露と枕 Vol.9
『橘に鶯』

大沼百合子[J.CLIP](祖母の友人・トキ)
村上愛梨[露と枕](新商品開発チーム・諫山幸梅(こうめ))
老舗の化粧品店「田路屋」の白粉には、不思議な力があるという。いわく、その白粉を塗ればたちまち歳を忘れたように若返り、女の栄華を極めた頃のまま、生き続けられるのだ、と。そんな作り話の果てに生まれた「おくしさま」という不老長寿の存在を、この家の娘は代々、演じ続けている。人々を信じさせるために娘たちは毎日日記を綴り、先代の、そのまた先代の記憶も引き継いで、三百年の時が流れた。時代の変容と共に意義も変わり、今では孤独な老人の思い出話を聞くことが主な仕事になっている。現当主は、十万日もの記憶を暗唱し、急に訪ねてくる何者にも、嫌な顔一つしない。先日祖母が亡くなったというのに、殊勝に人々に尽くすばかりだ。……祖母は、老いていく恐怖に耐えかねて人々を傷つけ、挙句先代の母を死に追いやった。訪ねてきた、祖母の友人と名乗る婦人が言う。「あんた、あのババアにそっくりだね」老いてしまった伝統と、これからも老いていく、私たちの物語。【公式サイトより】
露と枕、1年7ヶ月ぶりの本公演。
左右両端に階段があり、上がったところが接見室。文机が置かれ、壁一面の本棚。手前のスペースにはテーブルと椅子があり、浅黄夫妻が営む居酒屋のシーンで使用される。
タイトルやチラシからして文学的な作品ではあるのだけど(上演台本を見たら、第一章第一節のような章立てがなされていた)、前作『わたつうみ』同様、設定がどうにも摑みにくい。あらすじでも読んでおけばよかったのかも知れないが、前提がないと何のために「おくしさま」が存在するのかが不明なため、かなめが何をしたいと思っているのか、なぜ春告にしか白粉を作る機械が操作できないのか、そもそも三百年の伝統があるのになぜ新商品を作らねばならないのか、疑問点ばかりが積み重なり、作品自体の意図もよく分からないまま終わってしまった。
カーテンコールでの小林桃香さんの大きな目に浮かぶ涙には少し心を動かされたけど。笑
上演時間1時間58分。
