二兎社『歌わせたい男たち』再演 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

二兎社 公演34

『歌わせたい男たち』



【名古屋公演】

2008年4月24日(木)

愛知厚生年金会館


作・演出:永井愛

美術:大田創 照明:中川隆一

音響:市来邦比古 衣裳:竹原典子

舞台監督:菅野将機 演出助手:鈴木修

歌唱指導:荒井洸子

宣伝美術:マッチアンドカンパニー

制作担当:弘雅美、安藤ゆか


出演:

戸田恵子(音楽科講師・仲ミチル)

大谷亮介(校長・与田是昭)

小山萌子(養護教諭・按部真由子)

中上雅巳(英語教師・片桐学)

近藤芳正(社会科教師・拝島則彦)


STORY

ある都立高校の卒業式の朝。音楽講師の仲ミチルは校長の与田から国歌や校歌の伴奏を命じられていたが、シャンソン歌手だったミチルはピアノが大の苦手。予行演習でも間違いだらけでついたあだ名が“ミス・タッチ”。早朝から音楽室で伴奏の練習に励むが、極度の緊張のせいか眩暈を起こして保健室に飛び込む。ミチルがベッドで寝ていると、与田が花粉症の薬をもらいにやってくる。そこへミチルが落としたコンタクトレンズを探していた養護教諭の按部が戻ってくるが、レンズは割れてしまっていた。このままでは楽譜が見えないため、ミチルは社会科教師の拝島から眼鏡を借りることを提案。ところが拝島は「君が代」斉唱に反対して不起立を決め込んでおり、都議会委員や教育委員会関係者も列席する中で何よりも「君が代」を成功させたい与田にとっては頭痛のタネだった。しかも英語教師の片桐からの報告で、昨年までその高校で教師をしていた桜庭が校門の前で国歌斉唱に反対するビラを撒いていることが判明。そうこうするうちに刻一刻と卒業式の時間が迫ってくる。


朝日舞台芸術賞グランプリ、読売演劇大賞最優秀作品受賞作、待望の再演。

2005年の初演は日程がかぶってしまったカムカムミニキーナ『越前牛乳』を観に行って未見。初の名古屋公演ということもあってカムカムを観に行ったのだけど、これが死ぬほどつまらなくてムカムカしてしまい(八嶋智人さんだけはよかったけど)、素直に二兎社を観に行っておけばよかったと後悔したものだった。


舞台は保健室で、その上に国旗が掲げられた屋上が見える。

極端に遠近法を強調したセットで壁なんかも斜めになっていて、日本の教育現場、ひいては日本という国家そのもののいびつさを象徴しているかのよう。

個人的には君が代も日の丸も国歌・国旗として身に染みついてしまっているし違和感はないが、それを強制して従わなければ処分というのはお隣の独裁国家と大して変わらないし、慄然とせざるを得ない。

この作品をイギリスで上演しようとしたら、「これはいったい、何十年前の話?」と聞かれたそうだけど、当事者にしてみれば笑い話ではないんだよなぁ…。

最後に拝島にリクエストされてミチルが『ちりとてちん』でも使われていた「聞かせてよ愛の言葉を」を歌う。この歌は拝島の父親が戦後、初めて聞いたときに民主主義の時代が来たと実感したという曲で、深い余韻を残す。


戸田恵子さんと近藤芳正さんの『中学生日記』出身コンビは劇中でも名古屋出身という設定で、名古屋弁の応酬で笑わせる。『相棒』でおなじみ大谷亮介さん扮する校長とのやりとりも面白おかしいものだが、笑いながらもかつて強制に反対する文章を書いておきながら今では歌わせなければいけない彼の立場に悲哀を感じる。特に最後の屋上からの演説は感動モノ。

パンフレットには永井愛さんと周防正行監督の対談が掲載されていて、周防監督は初演を観て『それでもボクはやってない』に大谷亮介さんを起用したのだとか。だったらもうちょっといい役にしてあげてよ(笑)。