名取事務所『占領の囚人たち』 | 新・法水堂

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年間300本以上の演劇作品を観る観劇人です。ネタバレご容赦。

名取事務所公演

『占領の囚人たち』

 

 
2023年2月17日(金)〜26日(日)
「劇」小劇場
 
『Prisoners of the Occupation』東京版
作:パレスチナ人政治囚、エイナット・ヴァイツマン
『I, Dareen T. in Tokyo』
作:ダーリーン・タートゥール、エイナット・ヴァイツマン
翻訳・ドラマトゥルク:渡辺真帆
演出:生田みゆき
美術:杉山至 美術助手:濱崎賢二
照明:桜井真澄 照明操作:鈴木啓子
音響:志和屋邦治 映像:浜嶋将裕
衣裳:樋口藍 演出助手:戸塚萌
舞台監督:小島とら
制作担当:栗原暢隆、鍋嶋大輔
プロデューサー:名取敏行
 
出演:
『Prisoners of the Occupation』東京版
カーメル・バーシャー(パレスチナ市民/タクシー運転手/囚人 他)
鍛治直人[文学座](取調官/「鳥」/裁判官/ウィサームの母/諜報官/囚人・ハンストリーダー/ウィサームの父/隣の独房の囚人ワヒード 他)
松田祐司(税関職員/劇場スタッフ/取調官/「鳥」/被告/裁判所職員/看守/囚人 他)
西山聖了[名取事務所](庭師ウィサーム・サイード/弁護士)
『I, Dareen T. in Tokyo』
森尾舞[名取事務所](エイナット・ヴァイツマン/ダーリーン・タートゥール/兵士/尋問官/弁護人)
カーメル・ハージャー
 
STORY
パレスチナ人男性の4人に1人は収監される—―。ユダヤ系イスラエル人作家のエイナット・ヴァイツマンが、パレスチナ人の元/現囚人らと作り上げたドキュメンタリー演劇『Prisoners of the Occupation』。SNS投稿が原因で逮捕・収監され、世界的に有名になった詩人ダーリーン・タートゥールの独白劇『I, Dareen T.』。尋問、ハンスト、面会など、今日も刑務所で起きている苛烈な現実と、占領と男性支配、二重の抑圧に抗うパレスチナ人女性の闘い。【公演チラシより】

名取事務所による〈パレスチナ演劇上演シリーズ〉最新作。

ユダヤ系イスラエル人の劇作家エイナット・ヴァイツマンさんによる戯曲2本を上演。
まずは2017年、イスラエルの演劇祭でタイトルだけで上演禁止となった『Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)』。
パレスチナ人の囚人にインタビューした内容を元にしたドキュメンタリー演劇で、演劇にしか出来ない手法で刑務所の内情を暴き出す。「東京版」とつけられた本作は、出演俳優が現地制作した様子も作品の中に織り込まれ、単なる翻訳劇ではなく、彼ら自身のドキュメンタリー演劇にもなっている。
これが殊の外効果的で、そうすることでこの囚人たちが置かれた状況が決して遠い国の自分たちとは関係のない話ではなく、地続きのものなのだと感じられる。

先日観たTRASHMASTERS『入管収容所』同様、演劇の持つ力を実感させられる作品で(本作にも囚人たちがハンガーストライキをするシーンあり)、拷問シーンでは取調官役の鍛治さんが囚人役の西山さんを実際に平手打ちしている(さすがに腹蹴りは寸止め)こともあり、尚更生生しさがあった。
俳優陣は全員素晴らしく(特に鍛治さん)、自分を演じている時と役柄を演じている時のギャップが凄まじい。実際に収監体験のあるイスラエル人俳優カーメル・バーシャーさんの存在が何にも増して説得力があり、「私たちは劇場にいる。彼らは刑務所にいる」という言葉がグサグサと突き刺さった。

休憩を挟んで『I, Dareen T. in Tokyo』。
森尾舞さんが椅子を2つ置き、上手側には黒の革ジャン、下手側の木の椅子には白いヒジャブをかける。それぞれ上手がエイナット・ヴァイツマンさん、下手がダーリーン・タートゥールさん(この段階でようやくお二人とも女性であることを知った。汗)を表し、森尾さんが一人でこの二人(+その他大勢)を演じる。

これも『Prisoners〜』同様、エイナットさんとダーリーンさんの話に留まらず、森尾さんも含めた3人の女性の物語となっていた。
そもそも本作は『Prisoners〜』創作過程においてエイナットさんがダーリーンさんに出会ったことがきっかけで生まれたのだが、エイナットさんは戯曲を読んだダーリーンさんに「取り上げられる囚人は男ばかり」と言われてなぜそのことに気づかなかったのかと悔やむ。
逮捕され、裁判にかけられても発言を許されない中、エイナットさんがダーリーンさんの手を握り続け、エイナットさんは自分の手汗のことを気にしたりもするのだが、後日、ダーリーンさんが描いた繋がれた手の絵が映し出されるのが感動的。
人種や宗教が違っても、こうやって手を繋ぎ、心を寄り添わせることができる。個人レベルで可能なことが国レベルでできないという道理はないだろう。
最後にダーリーンさんとエイナットさんからのメッセージも表示(前者はヘブライ語、後者はアラビア語)。もちろん、翻訳があって森尾さんが朗読。つい先日のニュース映像なども流され、現在進行形の問題であることを突きつけられた。

『ペーター・ストックマン』などの演技で第30回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞したばかりの森尾舞さんは本作でも実に素晴らしく、ダーリーンさんとのやりとりを回想するシーンで涙ぐんでいるあたり、胸に迫るものがあった。
 
上演時間2時間38分(『Prisoners~』1時間14分、休憩14分、『I, Dareen~』1時間10分)。