腸疾患の私に食品ロス削減は難しい | 潰瘍性大腸炎さんがなかなか別れてくれない

潰瘍性大腸炎さんがなかなか別れてくれない

潰瘍性大腸炎歴30年目で大腸全摘した人のブログです。

手術後も潰瘍性大腸炎の薬が必要になるとは思っていませんでした。
潰瘍性大腸炎さん、いつになったらわたしと別れてくれますか?

ごちそうさまをする男性のイラスト

10月は「食品ロス削減月間」だ。食品ロス削減推進法*1 で定められている。先日、子が学校の朝会で食品ロスに関する話を聞いたと教えてくれて思い出した。朝会では SDGs も絡めて話をされたらしく、子にあれこれ質問された私は困った。私は過去に携わった仕事の影響で、SDGs は EU の国際戦略という見方が強い。そして日本の食品ロスの定義についても疑問が大有りだったからだ。

 

 

国際連合(国連)が 2015 年に採択した SDGs は全部で17のゴールがあり、そのうちの一つ「つくる責任 使う責任」の一部には確かに食品廃棄削減もターゲットとされている。しかし国連の云う食品ロスは国連食料農業機関(FAO)が定義している「人の消費に当てることのできる食料がサプライチェーンの様々な段階で失われて量が減ること」だったはず。だから削減もサプライチェーンの各段階に位置する企業の責任ではなかったか。

 

その数年後に日本で施行された食品ロス削減推進法は明らかに SDGs を意識している。が、食品ロスの定義は「本来食べられるにもかかわらず捨てられる食品」と、FAO と比べずいぶん解釈の広いものになった。以前からあった食品リサイクル法*2 と比べても、家庭ごみも対象にしたのが特徴だ。その結果、一般消費者一人一人に削減を求める政策ができあがった。

 

しかも、「本来食べられるにもかかわらず捨てられる食品」には次の3つも含まれる(法律の解説が目的ではないため本稿に関する部分のみ掲載)。

  • 可食部の過剰除去
  • 食べ残し
  • 手付かずのままの廃棄

腸疾患を抱える私にとって、この3つの削減は難しい。これにはそれぞれ理由がある。

 

 

◾️可食部の過剰除去を減らすことが難しい理由

 

私は持病の腸疾患の悪化と再発を防ぐために日頃から消化に悪い食べ物を避けている。だから自分で料理をするときは食材から消化に悪い部分を取り除く。具体的には野菜の皮、芯、種、肉の脂身部分や鶏肉の皮など。しかしこれらは人によっては食べられるとされる部分。だから私の行為は可食部の過剰除去。

 

ただし除去は私の健康と病気予防のために行なっているので、するなと云われても困る。一般に健康に良いとされる食事と消化に良い食事は違うのだ。消化に良い食事を作ろうとすれば除去は必要。

 

可食部という表現も、食材のどこを可食部と考えるかは地域の食習慣や文化によっても異なるのではなかろうか。また「食べられる」と食べて美味しいかどうかは別で、「食べられる」と消化吸収できるかどうかも別。それなのに、食品ロス削減推進法の「食べられる」は人間が口に入れて飲み込むことが可能という意味のように感じる。

 

 

◾️食べ残ししないことが難しい理由

 

私は自分以外の人が用意した食事を残さず食べることが難しい。元々苦手な食材があることと、持病の悪化を予防するため避けたい食材があること、病気予防のため一回の食事量を少なくしていること、人より少い量で満腹になることが原因だ。だから外食で何も残さず食べきることも難しい。ただ、実践している対策はある。

 

一つ目は、誰かと一緒に食べに行くこと。

私の場合、夫と外食に行けば私が食べられない食材や食べきれない分を夫が食べてくれる。それが夫の好きな食材であったり本人がぜひ食べたいと言うなら両得だ。しかしそうではない場合、人の胃袋をゴミ箱代わりにしているようであまり好きではない。

 

二つ目は、食材を除いてもらうこと。

これには課題がある。メニューに使っている食材が表示されているか写真が載っていればよいが、どちらもないと想像で聞くしかない。スタッフに聞いても知らない場合があり確認に時間がかかる。また、あらかじめセントラルキッチンなどで調理済み食材がパック詰めされている業態の飲食店もあるため、店のキッチンでは食材除去が難しいメニューも多い。

 

三つ目は、量を減らしてもらうこと。

定食のライスは小盛りに変更すると金額を割り引いてくれる店がある。それ以外の店では金額は変わらなくていいと断った上で量を減らしてもらう。ライスは炊飯器でまとめて炊くから提供量を調整しやすいのかもしれない。しかしそれ以外の料理では、提供時に量を減らしてもらってもその分店の廃棄になるだけで全体の廃棄(食品ロス)量はほとんど変わらないのでは? と思う。シェフが仕入れも仕込みも調理も一通り行っている店を除いて。

 

政府は外食時の食べ残し(食品ロス)が多いとして、消費者庁が客に食べきろうと投げかけ*3、環境省が食べ残しの持ち帰りを促している*4。しかし、ビジネスの視点で見れば料理を残されるのは提供した店側の問題。食べ残しの廃棄料は他の経費とともに飲食代に含まれる。それなのに、なぜ料金を支払う側に努力を求め、責任を感じさせるようなやり方を推し進めるのだろう。消費者の方が動かしやすいからだろうか。

 

