別荘での出来事はこちら



それは災難だったねぇ〜!



楽しさを隠しきれない声がドトールに響いた。


禁煙に成功したりかちゃんは、以前より顔色も良くなったような気がする。




新宿駅の連絡通路は、平日の午前中ということもあり、人もまばらだ。


先日の別荘での一部始終を懸命に訴えてみたところで、こんな東京のど真ん中では最早現実味はなかった。




携帯電話を耳に当てたサラリーマンが、滑り込むように隣の席に座った。




リカちゃん、私に同情する気なんて全然ないでしょ。自分が幸せだからって。




ふふふ、とリカちゃんはお腹をさすりながら笑った。




もう安定期だしね。このお腹を見たら、あっちも、もう結婚を認めざるを得なくなったみたい。




あっちというのは、リカちゃんの彼の実家に他ならない。


恋愛はうまくいっても結婚となると大変だ、ということを、私はリカちゃんから教わった。




式では伏せてくれって言うから、ドレス選びには苦労したけどね。




そうね。楽しみにしてる。




立派な厚紙に金の縁取りがされた招待状をバックにしまいながら時計を見ると3限が終わる時刻になっていた。


次の講義は代返が効かないから、と席を立つ私にリカちゃんは、大学生はいいなぁと言った。




モラトリアムだね。あなたの大好きなスイくんだって私だって、ハタチにはこの世の荒波に揉まれてたんだから。




よく言うわ。


お嬢様短大を卒業して、遊ぶだけ遊んで、玉の輿に乗ったリカちゃんより世間の荒波に揉まれていない人を私は知らない。








その日の晩、スイくんから電話がかかってきた。


知り合いの女子高生を今夜自宅に泊めると言う。




信じられない…と言葉を失う私にスイくんは引かなかった。




泊めるっていうのは、事情があって。彼女に行き場がないからなんだ。




でも浮気だからね。




1年近くの付き合いで、初めての喧嘩だった。




やましいことがないから、わざわざ話してるのに。浮気なんて発想ができること自体、君が幸せな人だってことだよ!




なんで私が責められるの?おかしいよ…。




最後は泣き声になっていた。


だいたい、やましいことって何よ。私とはキスしかしないくせに。




夜中にいつでも電話してきていいよ。ただの昔からの知り合いなのに、どうしてそんなに嫌なの?




少しの間を置いて、落ち着いた声でスイくんが言った。




だって…


身体の関係のない私とその子の違いって何?




それを言ったら終わる気がして、私はただ黙り込んだ。