松竹製作『歌うシャイロック』 | 新・法水堂

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松竹製作

『歌うシャイロック』



【東京公演】
2023年3月16日(木)〜26日(日)
サンシャイン劇場

作・演出:鄭義信
音楽:久米大作 美術:池田ともゆき
照明:増田隆芳 音響:藤田赤目
衣裳:木場絵理香 ヘアメイク:高村マドカ
擬闘:栗原直樹 振付:青木美保
歌唱指導:西野誠 演出進行:松倉良子
舞台監督:佐々木智史
ビジュアルデザイン:阿部寿
宣伝写真・映像:加藤孝 宣伝衣裳:冨樫理英
宣伝ヘアメイク:大宝みゆき
制作:河辺幸枝、藤本綾菜
プロデューサー:牧原広幸、佐々木弘毅

出演:
岸谷五朗(シャイロック)
中村ゆり(娘ジェシカ)
渡部豪太(アントーニオ)
岡田義徳(パッサーニオ)
真琴つばさ(ポーシャ)
福井晶一(女中頭ネリッサ)
和田正人(ロレンゾー)
マギー(モロッコ大公/グラシアーノ/公爵)
小川菜摘(ラーンスロットの母マーシャリー/侍従長パルサザー/医者/避難民)
駒木根隆介(シャイロックの下働き・ラーンスロット/避難民)
車貴玲[兵庫県立ピッコロ劇団](ヴェニスの住民/侍従/傘を差す人/裁判傍聴人/避難民)
五味良介(ヴェニスの住民/女中/傘を差す人/アントーニオの友人/裁判傍聴人/避難民)
曽我廼家桃太郎(ヴェニスの住民/女中/傘を差す人/アントーニオの友人/裁判傍聴人/避難民)
武田亮汰(ヴェニスの住民/モロッコ大公の部下/傘を差す人/アントーニオの友人/廷吏/避難民)
谷田奈生(ヴェニスの住民/侍従/傘を差す人/裁判傍聴人/避難民)
西村聡(ヴェニスの住民/モロッコ大公の部下/傘を差す人/アントーニオの友人/裁判傍聴人/避難民)
羽鳥翔太(ヴェニスの住民/女中/傘を差す人/アントーニオの友人/廷吏/避難民)
平井珠生(ヴェニスの住民/侍従/傘を差す人/裁判傍聴人/避難民)
平岡亮(ヴェニスの住民/モロッコ大公の部下/傘を差す人/アントーニオの友人/裁判傍聴人/避難民)
山村涼子(ヴェニスの住民/侍従/傘を差す人/裁判傍聴人/避難民)

STORY
ヴェニスに暮らすユダヤ人の金貸しシャイロックは、
冷酷な取り立て故に町の嫌われ者。愛する一人娘のジェシカも心を痛め、そんな環境から逃れようと恋人のロレンゾーと父親の金を持ち出して駆け落ちをはかる。その頃落ちぶれ貴族パッサーニオは、恋の成就の為に親友の商人アントーニオに金の融通を頼む。しかしアントーニオは所有する商船が全て海に出ており手持ちの金がなく、仕方なく日頃嫌っているシャイロックから「肉1ポンド」を担保に金を借りることにする。パッサーニオの求婚相手ポーシャは、父親から莫大な遺産を譲り受け多くの男たちに求婚されてきたが、父が遺言で残した求婚試験に合格したものはこれまで一人もいなかった。そんな中、パッサーニオがやっとの思いで試験に合格、ポーシャと結ばれ喜んでいるところへ、一通の手紙が届けられる。アントーニオのすべての商船が嵐のため難破したというのだ。借金が返せなくなったアントーニオは、シャイロックとの裁判で負ければ「肉1ポンド」を切り取られてしまう。果たして裁判の結果は? そしてシャイロック親娘の運命は?【公式サイトより】

鄭義信さんがシェイクスピアの『ヴェニスの商人』をシャイロック目線で描いた作品。2014年、韓国で初演され、日本では2017年に兵庫県立ピッコロ劇団にて上演。

台詞は全篇関西弁、現代日本風の看板も出たりはするが、舞台は原作と同じくヴェニスおよびベルモントで、可動式の階段等を組み合わせて街並みやらポーシャの屋敷やら裁判所になる。

鄭義信さんらしく笑いあり涙ありの作品となっているが、コメディパートは完全に吉本新喜劇。全員でコケるし、桑原和男さんの「ごめんください。どなたですか。〜」や何か言おうとして何も言わずに去るなど、吉本のギャグも出てくる。
マギーさんもモナコ大公のパートでかなり笑いを取っていたが、お付きの男たちが槍を持って「ウッホウッホ」と言うのはどうなんだ……。観る前に北村紗衣さんのtwitterを見てそのような描写があることは知っていたけど、まるで昭和の漫画に出てくるような野蛮人の格好を目の当たりにするとマギーさんのギャグもまったく笑えなかった。

ウェットにまとめている部分としては、アントーニオがユダヤ人を蔑視しているペッサーリオと袂別するくだりがまず挙げられる。
そこには当然、在日朝鮮・韓国人のことも込められているのだろうけど、そういったテーマを扱っているから尚更上述のような演出があったのは残念。

もう一つ大きな改変としてはジェシカが精神を病んでしまい、幼児退行したかのようになる点(どもりだったロレンゾーもジェシカと結婚している間はどもりがなくなり、別れた後、再びどもりとなる)。
裁判後、雪が降る中をシャイロックがリアカーにジェシカを乗せて、明日は晴れるというような毎度御馴染な長台詞。ユダヤ人である彼らが「平和の町」を意味するエルサレムを目指すというのはちょっと皮肉が効いているが、背後に戦争で行き場をなくしたような人々が出現して今なお続くパレスチナ問題も想起させた。

キャストはそれぞれに見せ場あり。
お目当ての中村ゆりさんは最初は若干声が出ていないようにも感じたけど、三幕の最後、幼児退行してしまったジェシカの演技が素晴らしかった。
日本での初演では剣幸さんが演じたポーシャ役を今回は真琴つばささんが演じ、三幕で男装するシーンは当然のことながら様になっていた。女中頭を福井晶一さん、その他の女中も男性のアンサンブルが演じ、福井さんも三幕で男装。2人揃って「男です!」とアピールし、デュオも披露。
渡部豪太さんは憂鬱の中に真っ直ぐさを感じさせ、小川菜摘さんの芸達者ぶりにも目を見張った。

上演時間3時間38分(一幕1時間22分、休憩20分、二幕三幕1時間56分)。