誰も守ってくれない(君塚良一監督) | 新・法水堂

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『誰も守ってくれない』


2008年日本映画 118分
脚本・監督:君塚良一 脚本:鈴木智
製作:亀山千広
音楽:村松崇継
撮影:栢野直樹 照明:磯野雅宏 録音:柿澤潔
美術:山口修 装飾:平井浩一
編集:穂垣順之助 VFXディレクター:山本雅之
監督補:杉山泰一 製作担当:橋本靖、斎藤健志
主題歌:「You Were There あなたがいるから」Libera リベラ

出演:
佐藤浩市(刑事・勝浦卓美)
志田未来(船村沙織)
松田龍平(刑事・三島省吾)
柳葉敏郎(ペンション経営者・本庄圭介)
石田ゆり子(圭介の妻・本庄久美子)
木村佳乃(勝浦の友人・尾上令子)
佐々木蔵之介(記者・梅本孝治)
佐野史郎(係長・坂本一郎)
津田寛治(刑事・稲垣浩一)
須永慶(係長・山本茂)、掛田誠(刑事)、水谷あつし(同)、伊藤高史、浅見小四郎、井筒太一、渡辺航、佐藤裕、東貴博(記者・佐山惇)、大河内浩(編集長)、佐藤恒治(沙織の父・船村礼二)、長野里美(沙織の母・船村澄江)、冨浦智嗣(沙織の同級生・園部達郎)、野元学二、菅原大吉(区役所職員)、西牟田恵、平野早香、貞包みゆき(レポーター)、平手舞(同)、須永祐介、山根和馬(トオル)、浮田久重(店員)、井上康、荒井萌(勝浦美菜)、柄本時生(森本)、ムロツヨシ(だいまじん)、青木忠宏、渡仲裕蔵、松岡務、阿部六郎、田崎正太郎、松本真由美、貞平麻衣子、飯嶋耕大(沙織の兄・船村直人)、河口舞華、小山田伊吹、藤原進一朗、吉田晋一、海老原敬介、積圭祐、堤匡孝、浅里昌吾、青木一、徳永淳、横塚真之介、安岡直、平良千春、大村美樹、吉村玉緒、江澤規予、熊谷美香

STORY
「出てきました! 今、容疑者の少年が出てきました!」ごく平凡な四人家族の船村家。ある日突然、その一家の18歳の長男・直人が小学生姉妹殺人事件の容疑者として逮捕される。東豊島署の刑事・勝浦と三島は突如、坂本係長からその容疑者家族の保護を命じられる。妻とうまく行っておらず、娘・美菜の提案で二日後から休暇を取って家族旅行に行く予定だった勝浦は、渋々三島とともに船村家へ向かう。二人はそこで、容疑者の家を取り囲む報道陣、野次馬たちを目の当たりにする。彼らの任務は、容疑者家族をマスコミの目、そして世間の目から守ることだった。容疑者家族の保護マニュアルにのっとり、船村夫婦は離婚、改めて婚姻し夫が妻の戸籍に入り、家族は苗字を妻の旧姓・大野に変えさせられ、娘の沙織は就学義務免除の手続きを取らされる。そして夫婦、娘の三人は別々に保護されることになり、15歳の沙織の保護は彼女と同い年の娘を持つ勝浦が担当することになる。勝浦と沙織、二人の終わりの見えない逃避行が始まる。ホテル、自分のアパート、カウンセラー・尾上令子のマンションと場所を変えて沙織をかくまう勝浦だったが、マスコミは居場所を嗅ぎつけ、どこまでも付きまとってくる。一方、佐山とともに船村家の取材をしていた新聞記者・梅本は、沙織の保護をする勝浦の顔を見て三年前のある事件を思い出す。そんな中、沙織の携帯電話を取りに船村家に戻った勝浦だったが、捜査員が目を離した隙に母親がトイレで自殺してしまう。恋人・園部達郎からの電話でそのことを知った沙織は、「お母さん、警察の人と一緒にいたんでしょ! なのに何で! 警察の人何してたの!」と勝浦に食ってかかる。勝浦は、自分の置かれた状況を理解できずに苦しむ沙織をただ見守ることしかできなかった。そして、令子のマンションまで取材しにきた梅本に「ご遺族は犯人の家族にも罪を償って欲しいと思ってる。死んで償えと思ってる」と責められるのだった。マスコミから逃れるため、勝浦は沙織を連れて、東京を離れて伊豆のとある場所を目指すことにする。そこは、三年前ある事件に巻き込まれ幼い息子を失ってしまった夫婦・本庄圭介と久美子が経営する海辺のペンションだった。実はその事件の捜査をしていたのが勝浦だった。上司・坂本の命令で動けなかったとはいえ本庄夫妻の息子を死なせてしまったことで、勝浦は心に深い傷を抱えていた。本庄夫妻への心苦しさはあったが、勝浦にはもうそのペンションしか逃げ場がなく、すがる思いで車を飛ばした。伊豆へ向かう途中、新聞やテレビで三年前の勝浦の捜査ミスが取り上げられ、勝浦が殺人犯の妹を保護していることも公になる。なんとかたどり着いたペンションで勝浦たちを温かく迎える本庄夫妻。三島と沙織の取調べを担当する稲垣もペンションにやってきて、更にネットの掲示板で居場所を知った達郎が沙織に会いに来る。明るい表情を見せる沙織に安心する勝浦だったが、翌朝、二人が部屋から姿を消しているのが見つかる。勝浦は掲示板を見た圭介から「警察はうちの子を守ってくれなかったのに、犯人の家族は守るんですか……」と悲痛な思いをぶつけられながらも、二人を探しに向かう。【公式サイトより】

