『精神』(想田和弘監督) | 新・法水堂

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『精神』


2008年アメリカ・日本映画 135分
監督・撮影・録音・編集・製作:想田和弘
製作補佐:柏木規与子
出演:山本昌知(医師)、菅野直彦、吉澤毅、岸本以都子、三宅生雄、西村喜久代、「こらーる岡山」のみなさん

STORY
岡山県岡山市にある外来の精神科診療所「こらーる岡山」には、統合失調症や躁鬱病、摂食障害、パニック障害、人格障害、その他様々な神経症を患う人々が通っている。診療所の代表も務める山本昌知医師の診察室に入るなり、死にたいと泣き崩れる女性。彼女の両手首には無数のリストカットの跡。彼女は二児の母親だが、子供たちは施設で暮らし、今は生活保護で命をつないでいる。別の女性は、周囲に理解されず八方塞がりの中、自分の息子を殺してしまった。彼女も自殺未遂と精神科病院への入退院を繰り返していた。また、ある男性は10代の頃発病し、その後25年間、山本医師の診察を受けている。現在はこらーるに通いながら、写真を撮り詩を書いて自分の気持や世界観を表現する。別の男性は、毎週訪れるヘルパーに料理を習い、生活する力を身につける努力をしているが、刻々と迫る老いに直面し、将来に対する不安を山本医師に吐露する。そんな中、国会では障害者自立支援法案が通過しようとしており、スタッフや患者の危機感は募るばかり。診療所の事務室では、医療コストを削減しようと次々にサービスをカットしてくる行政側と、そうはさせまいとする診療所スタッフのせめぎ合いが連日のごとく続いていた……。【「キネマ旬報映画データベース」より】

『選挙』の想田和弘監督による観察映画第2弾。

監督はNPO法人・喫茶去の代表をしている義母・柏木廣子さんを通じてこらーる岡山を知って取材を開始したとのことで、ダンサー兼振付師の夫人・柏木規与子さんも初めてスタッフとして参加。

普通の作品なら山本医師に焦点を当ててどんな治療法をしているのかとかこれまでの経歴はどうだとか言ったことに時間を割きそうだが、この作品は観察映画というだけあってそういったナレーションや説明などは一切なし。
カメラはモザイクをかけることもなく患者たちの文字通りの素顔に迫る。
最初はカメラの前では患者がいつもより興奮気味になったり逆に意識しすぎて寡黙になったりしないかと思ったが、『選挙』の時と同じく自然に取材対象に接しているのが分かる。こらーる岡山の詩人こと菅野直彦さんが想田監督に「ソーダ買ってきて」などと冗談を言っているのもその表れの一つ。

山本医師がとある講習会で、四角の上に円を3つバランスよく書いて下さいと言うと、受講生はみな様々な図柄を描く。それが一方的コミュニケーションの結果という話が印象的。
様々な患者の方を見て思うのは、彼らが精神を病んでしまったのは他者に理解されないことが一番の原因であるような気がする。特に一番の理解者であるはずの家族に理解されていない人が多い。
理解されたい、でも理解されない。そのことによって不安になり、追い詰められ、自信を失い、精神のバランスを崩して行く。

もっともこの映画を観て精神病について分かったつもりになってはいけない。
患者の8割から9割の人には撮影を断られたそうだが、この映画に登場した人は比較的症状がマシな方で、更にもっと苦しんでいる人がいるはず。と思っていたら、最後にインタビューに答えていた3人の方への追悼の言葉が表示されて愕然とさせられる。マシだなんてとんでもない誤解だった。
この映画を観ながら、健常者と呼ばれる人たちと精神病患者とではどこが違うのかといったありきたりな結論に陥りそうになったが、それもまた健常者(なのか?)の驕りだったと気づかされた。
やはり「精神」という深奥なものを理解するのは容易ではない。