『カラオケ行こ!』(山下敦弘監督) | 新・法水堂

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『カラオケ行こ!』



2024年日本映画 107分
監督:山下敦弘
原作:和山やま(KADOKAWA「ビームコミックス」刊)
脚本:野木亜紀子
音楽:世武裕子
主題歌:「紅」Little Glee Monster
企画:若泉久朗
プロデューサー:二宮直彦、大崎紀昌、千綿英久、根岸洋之
撮影:柳島克己 照明:根本伸一
録音:反町憲人
美術:倉本愛子 装飾:山田智也
衣装プラン:宮本まさ江 衣装:江口久美子
ヘアメイク:風間啓子 VFX:浅野秀二、横石淳
サウンドデザイン:石坂紘行 編集:佐藤崇
音楽プロデューサー:北原京子
助監督:安達耕平 キャスティング:川口真五
制作担当:間口彰

出演:
綾野剛(成田狂児)
齋藤潤(岡聡実)
芳根京子(合唱部副顧問・森本もも)
北村一輝(祭林組組長)
橋本じゅん(ハイエナの兄貴・小林)
やべきょうすけ(祭林組組員・唐田)
吉永秀平(同・銀次)
チャンス大城(同(キティの兄貴)・尾形)
RED RICE[湘南乃風](同・峯)
坂井真紀(聡実の母・岡優子)
宮崎吐夢(聡実の父・岡晴実)
ヒコロヒー(狂児の母・和子)
加藤雅也[友情出演](狂児の父・田中正)
岡部ひろき(合唱部コーチ・松原)
八木美樹(合唱部副部長・中川)
後聖人(合唱部2年・和田)
井澤徹(映画を観る部・栗山)
米村亮太朗(祭林組元組員・玉井)
伊島空(祭林組組員・進藤)、テイ龍進(同)、今村謙斗(同・堂島)、賀家勇人(同)、前田あおい(合唱部・千鳥)、芹沢凛(同・池上)、紅里(同・蓮沼)、中川晴樹(祭林組組員)、土佐和成(同)、川上凜子(狂児の姉・京子)

STORY
合唱部部長の岡聡実(おかさとみ)はヤクザの成田狂児(なりたきょうじ)に突然カラオケに誘われ、歌のレッスンを頼まれる。組のカラオケ大会で最下位になった者に待ち受ける“恐怖”を回避するため、何が何でも上達しなければならないというのだ。狂児の勝負曲はX JAPANの「紅」。聡実は、狂児に嫌々ながらも歌唱指導を行うのだが、いつしかふたりの関係には変化が…。聡実の運命や如何に? そして狂児は最下位を免れることができるのか?【公式サイトより】

和山やまさんの同名コミックを山下敦弘監督が実写映画化。日本語字幕つきにて鑑賞。

奇しくも次世代応援プロジェクト『音〜女子版〜』に続いての合唱部モノ(あれを合唱と呼べるかどうかはともかく)。
男子中学生がヤクザに歌い方を教えるというまさに漫画やわ、漫画な設定の本作、レッスンを頼むにしても高校生ならまだしも声変わり前の中学生に声をかけるか?という素朴な疑問はあるが、その変声期こそが本作の肝となっている。
野木亜紀子さんによる脚本は実に見事で、これなら原作者も原作ファンも納得だろうという出来栄え。とりわけ「紅」の歌詞、中でも英語のパートを日本語に訳し、それを狂児と聡実、それぞれの心境に重ね合わせるあたりは心憎いばかりで、狂児が死んだと思い込んだ聡実が高音が出にくくなりながらも「紅」を熱唱するシーンが幾層倍にも活きてくる。
また、「映画を観る部」もオリジナルの設定だが、この部の幽霊部員でもある聡実は合唱部の練習には出ずに、栗山と『白熱』『カサブランカ』『三十四丁目の奇蹟』『自転車泥棒』といったモノクロの映画をVHSで鑑賞する。ビデオデッキには不具合があり、巻き戻しができないようになっているのは、聡実ら中学生たち自身とも重なる。
聡実が買ってきた中古のビデオデッキによってVHSは巻き戻されるが、こちらの方は父によって出生届の「京二」を「狂児」に書き換えられた時点から人生の歯車が狂っていた狂児が再びやり直せることの象徴でもあろう。
狂児の裏声に始まり、「ルビーの指環」「歩いて帰ろう」といった聡実セレクトの歌を練習する合間合間に「紅」を挟むところや、祭林組の面々が歌うのに対し聡実が一言ずつコメントをつけていき、最後は「カス」で終わるところなどの演出も楽しく、実写化した意義が感じられる作品だった。

主演の綾野剛さんは関西弁もそつなくこなし、コメディもいけるところを証明。オーディションで選ばれた齋藤潤さんも役柄にぴったり。

同じ監督・脚本コンビのドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』にも出演していた芳根京子さんは、原作にはないオリジナルキャラで、頭はお花畑な副顧問という役どころ。ピアノは実際に演奏しているそうだけど、表参道高校合唱部で鍛えた歌声も披露してほしかったな。