を描いていて、開拓時代のシビアな現実の側面を見た気にもなります。ほぼ全編ロケ撮影の映像は雄大で、ロードムービーとしても十分に楽しめました。本作の原案はフランク・キャプラで、もともとはゲイリー・クーパー主演で映画化するつもりだったとのこと。大らかなユーモアがあるところはキャプラ映画っぽくもあります。その映画化権を譲り受けたのは、名匠ウィリアム・A・ウェルマン。日本人として印象に残るのは、コメディリリーフとして活躍する日系人の護衛役のヘンリー・ナカムラという役者さんの存在。自己紹介では「イトー・ヨシスケ・タケヨシ・ゲンノスケ・ケンタロー」だと名乗ります。片言の日本語でブツブツ文句を言いながら、女だらけの道中でバックをサポートする役どころ。まあ、一番の主役は幸せを掴むために奮闘する女性たちで、彼女たちがカッコ良く輝いていた映画でございました。

 

 

 

 

「アイデア・オブ・ユー ~大人の愛が叶うまで~」(2024)

 

ときめく中年女のラブストーリーをAmazonプライムビデオで観ました。

 

 

監督はマイケル・ショウォルター。予告編はコチラ

 

40歳のシングルマザーのソレーヌ(アン・ハサウェイ)が主人公。20代前半で結婚してすぐ出産。弁護士になった夫が同僚と不倫・再婚して以来、女手一つで愛娘を育ててきました。LAのシルバーレイクで画廊を経営している美女ですが、恋愛はずっとご無沙汰。ある日、女子高生の娘イジー(エラ・ルービン)の付き添いで同行した野外音楽フェス"コーチェラ"で、世界的人気のアイドルグループ『オーガスト・ムーン』のリードボーカルを務めるヘイズ・キャンベル(ニコラス・ガリツィン)の専用トレーラーに間違えて入ってしまったことで、偶然の出会いを果たします。一目惚れしたのはヘイズ。アン・ハサウェイだから仕方ありません。で、その後、ソレーヌの画廊に突然やって来て、飾ってあるアート作品を全部買い上げたかと思うと、猛烈アプローチ。ヘイズのストレートな思いを受け止めたソレーヌは、自宅で熱い一夜を過ごします。翌朝、正気に返ったソレーヌはこれっきりにしましょうとヘイズに通告。ヘイズはソレーヌを忘れることができず、これから始まる欧州ツアーに一緒に来ないかと誘います。

 

娘がサマーキャンプで不在だということもあり、自分に正直な行動に出ることにしたソレーヌ。バルセロナ、パリ、ローマなどを巡業するオーガスト・ムーンに同行して、大スターの恋人気分を満喫。24才のヘイズにとっては軽い遊びなのかと思ったら、どうやらソレーヌへの気持ちは本物のようで、10代から安っぽいアイドル路線で脚光を浴びる生活に空虚感を持っていること、ソレーヌと一緒にいると心が安らぐことを真面目に語ります。そんなヘイズを愛おしく感じるソレーヌ。しかし、欧州ツアーの合間に南仏へのバカンスに出かけた時、自分がただのおばさんである現実を突きつけられる出来事があったため、失意のままでLAに戻ることになります。帰国後、熱愛現場の写真が芸能ニュースで報じられて、強欲ババアと叩かれるソレーヌ。遅れて帰国したヘイズは再度ソレーヌにアプローチ。一度は復縁するも、加熱する報道に滅入ってしまった娘の姿を見て、ソレーヌがまたまた決別宣言。短期間でくっついたり離れたりを繰り返した二人がしばらく冷却期間を置いてから・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「The Idea of You」。同名の人気恋愛小説が原作とのこと。「ノッティングヒルの恋人」(1999)のシチュエーションを男女逆転させた設定。バツイチ中年女がスーパースターと運命の出会いをして、何度別れてようとしてもずっと愛される夢のようなド直球すぎる展開。自然に年を重ねて、今もなお魅力的なソレーヌ。そんな彼女の美しさと知性と母性に夢中になるヘイズ。若いイケメンに熱烈に愛されて夢見心地になりつつ、現実とのギャップに戸惑うソレーヌ。このままでいいのかしら。。。でも、ずっと上手くいくはずがないわ。。。勝手にやってろっ!と思ってしまったら負けで、自分がアン・ハサウェイになったつもりで観ると楽しめます。ソレーヌが3度目の別れを告げた時、5年待てば今より落ち着いた恋愛ができるはずと言うヘイズ。(5年の月日は)長すぎるわと嘆くソレーヌ。すると、話は急に5年後に切り替わって、大団円のラストシーンを迎えます。スターを演じるニコラス・ガリツィンが想像以上に誠実なキャラで、一途に思い続けてそうな空気を上手く醸し出しています。歌も上手いです。

