公園で子猫に出会うまでは、仕事をする気にもならず、ぼんやりしていたゆきでした。

今まで、何をしてきたのだろう…これから、どうしていけば良いのだろう…


子猫に出会っても、現状は変わりません。
ただ、ゆきの心には、何かしらの変化があったようです。


『自分にできる目の前にあることを、やっていこう!1つづつ、やっていこう!今日は、早めに切り上げて、家に帰らないと!明日から、又、頑張ろう!』


ゆきは、早々に仕事を終えて、帰り道に、子猫用のミルクを買いました。


どうしているかな?
寝てるかな? イタズラしてるかな?
不安で震えていないかな?

心配すれば、その心配した事が、現実になってしまう…大丈夫、子猫は大丈夫。何回も自分に言い聞かせてました。



家に帰り、ゆきは一番に東の子猫の部屋には入りません。


『お帰りなさい』

いつものように、5匹の先輩猫達が、お腹を空かせて待っています。

玄関まで、迎えに来ている子、廊下で待っている子、ベッドの上で寝転んで待ってる子…ゆきの後ろをついて歩く子、トレイの前に座り、御飯を待つ子もいました。


「パカッ」


ゆきが、猫缶を開ける音を聞くと、先輩猫達の目は、輝くのですキラキラ


『御飯だ!』




続く
ゆきは、ドアノブを握りました。
ドアを開ける前に、既に彼女の視界には、ドアの向こうの廊下の光景が見えてました。


『きっと皆さん、並んで待ってるわ。誰かさんは、突進して、部屋に入ってくるだろうから………』


ゆきは、ドアを少しだけ、そっと開けました。
体を横向けにして、自分が通れる隙間だけ開けて、特に、足元には、注意をして、素早く廊下に出て、ドアを閉めました。

「バタン!」

「やっぱりね~」


5匹の先輩猫達が、並んでゆきを見上げてます。


『何?』
『何で、ドアが閉まってるの?』
『なんか、缶詰を開ける音がしたんやけど?』
『まさか、又、新入りさん?』
『わたくし達にも、缶詰を下さいませ。』

猫達の質問する声が、ゆきの耳には聞こえてきます。

「みんな、鋭いね。ドアを閉めて、東の部屋に入れなくてごめんなさい。あのね、Babyちゃんがいるの。可愛い、可愛いベビーちゃん。みんなにも、時がきたら、ちゃんと紹介するからね。みんなは、ベッドの上で、お昼寝してきなさい。私はお仕事、行ってきまーす!」


みんなは、知っていました。ゆきがバタバタと帰ってきて、部屋のドアが閉まるのは……部屋の中に、何かがあるってことを!


5匹の先輩猫達は、ふと、自分の子猫の時のこと、初めてゆきの家に来た日のことを、思い出していました。




続く
子猫は丸くなり、ジーッと様子を伺っています。
怖がって、震えたりしていませんでした。

『ねぇ、もっと頂戴よ』

ゆきの顔を見上げて、おねだりしているようです。


「あと、少しだけね。」


ゆきは、ほんの少し、缶詰のフードを、お皿に入れてあげました。


「ガブガブガブガブ」

子猫は、逃げることもせず、又、一気に食べてしまいました。


『子猫ちゃん、もしかしたら…捨て猫ちゃん?』


怖がることもなく、逃げることもしません。
人間に慣れているような気がしました。



東のレオン君の部屋、ベランダの戸は、ピッタリと閉められてます。
床には、新聞紙をひき、高さが低い箱には、猫砂も入れられてます。
大きな箱には、タオルケットがひかれて、ベッドになってました。

ゆきは、フードを食べおえた子猫を、慣れた手つきで、抱き上げ、大きな箱の中に、入れました。


「子猫ちゃん、私はそろそろ、仕事に戻るね。おとなしくしてて…とは言わないわ。少し、眠りなさい。好きに遊んでいいよ。探検していいよ。早く帰ってくるからね。」



子猫は、箱の中で、丸くなって座り、ゆきの言葉を、静かに聞いていました。


このまま、一緒に遊んで、見守っていたい気持ちを振り払い、ゆきは、ドアへ向かいました。


『あっ!皆さん、集合してるわ!』



続く