TAAC『狂人なおもて往生をとぐ』 | 新・法水堂

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『狂人なおもて往生をとぐ』



2023年10月27日(金)〜11月1日(水)
小劇場B1

作:清水邦夫 演出:タカイアキフミ
美術:稲田美智子 音楽:髙位妃楊子
音響:谷井貞仁 照明:榊󠄀美香
衣装・宣伝衣装:藤崎コウイチ
舞台監督:吉川亮、佐藤卓哉
宣伝美術:藤尾勘太郎
宣伝写真:堀川高志、引地信彦
宣伝ヘアメイク:鶴永チヒロ
舞台写真:引地信彦 WEB:立花裕介
制作:笠原希

出演:
三上市朗(善一郎)
永嶋柊吾(出)
千葉雅子(はな)
福永マリカ(愛子)
櫻井健人(敬二)
古澤メイ(敬二の婚約者・西川めぐみ)

STORY
ピンクの照明が妖しげに光る娼家。大学教授と名乗る初老の男・善一郎は、ここの女主人・はなの客である。そして、青年・出は女主人のヒモでここから逃げようとしているが、彼女の優しさから逃れられない。この娼家には若い娼婦・愛子もいて、彼女の客である若い男・敬二もやって来る。しばらくして、彼らはまるで家族であるかのように家族ごっこを始める。初老の男が父親、女主人が母親、青年が長男、若い女が長女、若い男が次男。しかし、家族ごっこはごっこではなく、彼らが本当の家族であることが徐々にわかってくる。精神を病んだ青年は妄想に取り憑かれており、その妄想に他の家族はつきあっているのだった。そして、敬二の婚約者・西川めぐみが家を訪れたことにより、家族の秘密がどんどん明らかになってきて…。なぜ出は狂気に追いやられたのか。この家族が抱える秘密とは。【当日パンフレットより】

1969年、俳優座で初演された清水邦夫さんの戯曲をタカイアキフミさんが演出。

舞台には傾いだ壁、下の一部が開いて青年が出入りできるようになっている。上手にこれまた傾いだ扉の枠組があり、通路へと続く。その他、椅子や花瓶など。下手にも出入口があり、そこが板張りになっている以外、床は砂地のような外見。天井からはシェードのついたライトがぶら下がり、紐を引っ張るとピンクに染まる。

タイトルだけは知っていた本作、観るのは初めてだったが、何が現実で何がごっこ遊びなのか、誰が狂っていて誰が正気なのか、次第に分からなくなってくる様が実にスリリング。
1969年と言うと学生運動も盛んな頃で、現実そのものが狂気じみていたとも言えるのかも知れないが、出、愛子、敬二の3人が壁の向こうへと消えていくラストは、絵に描いたような家族像の崩壊でありながら、ハッピーエンディングのようにも見えてくる。
いやこれ、俳優陣は相当疲弊するだろうな。

中でも引退した三津谷亮さんの代役を務めた永嶋柊吾さんは、狂気を孕んだ青年の表情や台詞回し等、何かが乗り移ったかのような演技でとてもよかった。ただ、若干のトチリでそれが途切れてしまう瞬間があったのが惜しまれる。
二幕から登場の古澤メイさんも、この異常な一家における異質な存在としての役割を十二分に果たしていたが、やはりところどころトチリがあったのが残念。
決して噛むなと言っている訳ではなく、本当にうまい俳優になると多少噛んでも気にならないのよな。微妙な間を発生させないぐらいに役になりきってくれればいいのだけど。
お目当ての福永マリカさんは父親を見る時の目つきが獲物を狙う獣のようで、何を企んでいるのかとゾクゾクさせられた。

上演時間2時間2分。