 

 

 

「密輸1970」(2023)

 

海女さんが躍動する漁村クライムアクションを旅の帰りにMOVIXさいたまで観ました。

 

 

監督はリュ・スンワン。予告編はコチラ

 

1970年代半ばの韓国のクンチョンという漁村が舞台。海辺に作られた化学工場の廃棄物で海水が汚染されてしまったため、地元の漁業は壊滅的な状況。そこで働く海女さんたちも職を失うピンチに陥ります。海女さんチームのリーダー的存在のジンスク(ヨム・ジョンア)は仲間の生活を守るため、漁船の船長である父を説得して、海底から密輸品を引き揚げるアブナイ仕事を請け負います。羽振りのいい生活ができたのは一瞬だけで、作業中にとうとう税関に摘発されて一斉検挙。慌てて逃げようとした時に父と兄は海に落ちて、モーターに巻き込まれて即死。ジンスクは首謀者として実刑を食らいます彼女の親友海女さん仲間チュンジャ(キム・ヘス)だけが現場から逃亡したため、密輸を取り締まる税関のジャンチュン係長(キム・ジョンス)に密告した裏切者だと疑われます。それから2年後。逃げ延びたソウルで密売人としてアブナイ仕事をしていたチュンジャは、韓国最大の密輸王クォン軍曹(チョ・インソン)命を奪われる危機が訪れていました。

 

故郷のクンチョンなら絶好の密輸スポット海女さんを使った仕事ができて、新たな市場が開拓できるとクォン軍曹に提案して、なんとか殺害を免れるチュンジャ。久々に戻って来たクンチョンはかつての弟分だったドリ(パク・ジョンミン)が街を牛耳っていました。海女さんたちは相変わらず薄給のままで、ドリが仕切る密輸の手伝いを行っています。出所したジンスクもその一人。昔の仲間を不遇から脱出させるためにクォン軍曹の密輸話を旧友のジンスクに持ちかけるも、裏切者のレッテルを貼られたままのチュンジャをなかなか信じようとしません。やがて、さらなる生活苦にあえぐ仲間のために密輸を引き受けることにするジンスク。そこに、クンチョンを支配下に治めようとするクォン軍曹が現地入り。地元利権を守ろうとするドリの一味大掛かりな密輸案件を阻止せんとする税関、仲間との友情を取り戻したいチュンジャ、一発逆転を狙う海女さんたちが入り乱れての大仕事の行方は・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「밀수」。そのまんま"密輸"という意味。裏仕事に手を出すことになった海女さんが悪党に一泡吹かせようとするクライムムービー。「ベルリンファイル」(2013)「ベテラン」(2015)「モガディシュ 脱出までの14日間」(2021)など、ツボを押さえたエンタメ演出に定評のある監督さんだけに、そこそこの面白さはあるだろうと思ってましたが、後半から終盤にかけて畳みかけてくる怒涛の展開は想定の上を行っていました。正義感の強いジンスク、無謀な行動力のあるチュンジャの女二人による愛憎半ばする対立劇を軸にして、ヘタレキャラからボスに成り上がったドリ、密輸王と恐れられていて戦闘能力も高いクォン軍曹、ちょっと頼りなさそうな税関のおじさんが絡み合う群像劇。それぞれの思惑が交差しながらの騙し合いも後半で加速。密室海中での殺し合いが繰り広げられて、さらには人食いザメまで登場する大サービス。そもそも、冒頭での海女さんの仕事ぶりの描写から別世界へといざなってくれます。

 

主演は韓国の余貴美子といった貫録のあるキム・ヘス。シリアスもコミカルも器用にこなせる彼女と、ずっと仏頂面のヨム・ジョンア(最後に見せる笑顔もいい)とのコントラストも効いています。ドリを演じるパク・ジョンミンの滑稽な味わいも良し。名脇役のキム・ジョンスも重要な役どころで物語を賑やかします。一番魅力的だったのは、カフェの女中からマダムに出世して、ドリの情婦でもありながら、海女さん側について戦うオップンを演じるコ・ミンシ。ウソ泣きの演技でハッタリをかまう度胸と捨て身で悪党に立ち向かう根性に惚れてしまいました。クォン軍曹の右腕的存在片目の男など、サブキャラにいたるまで個々のキャラクターを魅力的に立たせるのがとても上手い監督さんです。ユーモラスなトーンが全編を貫いていて、残酷描写は控えめ。当時の韓国で流行った音楽や衣装を使ったレトロ感も楽しく、ガールズエンパワーメントムービーの傑作でございました。あと、密輸品の中にはこんな雑誌も出てました。