名取事務所公演
『最後の面会―オウム真理教事件―』
作:キム・ミンジョン(金旼貞)
演出:桐山知也
翻訳・ドラマトゥルク:沈池娟(シム・ヂヨン)
美術:吉野章弘
照明:桜井真澄 照明操作:鈴木啓子
音響:志和屋邦治 衣裳:樋口藍
映像:浜嶋将裕
演出助手:杜菜摘(杜菜摘プロデュース)
舞台監督:大島健司
制作担当:栗原暢隆、松井伸子、佐藤結
プロデューサー:名取敏行 製作:名取事務所
出演:
山口眞司(ハヤシヤスオ)
佐藤あかり(ナオコ/ナオコの母・エイコ)
奥田一平(ヤスオ)
髙井康行(父)
STORY
韓国名は「イム・テナム」だが「林泰男」という日本人として生きてきた青年が、何故オウム真理教にはまりテロ行為にまで手を染めてしまったのか? そして死刑囚となり残された娘と面会をし、新事実が発覚する。【公式サイトより】
韓国の劇作家が1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件の実行犯・林泰男元死刑囚を題材にした作品を書くという点が興味深かったが、しっかり骨太、実に見応えのある作品となっていた。
物語は2018年7月、麻原彰晃の死刑が執行された後あたりから始まる。ハヤシとの面会を希望していたナオコは自分がハヤシの恋人だったエイコの娘であることを告げ、なぜオウム真理教に入信したのか、なぜ麻原彰晃のような人物の言葉を信じたのか、なぜあのようなテロを起こしたのかを問い質していく。
やがてハヤシ自身の死刑執行が近づく中で最後の面会となった日、母の手紙に書かれていた「怪物」という言葉の意味を知った時のナオコの衝撃は計り知れない。このナオコは架空の人物なのだが(エイコは実在)、自分がもしそのような出自のもとに生まれていたとしたら、「自分は自分」と言い切れるかどうか甚だ心許なくなってくる。
劇中、若き日のヤスオが同級生の在日朝鮮人を馬鹿にしたと聞いて父親が烈火のごとく怒り、ヤスオ自身に朝鮮人の血が流れていることを知るくだりがあるが、その人自身は変わらないはずなのにその事実を知った途端に前と同じ自分ではいられなくなってしまう。血に縛られることが馬鹿馬鹿しいと思う反面、どうしても縛られてしまうのが人間というものなのかもしれない。
4人の役者陣は緊迫した濃密な時間を届けてくれた。シームレスな演出も見事。中ではナオコ/エイコ役の佐藤あかりさんが殊の外素晴らしかった。
上演時間1時間18分。