桜は 懸命に赤ちゃんを舐めています。

自分のお腹に抱えて、小さな赤ちゃんを大事に大事に舐めています。


「赤ちゃん、動いてる。あっ、足も…ちゃんと解るわ。ピンク色してる。可愛い…」

「ゆきちゃん、手出しは無用よ!桜ちゃんは全部自分でするから、お手伝いしたらダメよ!解ってるね!ヘソの尾も自分で切るし、見てるだけよ~」

「解ってるわ。見てるだけ…」


桜は、ヘソの尾も自分で切りました。
赤ちゃんは 桜の乳首を探し、そしてお乳を飲みだしました。


「赤ちゃん、お乳を飲みだしたわ!けい子さん、凄いね!お母さんって…動物って…凄いね」

ゆきの目から、涙があふれてきています。
初めて見る猫の出産の瞬間に感激していました。

二人のお子さんを立派に育てあげたけい子さんが言いました。
「お母さんは大変なんだから。妊娠中も大変だし、出産は痛いしね~。桜ちゃん、頑張ったね!泣いてる場合じゃないわよ!さぁ、あと、何匹産まれるかしら?」


あと、何匹…?



続く
「ギャニャオーん!
ギャニャオーん!」


起き上がった桜は、2回、大きく鳴き声をあげました。


「あっ!!」
「ゆきちゃん!何?どうしたの?桜ちゃんは?」


『ポコ』


「産まれた!」


一瞬のことでした。
起き上がった桜は2回大きな鳴き声をあげ、ポコ!と赤ちゃんを産みました。


「けい子さん!赤ちゃん産まれたよ!やったよ!」
「どう?赤ちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。かすかに動いているわ」


すかさず、桜は、まだ薄い膜の袋に入っている赤ちゃんを、舐めています。
自分のお腹の中に、誘導するように舐めています。


小さなボール、小さく真っ黒な赤ちゃん…ゆっくりと動いているのが解ります。

1つの小さな生命が、誕生した瞬間でした。




続く
「ゆきちゃん、仕事中にごめんなさい。今、話して、大丈夫?」

電話は友人のけい子さんからです。

「大丈夫だけど、取り込み中」

「何?どうしたの?」
「産まれるの!」
「産まれる?何言ってるの?」


ゆきはけい子さんに桜が出産することを早口で話しました。

けい子さんも猫好き、アビシニアンのココちゃんがいます。


「けい子さん、猫の出産に立ち会ったこと、あります?」
「無いわよ。勝手にどこかで産んで、連れて帰ってきた子はいたけど…で、桜ちゃんは、どう?苦しそう?」
「横で寝てる…私の顔を見て、この会話を聞いてるよ。」
「桜ちゃん!頑張って!」

けい子さんが、電話から、エールを送って下さってます。


「ねぇ、けい子さん、このまま電話しててね。」
「解ったわ!」
けい子さんも子猫誕生の瞬間に興奮しているのがよく解りました。


ゆきには、けい子さんのエールが、神様からの声に思えました。

不安でいっぱいだったのが温かく見守られているのを感じていました。


すると、その時です!


桜がいきなり、起き上がったのです!




続く