出会いはここから♡



付き合うことになった1週間、あんなに心を踊らせたにもかかわらず、私たちは1度もデートをしなかった。


日曜日の始発で帰宅して、夜には電話で話したけれど、週が明けて大学が始まると、一気に忙しくなった。




金曜日の夜には、以前から約束していたプロ野球選手との合コンがあった。


大学の授業を終えた後、六本木ヒルズの斜向かいにあるスパで、レミちゃんと待ち合わせた。


今のレミちゃんは、妻子持ちの野球選手の2番目の彼女らしかった。


どう考えてもおかしい。


サウナで汗をかきながら首をかしげる私にレミちゃんは、彼は私が初めて本気で愛した人、だと言いきった。




土曜日の夜、スイくんから電話があった。




1週間終わっちゃったね。会えなかったよ。




私から言い出しておいてごめん。1週間じゃ足りないね。




昨日…、六本木で見かけたよ。俺が反対から道路を渡っていたのに気がつかなかったでしょう。




あ!と思った。


スパでのぼせていたせいか、1次会で酔いが回り、参加者のひとりと肩を組むようにして六本木交差点を横断した記憶が残っている。




違う違う!あれは前から約束していた合コンで…




別に気にしてないから。見たときは笑っちゃったけど。




明日会えない?1日だけ、おまけして。




どう説得したのか、日曜日の夕方から私たちはデートをした。


築地市場で海鮮丼を食べ、ライトアップされた勝どき橋を渡った。


川沿いを歩いて、お互いの生い立ちから話していく。




スイくんは三人兄弟の末っ子。農家の家に生まれ、皆に可愛がられながら育ったという。


お兄さんがスカウトされて上京したことをきっかけに、自分も芸能界を目指すことを決意。


専門学校を卒業すると同時に、事務所に所属した。




れもんちゃんの夢は?




強い夜風に当たりながら暗い歩道を歩くと、自分のこれまでの人生が、浮かび上がってくるように感じた。




1週間と言わず、付き合おう?




こうやってまた話をしよう、とスイくんが言って、私たちは初めてキスをした。




隅田川の水面にブルーとグリーンのライトが揺れている。




私は大学4年生になろうとしていた。