英語の勉強法に関するアドバイスの中で、次を目にすることが頻繁にあります。
「何度も繰り返し口に出して、スラっと言えるように練習しなさい。」
このアドバイスは、私には強い ”違和感” があります。
私は、英文の反復による暗記は効果が大きくないと考えています。
このアドバイスは、日本で英語を勉強する学習者に対して次の様な印象を与えてしまいます。
「同じ文を何度も繰り返して言えば、暗記できる。
暗記すれば、外国人を前にして、スラっと英語を話すことができるようになる。
反復を繰り返すことで、英語が話せるようになる。」
私は、”一部の例外” を除いて、英文を ”反復” して言う練習をすることはお勧めしていません。
英文を覚えても、そのまま使えることは殆どありません。
私が沢山経験しましたから確かです。
その経験をご説明します。
私は仕事で欧米のIT企業と契約交渉する多くの機会があります。
ヨーロッパでは、英語圏以外の国にも頻繁に訪問します。
フランス、ドイツ、ベルギー、オーストリア、イタリア、などです。
契約交渉は全て英語ですが、「挨拶や簡単な会話は現地の言葉で行いたい」と思っていますので、
私はそれぞれの国の会話本を必ず持参します。
次の様な会話本です。
仕事中は全て英語ですが、会食中や別れ際などに少しその国の言葉を使ってみると、相手がとても明るい顔になるのが分かります。
因みに、韓国にも仕事で通っていた時期がありましたので、韓国語の文字「ハングル」も読めるようにして準備して出張していました。
ハングルが読めると、"音(発音)” が分かりますので、韓国語自体は理解できませんが外来語は読むことができます。
例えば、「コンピューター」とか、「ミツビシ」とかです。
簡単な挨拶だけでもその国の言葉が使えることを、私は結構楽しんでいます。
韓国人の知り合いに電話をしたことがありました。
その方は日本語がとてもお上手なのですが、私は少し韓国語を試してみようと考えて次の様に言いました。
「ヨボセヨ(もしもし)。
ユンxxx イムニダ?(ユンxxxさんお願いできますか?)」
すると相手が韓国語で話し始めました。
私が「分からない」と言うと、相手の方が、
「あ~、びっくりした。韓国人からの電話かと思いました。」
このような会話も外国語の楽しみ方の一つかと。
さて本題に戻します。
これらの本には、「入国」、「食べる」、「ショッピング」などシチュエーション別に会話例が掲載されています。
レストランに行く時にもこの本を持参します。
ところが、言いたいことを本で探してみるのですがなかなか言いたいことが見つかりません。
凡そ300ページくらいの本ですが、その内の150ページに会話文が掲載されているとして、1ページに10の文があれば、1冊に約1,500の会話文が掲載されている計算になります。
例えば、この1,500の文を暗記したとしても、レストランで言いたいことの多くは(殆どは)言えないわけです。
それでも、私がこれらの会話本を愛用していることも確かです。
自己紹介やお礼の言い方など使える表現も当然掲載されていますので、今でもヨーロッパや韓国に行く時は必ずこれらの会話本は持参しています。
ヒトの会話の文は非常に多岐に渡っています。
暗記した文をそのまま言って会話が続くことは、まずありません。
例えば、「会議で使う英文集」のような本を見かけたことがありますが、実際の会議でそれらの文が使えるはずはありません。
登場する動詞や熟語などを参考にすることには、勿論役に立つはずです。
しかし、会議の場はそのままの例文を並べて進行させることは不可能です。
会議では、少しでも売り上げを上げるために全員が知恵を絞って、新しい発想で発言します。
本に掲載されている文を中心に進むような会議は意味がありません。
会話をする場合に使えるのは、『暗記した文ではない』ということです。
英語が話せるようになるには、『その場で "英作文" することが絶対に必要です』
つまり、必要なことは英文を暗記することではなく、英作文力を付けることです。
また、”スラっと”言えるようにすることにも意味が殆どありません。
必要なことはすらっと言うことではなく、”言いたいことを少しでも正確に英語にして相手に伝えること”です。
ゆっくりしたスピードでも、言いたいことが言えることが重要です。
スピードは、慣れれば ”自然と” 速くなります。
「英文を覚えれば、応用することで部分的には使える」
というご意見があるかもしれません。
確かにそれも多少はありますが、瞬時に正しい分に修正するための英文法力、単語力、つまり英作文力は必ず必要です。
冒頭で次の様に書きました。
「私は、”一部の例外” を除いて、英文を”反復”して言う練習をすることはお勧めしていません。」
ここで言う、”一部の例外” とは、挨拶分や短い決まり文句です。
例えば、次の様な。
Nice to meet you.
How are you.
I appreciate your kindness.
It's up to you.
・・・・
NHKのラジオ講座テキストの視聴者コメント欄で、
「テキストのストーリーを全て暗記しました。」
というご発言を見たことがあります。
「英文を覚えることが楽しい。」「覚えたい」という方がおやりになることは素晴らしいと思います。
しかし一般的には、英文を暗記すれば英語が話せるようになると思うことは危険だと思います。
掛ける労力、時間の割に成果は期待できません。
私がこれまで何10年の間にやってきたことは英文の暗記ではありません。
英語が口から出てくるようになった練習法を書籍に纏めています。
”英語の勉強に無駄な時間を使いたくない”とお考えの方に是非読んで頂きたいと思います。
また、英語を指導されている方にも参考になるはずです。