『有りがたうさん』
1936年日本映画 78分
脚本・監督:清水宏
原作:川端康成
撮影:青木勇 録音:土橋晴夫、橋本要
音楽指揮:堀内敬三 編曲:篠田謹治
音響効果:斎藤六三郎 伴奏:松竹管絃楽団
現像焼付 :納所歳巳、阿部鉉太郎
撮影助手:吉田勝亮、斎藤毅、森田俊保
配光:佐野広志 衣装:柴田鉄蔵
小道具:井上恒太郎 結髪:遠藤末子
自動車操作指導:武内秀浩、村田均造
監督補助:沼波功雄、佐々木康、長島豊次郎
記録:前島一雄 撮影事務:田尻丈夫
字幕:藤岡秀三郎
出演:
上原謙(有りがたうさん)
石山隆嗣[石山龍児](髭の紳士)
仲英之助(行商人)
桑野通子(黒襟の女)
築地まゆみ(売られゆく娘)
二葉かほる(その母親)
河村黎吉(東京帰りの村人)
忍節子(その娘)
堺一二(行商人A)
山田長正(行商人B)
河原侃二(猟帰りの男)
青野清(田舎の老人)
金井光義(村の老人)
谷麗光(医者)
小倉繁(新婚の夫)、河井君枝(新婚の妻)、如月輝夫(うらぶれた紳士)、利根川彰(田舎のアンちゃん)、桂木志郎(祝言の夫婦)、水上清子(同)、県秀介(お通夜の人)、高松栄子(茶店の婆さん)、久原良子(朝鮮の女)、浪花友子(旅役者)、三上文江(同)、小池政江(同)、爆弾小僧[横山準](同)、小牧和子(村の娘)、雲井つる子(酌婦)、和田登志子(同)、長尾寛(旅芸人)、京谷智恵子(同)、水戸光子(同)、末松孝行(同)、池部鶴彦(薬屋)、飯島善太郎(小学生)、藤松正太郎(同)、葉山正雄(同)
STORY
南伊豆のとある港町。一台の乗り合いバスが待合室の前に止まっている。美しい娘を連れた老母が乗り込み、淋しそうに運転手に言う。「有りがとうさんに乗せて行って貰うなら、この娘も幸せです…」。貧しい老母は遠くの町に娘を売りに行くのだ。そして、いわくありげな黒襟の娼婦、娘を卑猥な目つきで見る髭の紳士らを乗せてバスが走り出す。時折、娘の視線が運転手の背中に止まる。娘は以前から運転手に好意を寄せていた。バスが馬車に追いつくと、道端に寄った馬車の横を「有難う」と運転手が窓から顔を出しながらすり抜ける。また、荷車が横に寄る。「有難う」。だから人々はこの丁寧な運転手を“有りがたうさん”と呼ぶ。バスは様々な人生を乗せ、様々な人生とすれ違って走っていく…。【早稲田松竹公式サイトより】
『風の中の子供』に続いて早稲田松竹《清水宏監督特集》にて鑑賞。
原作は川端康成さんの『掌の小説』の一篇「有難う」で、上原謙さんの初主演映画。
タイトルの「有りがとうさん」は静岡県伊豆半島の天城街道を走る乗合バスの運転手の愛称で、道を譲ってくれた人々に対して、「ありがとーう」と声をかけるのがその由来。
本作は2つの峠を越える中でバスに乗り降りしたり、すれ違ったりする人々を描く一種のロードムービーとなっていて、オールロケというのが当時としては画期的。伊豆半島が舞台ということもあって、まったく内容は違うけど、昨日たまたまデータ補完をするために見返していた『キネマの神様』の出水宏監督作品のことを思い出した。
設定的にバスの中での話がメインとなり、髭の紳士と黒襟の女との対立を軸に、売られゆく娘とその母親なども絡んでくるのだが、途中、有りがとうさんが言付けを頼まれたり、レコードを買ってくるように頼まれたりするのが何ともほのぼのした味わいを醸し出す。
中では、黒襟の女を演じた桑野通子さんの存在感が出色。当時21歳とは思えない色気で、煙草を吸ったり酒を飲んだりもする。
売られゆく娘役の築地まゆみさんは劇中では17歳という設定だったけど、公開翌年に急性肺炎のために17歳の若さでお亡くなりになったとのこと。