アンカル『昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ』 | 新・法水堂

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アンカル

『昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ』

 

 
2021年9月24日(金)〜10月3日(日)
東京芸術劇場シアターイースト
 
作・演出・プロデューサー:蓬莱竜太
美術:長田佳代子 音楽:加藤健一 振付:スズキ拓朗
照明:沖野隆一(RYU CONNECTION) 音響:今西工 衣装:坂東智代
歌唱指導:日高恵 演出部:中村公平、苅谷和暉子、千葉りか子
舞台監督:清水スミカ 照明操作:野中千絵
宣伝美術:金子裕美 票券:鈴木ちなを 制作:清水香奈美
アシスタントプロデューサー:岡島哲也
 
出演:
笠原崇志(ギター弾き・秋谷)
天瀬はつひ(ウトの仲間・石井)
山岸健太(不良生徒・ウトユウマ)
江原パジャマ(卓球部新入り・江原)
大河原恵(写真家志望・大河原)
山中志歩(演劇部部長・落合晶子)
蒲野紳之助(ツネの相方・ガマノ)
ばばゆりな(演劇部・ナツ)
中野克馬(演劇部・合田)
伊藤ナツキ(歌手志望・新貝)
藤松祥子(転入生・鈴政ゲン)
大西遵(卓球部・笹木)
名村辰(飼育係、漫画家志望・竹野)
田原靖子(タバチ・田原靖子)
榎本純(ガマノの相方・ツネ)
森カンナ(女王・徳永アズサ)
小口隼也(卓球部・小口)
伊藤麗(アズサの友人・浜井)
南川泰規(卓球部部長・林)
堺小春(アズサの手下・桂)
山田綾音(山西の恋人・藤元)
安齋彩音(演劇部脚本担当・松田)
山西貴大(藤元の恋人・山西)
瑞生桜子(ゲンの双子の姉・ソジン)
池ノ上美晴(担任・恋塚)
益田恭平(副担任・桜田)
吉岡あきこ(用務員・クミコ)
 
STORY
10年前。千葉県のF中学校3年A組に広島から転入生ゲンがやってくる。ゲンの父親が亡くなったため、離婚して別々に暮らしていた韓国人の母親と生き別れとなっていた双子の姉・ソジンと暮らすことになったのだった。しかし、同じクラスになったソジンはゲンに冷たい態度を取る。ゲンは転校早々父親の形見であるカープ仕様の自転車と靴を盗まれてしまう。クラスのみんなからウトがやったと言われたゲンは、男の子になりたいタバチを連れて裏山へと向かう。

モダンスイマーズの蓬莱竜太さんによるソロユニット・アンカルの旗揚げ公演。
 
3年前、演劇引力廣島にて初演された作品を再構築。役名は基本的に初演時のキャストの名前になっていて、江原、大河原、蒲野、田原、小口、山西の6名は初演に続いての登板となる(小口なのに下の方にいるのは当時の芸名が鳥こぼしだったから)。
 
開演時、舞台には24脚の椅子が横4列縦6列で並べられ、床には体育館のように数種類の色のラインテープが引かれている。
 
ゲンが転入してくる場面から始まる本作はいわば蓬莱版『転校生』。24名の生徒と3名の大人が紡ぎ出す群像劇に幾度となく涙腺を刺激された。本年度のベスト3候補。
様々なエピソードが並行して描かれていくが、初演は骨格は蓬莱さんが決めて、会話はエチュードによって作っていったそうで、今回は初演を踏襲したものもあれば、新たに作り直したものもあるとのこと。
冒頭に朝の登校シーンがあり、ラストで同じようなやりとりが繰り返されるのだが、冒頭は誰が誰とも区別がつかない混沌としたものだったのが、ラストはそれぞれの登場人物の輪郭がより濃く感じられた。それはとりもなおさず、この2時間半、各キャストが自分の演じる役にしっかりと命を吹き込んだからに他ならない。
 
どのエピソードもよかったが、例えば読者モデルのアズサと幼馴染で手下の桂。演劇部員と親しげに話しているところをアズサにからかわれた桂は必死に言い繕って彼女の後を追ったりもしていたのだが、その後、アズサが妙なこんにゃくのCMに出て笑い者にされる一方、桂は連続ドラマ(武田鉄矢さん主演)に出演が決まって一挙に形勢逆転。2人の関係もさることながら、即座にアズサから桂に乗り換える浜井になぜか共感してしまう。
あるいは飼育係の竹野。飼育小屋にやってきたギター弾きの秋谷とカメラを肌身離さない大河原(おおがわら、ではなくおおかわら)に漫画を描いていることが知られ、意外に高評価。新人賞にも応募してみる。3人が3人ともこの小屋で人生が変わるような経験をするのだが、UFOを呼び寄せたことよりも人に認めてもらえたということが彼らにとって何よりの奇跡だろう。
そしてやはり欠かせないのが演劇部。常にメンバー募集している彼女たちは落ち目となったアズサにも声をかける。なぜ演劇をするのかを綴った部長の作文は蓬莱さん自身、あるいはこうやって劇場で舞台経験を積む機会を与えられた若い役者陣たちにそのまま当てはまるようでマスクがぐしょぐしょに。
こういう作品に出会うと、演劇のある人生でよかったとつくづく思う。
 
キャストではこれまで何度か出演作を観ている藤松祥子さんと山中志歩さんは期待通り。
他には多分一番難しい役じゃないかと思うソジン役を務めた瑞生桜子さん、男の子になりたい女の子としてゲンを好きになるも現実を突きつけられるタバチ役の田原靖子さん、前半と後半で落差の激しい役をこなした堺小春さん、新貝役で歌声も披露する伊藤ナツキさん、ついつい藤原竜也さんが入ってしまう合田役の中野克馬さん、などなど今後また別の作品で出会いたいと思える役者陣が揃っていた。
 
この日は蓬莱竜太さんによるアフタートークつき(そのうち30日の分と併せてYouTubeにアップされるそうな)。
ユニット名の由来はなぜか誰からも聞かれなかったが、メビウスのコミックスから来ているとのこと。以前、公演について調べようとしたらこのコミックスのことばかり出てきたので、何か関係あるのかと思っていたけど、そういう由来だったのかと納得。
なお、来年1月のモダンスイマーズ新作公演は集大成的なものになるそうな。
 
上演時間2時間35分(一幕1時間7分、休憩10分、二幕1時間18分)。