東京芸術祭2022『となり街の知らない踊り子』 | 新・法水堂

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《東京芸術祭2022 芸劇オータムセレクション》

『となり街の知らない踊り子』



2022年11月4日(金)〜6日(日)
東京芸術劇場シアターイースト

作・演出・振付:山本卓卓(範宙遊泳)
振付・出演:北尾亘(Baobab)
美術:中村友美 照明:富山貴之 音響:池田野歩
衣裳:矢内原充志 映像:須藤崇規
舞台監督:原口佳子 演出助手:中村未希
美術製作:澁澤萌 美術助手:岡田新
舞台部:前田淳
制作:目澤芙裕子(Baobab)、白井美優(Baobab)
宣伝美術:宮本英一(scart)
宣伝写真:SAP CHANO
宣伝スタイリスト:飯嶋久美子
舞台写真:鈴木竜一朗 記録映像:須藤崇規

2015年初演以来、海外でも上演されてきた作品。

舞台奥に壁があり、中央に丸い穴。
天井からは2本の赤い紐。左右に脚立や姿見など。

Baobab主宰の北尾亘さんのパフォーマンスを見るのは初めてなのだけど、少年に始まり、老人になったり、ストリッパーになったり、それどころか動物や電車にまでなってしまう変幻自在ぶりに目が離せない(全部で25役あるとか)。途中、客席が明るくなって小休止する時間はあったが、1時間40分一人でパフォーマンスし続けるスタミナにも驚嘆するしかない。

もっと抽象的な作品なのかなと思っていたけど、北尾さんは普通に台詞もしゃべるし、台詞を投影することで対話をしているような演出もある。
ストーリーは断片的だが、たびたび言及されるのが日本で一番危険だとされる永井区。ここでは勤めを終えたストリッパーが刺殺される事件が起きたりもしている。また、電車がすし詰め状態で人々が目的の駅で降りられず、永井区の駅に到着、着いたら着いたで電車とホームの間に人が落ち、助けようとした人が周りの乗客に救急車を呼ぶように言ったら、「どうして私が?」と返されてしまうといった事故も。
更には、永井区の図書館で30人の人質をとった犯人が立てこもるという事件が発生。少しずつ犠牲者が増え、最後には全員が命を奪われる。
といった具合に現代社会の歪な空気感が感じられる作品となっていた。タイトルも、となり街の知らない踊り子が殺されたところで誰も関心を持とうとしないという意味を込めてつけられたのだろうな。

なお、先日のソウルの梨泰院での事故を受けて、演出や振付を変更することも考えたが、最終的には変更せず表現する決意に至った経緯が書かれた山本卓卓さんの文章(日本語だけではなく英語と韓国語の3ヶ国語で)がチラシとともに置かれていた。

上演時間1時間40分。