モントリオール世界映画祭最優秀脚本賞受賞作。
同映画祭でグランプリに輝いたのが言わずと知れた『おくりびと』。2年前には『長い散歩』もグランプリほか3部門で受賞しているし、よっぽど日本映画が好きなんだな。笑

君塚良一さんがメガホンを取るのはこれが3作目ということになるが、本作がダントツでいい。
加害者家族の保護というのも君塚さんらしいテーマで、個人的には『踊る大捜査線』よりも好きな『TEAM』に近いテイストの作品に仕上がっている。

加害者家族の保護というと聞こえはいいが、結局は自殺でもされて取調べができなくなって困るのは警察。従って、そのマニュアルとやらも加害者家族のことを考えて作られたものとは到底言いがたい。
加害者家族の家に区役所やら教育委員会の人間が出張して、離婚・再婚や勉学免除の手続きをするのもいかにも手慣れたもの。実際にこういう手続きが行われるのかどうかは幸いにして加害者の家族になったことはないので定かではないが、冒頭の「あなたがいるから」をバックに台詞なしで描かれる楽しげな学校生活が二度とは戻ってくることはなく、それまでの生活が一変してしまったと強く印象づけられるシーンとなっている。

船村家が長男の逮捕によって崩壊したのに対し、沙織を保護する勝浦の家はまだぎりぎり家族としての繋がりを保とうとしている。娘へのプレゼントは家族の絆の象徴で、箱がつぶれれば接着剤で何とか修復しようと試みる。
たとえぎりぎりであっても、まだ家族と呼べる関係。
それは沙織があっけなく失ってしまったものであり、彼女が自分たちの居場所をネットで流して勝浦を困らせようとしたというのも分からない話ではない。

かつて勝浦がかかわった事件で幼い息子を失った本庄夫妻を登場させるのもうまいところ。二人もまた一瞬にしてそれまでの生活を失ったわけだが、勝浦と沙織を温かく迎え、息子が殺されたのは勝浦のせいではないと慰める。
ところがふとした拍子に心の奥底に隠していた感情がむき出しとなる。
事件のことは忘れて前向きに生きなければいけない、頭ではそう思っていても、簡単に忘れることなどできるはずがなく、誰かを責めずにはいられない。
本庄の息子を「守れなかった」という自責の念が、まさに「誰も守ってくれない」状態の沙織だけは守ろうと勝浦を突き動かす。ホテルの部屋で盗撮機器をしかけていたオタクたちから身を呈して沙織を守る勝浦の背中が何とも大きく頼もしく見えた。

志田未来さんは最初の方は顔が真ん丸。笑
それが段々、目つきや表情でシャープになってくるから大したもの。
母親役が長野里美さんというのもポイント高し。
柳葉敏郎さんのバーターだとしても、いい仕事をしてるなぁ。