バッグの中で、子猫は丸くなり、スヤスヤと眠っていました。
きっと、自転車で移動中に鳴き叫んでいたので、疲れたのでしょう。

「まぁ、可愛い。起こすのは可哀想な気もするけど、きっとそろそろ、お腹が空いてるね。」


ゆきは、両手で子猫を抱き上げました。
子猫は、ピクリと動き、目が覚めたようです。


「ゆっくり、食べるのよ。お願いだから、少しだけでも、食べるのよ…」

小さな2つのお皿の前に、子猫をそっと、おいてみました。
1つのお皿は、ペイスト状の缶詰が少し、もう1つのお皿に、ドライフードをお湯でふやかして練ったフードが少しです。


「クン、クン、クン」

子猫は匂いをかぎ、

「ガブ、ガブ、ガブ」

缶詰のフードを、凄い早さで、食べてしまいました。

「お腹が空いてるんだね。そんなに慌てて食べたら、喉をつまらせるわよ」


缶詰のフードだけを食べてしまった子猫は、その場に丸くなって座り、ゆきを見上げています。


『生後、1ヶ月半くらいかな?まだ、しっかりと、歩けないかも…?』



続く
「ドタドタ!バタバタ!」家に帰ったゆきは、一気に3階までかけ上がりました。


「バタン!」

東のレオンの部屋に入り、ドアを素早く閉めました。黒ラブのレオンが、生涯を過ごした部屋です。
「子猫ちゃん、しばし、お待ちを!」
ゆきは、子猫が入ったトートバッグを、そっと床に置きました。子猫はもう鳴いていませんでした。
「箱と、毛布と、お水と、フード……ペースト状のフードはあったかしら?新聞紙とペットシーツ…お砂場は念のために…急がないと!」

ゆきは家の中を、駆け回り、手際よく、子猫の部屋を作っていきます。


彼女は何匹の子猫を育て、家族として迎え入れてきたでしょう?

茶々♀(享年16歳)
友人が飼えなくなり、つれてきたアメリカンショートヘア 女帝猫

ミィ♀(享年20歳)
ペットショップで、殺処分されるところを保護した、アメリカンショートヘア

ラッキー♂(享年14歳)とハッピー♀(18歳)
生後2週間位で捨てられていた子猫、ゆきが3時間おきに授乳した兄弟
ボク♂、華♂、福♀ 3兄弟 (11歳)
ガレージで野良猫母さんが出産した兄弟で、野良猫母さんからゆきへのプレゼント。

ラブ(10歳)♀
「レオンとラブ」本の主人公。

桜 (3歳)♀
友人宅で野良猫さんが産んだ子猫の1人。


ゆきは 9匹の子猫達を、育ててきました。

『この子猫ちゃんの命も、助けないと!』
子猫の部屋は、直ぐに完成しました。

鳴き疲れて、眠っているならいいのですが…
グッタリとしていたら…
バックの中は、とても静かです。

ゆきは、そっと、バックのファスナーを開けました。


続く
ゆきは、両手で子猫を包むように優しくすくいあげました。子猫は、目をとじて眠ったままです。フアフアとした子猫の毛の感触は、とてもとても温かいものでした。

『死にかけているの?』


ゆきは左手で、子猫の頭を支えながら、首元をゆっくりと揉んでみました。
すると、子猫は伸びをして、目をゆっくりと開けました。

『良かった、目を開けてくれたわ』

!?

ゆきと目があった子猫は、ビックリした顔をして、手足をバタバタとし始めました。ゆきは 慌てて、子猫をバックの中に、入れました。ファスナー付きのトートバッグ、少しだけファスナーを開け、子猫はスッポリ、バックの中です。


「ミャ長音記号1ミャ長音記号1

「驚かせて、ごめんなさい。一緒に、おうちに帰ろう。少しだけ、我慢してね。この子のお母さんへ、私、この子を大切にするね」
ゆきは、声にだして、子猫と姿は見えないお母さん猫に約束しました。
子猫が入ったバックを、自転車のカゴに入れ、ゆきは走り出しました。
猛スピードで、ゆきの自転車は走っていきます。


「ミャ長音記号1
「大丈夫だよ。鳴かなくていいよ。大丈夫だよ。」


『先ずは、この子のことをちゃんとしてから、仕事しないと!この子を助けないと!そして、私、頑張らないと!この子のためにも…』


先程までは、ゆきは仕事をする気にもならず、空虚な気持ちで一杯でした。
仕事の事で、色々考えないといけない事があったけど、考えることすら、放棄していました。
しかし、全力で自転車のペダルをこいでいる自分…
身体が自然に、勝手に動いている自分。


子猫は、失望していたゆきの心に、希望の光を照らしたようです。



続く