『タルロ』(ペマ・ツェテン監督) | 新・法水堂

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『タルロ』

ཐར་ལོ/塔洛/Tharlo



2015年中国映画 123分
原作・脚本・監督:ペマ・ツェテン
製作:高宏、徐麗、孫佳琳
プロデューサー:呉蕾蕾、王学博
撮影:呂松野 美術:タクツェ・トンドゥプ
録音:ドゥッカル・ツェラン
編集:宋氷 編集顧問:寥慶松

出演:
シデ・ニマ(タルロ)
ヤンシクツォ(理髪師ヤンツォ)
タシ(ドルジェ所長)
ジンパ(羊の所有者ジンパ)
デキ・ツェリン[特別出演](歌手)

STORY
孤児として育ったチベットの遊牧民タルロは、役所からID(身分証明書)を作るよう言われ、IDに使う写真を撮りに町へ行く。写真館で髪を整えるよう言われ理髪店に入ったところ、女性を知らないタルロは親しげに話しかけてきた理髪師の女にたやすく籠絡されてしまい……。【「KINENOTE」より】

《東京フィルメックス ペマ・ツェテン監督 特別追悼特集》上映作品。第16回東京フィルメックス最優秀作品賞・学生審査員賞をW受賞。

タルロというのは主人公の名前だが、自分でも本名を忘れるぐらいで普段はあだ名の「三つ編み」と呼ばれることのほうが多い。
映画はこのタルロが毛沢東の「人民に奉仕する」という演説を派出所のドルジェ所長の前で延々と暗唱してみせるところから始まる。抜群の記憶力を持つ彼は、羊飼いとして生計を立てていたが、所長から身分証明書を作るように言われて町に出る。
写真を撮りに行くが、写真館の女主人に髪を整えるように言われて向かいにある理髪店に行ったのが運の尽き。身分証明書を作りに行ったはすが、いわばアイデンティティの象徴でもあった三つ編みを失い、有り金も失い、更には頼みの記憶力も失ってしまうという何とも皮肉な結末を迎える。
本作はチベットを舞台にした映画で、こちらもチベット映画を観るぞという心積もりでいると中国映画で必ず最初に出てくる緑をバックにした映倫のような龍のマークが出てくるので「ウッ」となってしまうのだが、タルロはまさにアイデンティティを失っているチベットそのものなのかもしれない。
モノクロの画面に映し出されたチベットの荒涼とした風景が、タルロの孤独を引き立てていた。

原作は監督自身が書いた短篇とのことで、積ん読になっているので早く読まなくては。