ゴーチ・ブラザーズ『ブレイキング・ザ・コード』 | 新・法水堂

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年間300本以上の演劇作品を観る観劇人です。ネタバレご容赦。

ゴーチ・ブラザーズ製作

『ブレイキング・ザ・コード』

BREAKING THE CODE


2023年4月1日(土)〜23日(日)
シアタートラム

作:ヒュー・ホワイトモア
演出:稲葉賀恵
翻訳:小田島創志
音楽:阿部海太郎

美術・衣裳:山本貴愛 照明:吉本有輝子
音響:池田野歩 ヘアメイク:谷口ユリエ
演出助手:田丸一宏
舞台監督:川除学、鈴木章友
宣伝美術:山下浩介 宣伝写真:杉能信介
宣伝ヘアメイク:高村マドカ
WEB制作:三澤一弥
宣伝協力:吉田プロモーション
プロデューサー:笹岡征矢

出演:
亀田佳明(アラン・チューリング)
水田航生(ロン・ミラー)
堀部圭亮(部長刑事ミック・ロス)
保坂知寿(アランの母サラ・チューリング)
岡本玲(暗号解読者パット・グリーン)
加藤敬二(政府暗号学校ディルウィン・ノックス)
田中亨(アランの親友クリストファー・モーコム/ギリシャ人の若者ニコス)
中村まこと(ジョン・スミス)

STORY
第二次世界大戦後のイギリス。エニグマと呼ばれる複雑難解なドイツの暗号を打ち破り、イギリスを勝利へと導いたアラン・チューリング。しかし、誰も彼の功績を知らない。この任務は戦争が終わっても決して口にしてはならなかったのだ。そしてもう一つ、彼には人に言えない秘密があった。同性愛者が犯罪者として扱われる時代、彼は同性愛者だった。あらゆる秘密を抱え、どんな暗号も解き明かしてきた彼が、人生の最後に出した答えとは…。悲運の死を遂げた彼の生涯を少年時代、第二次世界大戦中の国立暗号研究所勤務時代、晩年と時代を交錯させながら描いていく。【公式サイトより】

1986年初演、BBCでドラマ化もされ、日本では劇団四季により1988年〜1990年に上演された作品。

床と壁は算木崩し状の模様で、壁はやや前傾。左右の床に下へと続く階段。最初は奥に机や椅子、ソファ、棚、帽子掛けなどがあり、開演するとキャスト陣が出てきて所定の位置に並べる。レイアウトはシーンによって変更あり。天井には縦3×横3に並んだ蛍光灯のような照明があり、色が変えられる。

「暗号を解く」と「掟、法律を破る」というダブルミーニングを持つ本作の主人公アラン・チューリングは、映画『イミテーション・ゲーム』でベネディクト・カンバーバッチさんが演じた実在の人物。
1912年、ロンドンに生まれ、第二次世界大戦中はドイツ軍のエニグマ暗号機による暗号を解読して勝利に貢献したアランは国から勲章を受ける一方、1952年に当時禁止されていた同性愛行為の罪で逮捕。その2年後に41歳という若さで亡くなる。

物語は空き巣に入られたアランが部長刑事のロスから事情聴取を受けるところから始まる。それがきっかけでロン・ミラー(アーノルド・マレーがモデル)との同性愛行為が発覚してしまうことになるのだが、その経緯を過去と現在を行き来しつつ描いていく。
基本的にアランとロス、アランとクリストファーとサラ、アランとノックスとパットのようにアランと誰かという形で会話が繰り広げられていくので、アラン役の亀田佳明さんはほぼ出ずっぱり。
普段は爪を噛む癖があって落ち着きがなく、言葉も吃りがちながら、自分の専門分野については滔滔とまくしたてたり、小学校で子供たちを前に講義をしたり様々な表情を見せる。
会話のテンポや場面場面の繋がりもよく、全体的に見やすかった。特に上述の蛍光灯のような照明の使い方がカッコよく、特に最後の方でデジタルな動きを見せるところはコンピューターがデータ処理をしているかのようだった。
始まったばかりの朝ドラ『らんまん』も手掛ける阿部海太郎さんによる音楽も作品の雰囲気に合っていた。

アランを追及していくロスやアランに想いを寄せるパット、アランと一夜を過ごすロンなど、脇のキャラクターの描き方もよかったが、とりわけ印象に残ったのは保坂知寿さん扮する母親サラ。息子に同性愛者であることを打ち明けられるシーン、また、息子の死が自殺ではなく事故だと主張するシーンで母親としての愛情がにじみ出ていた。
また、中村まことさん扮するジョン・スミスはなかなか本名と信じてもらえないという名前からして怪しげだが、国家権力そのもの、つまりはイギリスという国家の象徴であろう。出番は少ないながら、不気味な存在感であった。

上演時間2時間44分(一幕1時間10分、休憩16分、二幕1時間18分)。