この通り、マッカーサー道路って言うんだよ。戦後に彼が、まっすぐな道路を作って都市を整備しようとしていたから。
マッカーサーって、GHQの?
そう、ダグラス・マッカーサー。れもんちゃん、分かるねぇ。
義務教育は受けましたので…。
戦後の占領期に構想され、半世紀以上の時を経て、虎ノ門の再開発とともにようやく現実の道路になった幹線道路だという。
この先のトンネルを抜ければ、湾岸方面へ一気に出られる。
マッカーサーが亡くなって、何年も経ってから完成したんだね。
うん。
Sさんがやっている仕事も、20年とか30年で結論が出ることじゃないけど、きっと未来の人はSさんに助けてもらうことになるね。
そうなれば嬉しいね。
前回のデートから2週間。
ホテルに到着し、車を置く。広い庭園を抱えた格式あるホテルは、時代の節目を見続けてきたような佇まいだ。
本当は千鳥ヶ淵へお花見に行くつもりだったけれど、かなり混雑していたので、Sさんが穴場の遊歩道を教えてくれた。平日の昼前、ほとんど貸切状態。
桜の花びらを笛みたいにピーピー吹けるの、知ってる?
Sさんは知らなかった。落ちてくる花びらをキャッチして、とお願いをする。
30年ぶりに花びらに唇を寄せて吹いてみたら、何の音もしなかった。唇の中央にだけのせたグロスのせいかもしれない。頬を膨らませて、本気で息を吐き出す。
今度はちゃんと音が鳴った。Sさんが驚いた顔をしている。
簡単だからやってみてよ!
でも彼は不発だった。
11時半開店のレストランへ向かう。ホテル内にあるけれど、優雅なランチではなく、サラリーマンが並ぶようなトンカツ屋。飾らない味で美味しかった。
このホテルにちなんで、007を見ようよ。
そんな話をしながら部屋に入った瞬間、抱きしめられた。
もう分かってたけど、、
少しは見る気あった!?
1回目は前回と同じような流れだった。Sさんとは、3パターンくらいで全30分。身体に負担がなくてちょうどいいかもしれない。
終わってから、Sさんは寝てしまった。放置された私はつまらなくなって、2回目をけしかけた。
れもんちゃん、舐めてほしい…
ううん、しない。
なんで?
そういうのは、「好き」とか「付き合おう」とか言われてからしたいの。
もうどっちも言ったけど…
今!今も言って!
言ってくれたけど、やっぱやーめた。私が上に乗ったら、「まだ無理だよ…」と言われたけど、普通にできてた。だんだん気分が乗ってきて、上のままで数パターンほどお披露目したら、制止された。
3回目は、Sさんが全部してくれた。向き合って座る体勢で少しずつ角度を変えられて、最後は普通に終わった。
帰りの車で、私はSさんを質問攻めにした。どういうタイミングで、どの言語を習得していったのか。
Sさんは語学の話だけじゃなく、何の話を振っても答えてくれる。AIみたいな人!と私が言うと笑っていた。
れもんちゃんといると、すごく楽しい。
帰る前に湾岸までドライブをした。今日もマッカーサー道路を走る。名のある建物を通り過ぎるたびにSさんは、まるでガイドのように歴史を説明してくれる。
あの建物は戦後の火災で建て替えて…
私は彼の横顔を見ながら頷いた。
婚外恋愛で出会った男。
時間をなぞる会話をしたところで、私たちの時間は何にも記録されない。
ホテルの庭園で見た桜は、もう散り始めていた。
未来を語る代わりに、私たちは、今を濃くしていけるだろうか。
