新宿梁山泊『奇妙な果実〜マルコムXと金嬉老〜』 | 新・法水堂

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新宿梁山泊第73回公演

『奇妙な果実〜マルコムXと金嬉老〜』

 

 
2022年12月15日(木)〜21日(水)
シアター・アルファ東京
 
作:趙博 演出:金守珍
照明:宮崎絵美子+ライズ
舞台美術:大塚聡+百八竜 舞台監督:竹原孝文
音響:大貫誉 稽古場音響:島本和人
振付:大川妙子 殺陣:佐藤正行
衣装:ASUKA 宣伝デザイン:福田真一
 
出演:
崔哲浩(金嬉老)
今川宇宙[大人の麦茶](ビリー珠希、Vocal)
有希九美(金嬉老のオモニ・朴得淑)
本間美彩(スナック・バー「花」のママ・巴幸代)
ジャン・裕一(マスター・吉永聡、Bass)
三輪桂古(従業員・モニカ、Keyboard)
望月麻里(同・李恵子、Trombone)
諸治蘭(同・バチェラ、Drums)
芳田遥[なかないで、毒きのこちゃん](同・桃子/窃盗犯ベトナム人女)
二條正士(ワイン工房二代目・新山和夫)
井上一馬(七曲署刑事・前田二郎)
大久保鷹(同・大橋良典)
藤田佳昭(真鍋組組員・岡田光輝)
荒澤守(岡田の舎弟・木下敦夫/窃盗犯ベトナム人男)
島本和人(大日本皇道会・桜川信、Guitar)
金指絵里香(バンドメンバー・金指絵里香、Sax)
天神直樹(同・天神直樹、Trumpet)
趙博(M、Guitar)
金守珍(NHKディレクター)
 
STORY
外国人差別のヘイトスピーチが蔓延する街。真鍋組と裏で繋がっている悪徳刑事・前田もまた外国人への敵意をむき出しにし、在日コリアンの金嬉老(キム・ヒロ)も標的にされていたが、金の父親に助けられたことがある老刑事・大橋だけは優しく接してくれる。幸代がママを務めるスナック・バー「花」には様々な出自を持つ授業員が働き、バンド演奏の練習に余念がなかった。幸代は従業員のよし子が母親の跡を継ぎ、二代目・ビリー珠希を名乗ることを発表する。一方、店に出入りするワイン工房の二代目・和夫はマスターの聡とともにカウンターデモの計画を立てていた。ある時、「花」でコリアンフェスが開かれるが、常連客である真鍋組の岡田がヘイト団体大日本皇道会の桜川を舎弟として連れてくる。そこへ突然、金嬉老がライフルを持って現れ、岡田たちを射殺する。金はビリー珠希に焼肉屋を営むオモニへの手紙を託すと、従業員を人質に立てこもり、政府や警察を相手に要求をつきつける。

5回目のタッグとなる趙博さん&金守珍さん最新作。
 
タイトルは言わずとしれたビリー・ホリデイさんの名曲。黒人差別をテーマにしたこの曲がタイトルで、マルコムXと金嬉老の名前がサブタイトルにあるとなれば、人種差別がテーマというのは予測がつく。
いわゆる金嬉老事件が起きたのが1968年2月。私なんかはビートたけしさん主演のドラマ『金の戦争』でこの事件のことを知ったクチだが、今では知らない人も多くなっているだろうな。
ただし本作は評伝劇ではなく、現代が舞台となっている。冒頭にはヘイトスピーチを撒き散らす差別主義者のデモの映像が流れて本当に胸糞が悪くなるけど、決して金嬉老事件は過去のことではなく、いつ第二、第三の金嬉老が現れてもおかしくないと思わされる。

昨年の『娼婦・奈津子』に続いて生演奏あり。
今川宇宙さんの歌声が実にいい。有希九美さんによる「鳳仙花」も心に沁みた。
趙博さんは語りと歌で1本の映画を再現する「歌うキネマ」というパフォーマンスをやっていて(『パッチギ!』は観たことあり)、スパイク・リー監督『マルコムX』もレパートリーの1つ。今回はマルコムX役として、映像をバックに英語でスピーチを披露。
 
上演時間1時間50分。

カーテンコールは撮影可。

アフタートークは金守珍さん、大久保鷹さん、趙博さんの3人(写真左より)。本作には自ら出演を志願したというレジェンド・大久保鷹さんのパレスチナやソウルでのエピソードが濃すぎてたまらない。
最後に金さんが新宿梁山泊『下谷万年町物語』Project Nyx『青ひげ公の城』の演出により紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞したとのお知らせ。めでたい。