HEART

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35作目「HEART」「NATURAL」「On Your Mark
1994.8.3発売 オリコン最高1位 売上約114.3万枚

アルバムからのシングルカットではない書き下ろしシングルとしてはほぼ1年ぶりのシングル作品となった「HEART」です。映画『ヒーローインタビュー』の主題歌として話題になったこともありチャゲアスにとって3作目のミリオンセラーとなる大ヒットを記録しました。
正確には「NATURAL」と「On Your Mark」も含めた両A面どころかトリプルA面シングルという前代未聞の作品でもありました。どれも傑作といえる出来であり、シングルというよりはミニアルバムと言ってもいいほどの充実度を誇ります。今回はメイン作品としての扱いだった「HEART」を中心に語ります。

デビュー15周年を迎えたこの年、前年から続いていた「史上最大の作戦」ツアーが4月に終了した後、初の海外公演が4月から5月にかけて香港、シンガポール、台湾で行われました。その間を縫ってモナコ音楽祭にアジア代表として3年連続を果たしています。いわゆる世間的・社会的な意味での人気「絶頂期」だったと言えるでしょう。

そんな時期を象徴するかのような3作品が収められました。「YAH YAH YAH」を彷彿とさせるスピード感がある「HEART」。村上啓介さんがChageさんと共同で作曲に参加し、さらに作詞はASKAさんが担当した「NATURAL」もPOPな作品です。壮大な「On Your Mark」はその後のコンサートのエンディングの定番曲になりました。どれも単独でシングルとして発表しても十分な作品です。それが1枚の小さなディスクに収められたのです。贅沢なシングルだと言えますね。

さて、「HEART」です。「YAH YAH YAH」を彷彿させるなんて書きましたが曲の雰囲気は確かに似ています。全体のリズム感とサビの入りがそう感じさせるのでしょう。おそらくは映画の主題歌として制作を依頼されたのでしょう。「YAH YAH YAH」のような曲を、なんて発注があったのかもしれません。推測ですけどね。
細部を分析します。メロディーは非常に作りこまれています。コード進行も複雑です。普通ではない転調もありカラオケで歌う時に展開についていけない人も多いのではないでしょうか。Bメロのラップ調の展開が新鮮でした。正確にはラップではないのですがあえて同音を連続する単調なメロディーを挿入しています。それが終わってのサビの解き放たれた感じが最高です。
メインのメロディーに自由自在に絡みつくChageさんのコーラスや後追いメロディーも非常に効果的です。おふたりの声質の違いがうまく混ざり合っています。ほかのデュオにはないチャゲアスならではの味わいだと思います。

複雑ながらもとっつきやすいメロディーとは対照的に歌詞は難解です。100万枚売れたシングルですがどれだけの人がASKAさんの心(HEART)を理解できていたんでしょうか。
私はASKAさんの悩みというか葛藤が感じられる気がします。
その一番の理由は「ない」という語が多用されていることです。おそらくは韻を踏むことを狙って「~ない」を多用したと思うのですが。否定・打消を表現をする「ない」の多用。それがメジャーコードの響きの中にどこかしらのせつなさを感じさせる要因だと思います。

振り向かなくても どこかで愛していたはずさ 覚めないつづきを いいだけ苦しんでみたはずさ」という始まりをメロディーなしに読んでみてください。心が通じ合っている確証が感じられないパートナーとの関係、悩みや苦しみから覚めることがない苦しい状況。そんな葛藤を感じるのです。
貨物船のように運ばれる街ですれ違う」と自分の意志ではどうしようもない状況の中の心のすれ違いを表現したかのようなフレーズもあります。
サビの「HEART」の連呼の合間に「騙せない」「離れない」「壊れたなら恋や夢のかけらだってあるらしい」と自らを鼓舞するかのような表現を力強く歌います。どんなことがあっても信頼する人の心と自分の心のつながりを信じて生きていこうというASKAさんの気持ちが込められていると思うのです。

人を信じることの大切さと同時にその怖さも知っているASKAさんだからこその歌詞なのではないでしょうか。メガヒットが続いたことによりそれまではチャゲアスには見向きもしなかった人が数多く周囲に群がっていたはずです。人気に便乗した利権を期待した人たちがおふたりの意志とは関係ないところで動いていたはずです。数年後にはその葛藤を率直に「群れ」で表現するASKAさんですが、その傾向がこんな大ヒット曲にも表れていたのではないかというのが個人的な分析です。

絶頂期ではなく弱っている時期にこそ歌の本質を見極めて心の耳で歌を聞きたい。そう思います。弱っている人を貶めることは簡単です。安易な批判や憶測にまみれた報道、個人的主張を垂れ流すことは簡単です。
私は支えたいと思います。これまで支えられた恩を全力で返したいと思います。

こんな場末のブログではありますが。
微力ながら全力で。
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