もともと外食産業の大人一人前は量もカロリーも多くなりがちなのだ。とくに店が提供量を重視していたり客単価を意識している場合。作る手間がさほど変わらないなら、ボリュームを出してその分高い料金を設定した方が店の売上は上がる。客の満足感を高めようとして量を多くしてる場合もあるし、量が少ないと苦情を言われるより残された方がマシと考えている場合もある。料理の見栄えを重視して、客が好むとは言い難い食材が添えられることだってある。飲食店での食べ残しにはそんな店側の経営戦略も影響していると私は考えている。

 

以前、会社の飲み会で、先輩社員が残したコース料理の品々を「若いんだからもっと食べろよ」と促され満腹なのに仕方なく料理を口に運んでいた同僚がいた(私は無理しなくていいよと言うしかできなかった)。会社主催のイベントでは、売れ残った屋台の焼きそばを「一人暮らしなんだから明日食べれば食費浮くじゃん」と押し付けられて迷惑していた後輩がいた(私が代わりに持ち帰って子らが食べた)。宴会での食べきり推進には、このような食ハラスメントを助長する危険も潜む。

 

また、衛生的に考えれば誰かの食べ残しは誰も食べるべきでないだろう。だから食べ残しを「本来食べられるにもかかわらず捨てられる食品」に含めるのはどうかと思う。それとも「他の誰かなら残さず全部食べきれたから」という意味で本来食べられた食品と言っているのだろうか。それは少々強引すぎやしないか? まるで食いしん坊の大食いさんを標準としているみたいだ。

 

話が病気と関係のない方向へそれたので、ここで戻す。

 

私は病気の影響で外食を楽しめる機会が少なくなった。食べ残すと分かっていてわざわざ外食に行きたいと思えない。行っても特定の店ばかり。

 

そんな私は、店側にもっと柔軟な注文方法(食材や栄養成分の表示、食材除去や量の調節可否など)が増えてくれたらうれしいと思っている。そうすれば、私のように病気で特定食品を控えている人や治療で食事制限している人も、いまよりずっと外食を利用しやすくなる。

 

消費者庁も量を選べる店を選ぼうと言うだけでなく、そういった店をデータベース化して消費者みんなに知らせてくれたらいい。

 

 

◾️手付かずの廃棄が避けられない理由

 

私には手付かずの食品廃棄が避けられない場合がある。それは急な体調不良や緊急入院。これまで、数日分の食材をまとめて買った直後に体調を崩し、まったく料理ができなかったことで食材を無駄にしたことは何度かある。通院のつもりで病院へ行ったらそのまま入院することになり、冷蔵庫の中身を数週間放置して退院後すべて廃棄したことも何度かある。

 

私のような理由以外にも、冷蔵庫の故障や停電で食品が傷んだり、やむを得ない事情で手付かずの廃棄をする場面はあるだろう。しかしこれらも全部、法律上は食品ロス(直接廃棄)。

 

 

私はここまで病気を理由に食品ロスが避けられない場面を説明した。しかしながら、政府が病気の人にも上記のような食品ロス削減を本気で求めている、とは考えていない(実際のところは不明)。今のところ罰金を求められることもない(一部の店を除く)。にも関わらず私がこのような話をした理由は「家庭系食品ロスの発生状況の把握のためのごみ袋開袋調査手順書 令和元年5月版」*5  にある。

 

この文書には各自治体が家庭ゴミに含まれる食品ロスの種類と量を把握する方法が書かれている。やり方は、家庭が出したゴミ袋を一つ一つ開けて中身を調べるというもの。本当にこういうやり方で食品ロス量を測っているとしたら、ゴミを出す側の事情や背景はまったく考慮していないことにならないか? そして、本当にこんなやり方で推計された量が食品ロス削減政策の指標に使われているとしたら、迷惑でしかないと思った。

 

 

私のように病気が理由で食品を捨てざるを得ない人は多くいるだろう。私のように緊急事態で家を離れたため自分で買った食品をダメにした人もいるだろう。料理を作るとき砂糖と塩を間違えてしまい食べられずそのまま捨てた経験のある私のように、料理の失敗でやむなく捨てる人だっている。注文した料理が想像と違っていて、どうしても口に合わずに残すこともときにはある。アレルギーではなくても、どうしても口にできない食材がある人だって大勢いる。そんな人たちにまで、画一的に食品ロスだとかもったいないだとか言わないでほしいのだ。

 

 

食べ残さないことが理想なのはわかる。何でも残さず食べられることはすばらしい。味覚や嗅覚、口腔触感の許容範囲がとても広く、胃腸も丈夫なのだろう。でも全員がそうではない。全員がそこを目指さねばならない理由もない。現実には様々な事情で食事を残す人々がいる。食品ロスを語る人たちには、そこへの理解と寛容も忘れないでいてほしい。

 

私は、日本で食品ロス削減推進が行き過ぎて食事を残す人々が悪者にされる社会にはならないよう、陰ながら見守っている。

 

 

*私の持病は潰瘍性大腸炎(術後継続治療中)と癒着性イレウス(再発予防中)。腸の病気であるため病状によって食事を制限。入院すれば食事が一切禁止される。そのためせめて普段は食事を楽しみたいと思っているが、量の多さや食事制限が理由で外食を諦めた経験は数知れない。

 

 

*参考サイト*

各 URL は投稿時点のもの。

 

*1: 食品ロス削減推進法

 

*2: 食品リサイクル法

 

*3: 消費者庁ウェブサイトより

 

*4: 環境省ウェブサイトより

 

*5: 環境省ウェブサイト、食品ロス発生量の調査の手順より

PDF(家庭系食品ロスの発生状況の把握のためのごみ袋開袋調査手順書 令和元年5月版)