オペラシアターこんにゃく座『さよなら、ドン・キホーテ!』 | 新・法水堂

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オペラシアターこんにゃく座 創立50周年記念公演〈第二弾〉

オペラ『さよなら、ドン・キホーテ!』



2021年生9月18日(土)〜26日(日)
吉祥寺シアター

台本・演出:鄭義信
作曲:萩京子

美術:池田ともゆき 衣裳:宮本宣子 照明:増田隆芳
振付:伊藤多恵 擬闘:栗原直樹 音響:藤田赤目 舞台監督:藤本典江 舞台監督助手:松浦孝行
音楽監督:萩京子 宣伝美術:小田善久(デザイン)+伊波二郎(イラスト)
制作:田上ナナ子、忠地あずみ、湯本真紀、大原小夜子、土居麦、高橋志野

出演(赤組/[ ]内は青組):
高岡由季[沖まどか](ベル)
小林ゆず子[飯野薫](サラ)
髙野うるお[佐藤敏之](ベルの父親トーマス)  北野雄一郎[島田大翼](馬丁ルイ)
岡原真弓[梅村博美](教師オードリー)
武田茂[大石哲史](老馬ロシナンテ/ドイツ人将校)
富山直人(駄馬サンチョ/ドイツ人将校)
吉田進也[壹岐隆邦](村の青年サイモン/ドイツ人将校)

ピアノ:大坪夕美[服部真理子と2人体制]

STORY
1940年代フランスのいなか町。古い厩舎のある牧場で馬を飼って暮らす、トーマスとベルの父娘。馬は戦地へと駆り出され、もう何頭も残っていない。ベルは学校が嫌いだ。自分らしくいることのできない学校になんか行きたくない、と、いつも厩で本を読んで過ごしている。大好きなのは「ドン・キホーテ」。 いつか自分は男になって世界を旅する騎士になることを夢みている。大親友である馬のロシナンテが戦地へと送られる前にふたりで旅に出ようと、ベルはある夜こっそり家を抜け出そうとする。その時物音がし、厩の隅に隠れていた少女サラをみつける。サラは家族とはぐれ逃げ延びてきた、ユダヤ人だった。サラから家族と離れ離れになってしまった経緯を聞いたベルは、サラに、「僕が君を守ってあげる」と約束する。笑顔を取り戻したサラ。しかし、戦場と距離を隔てた町にも戦争の影は忍び寄って来る……。片足が悪く兵士になることができない馬丁のルイ、過去を抱えパリから移り住んできたベルの担任のオードリー、ルイとは幼馴染の青年サイモン、そして厩舎で飼われる“馬”のロシナンテとサンチョ。2頭の馬と、ある家族をとりまく物語。【公式サイトより】

鄭義信さん×萩京子さんによるこんにゃく座書下ろしオペラ第四弾。青組と赤組に分かれて上演し、本日千穐楽は赤組。

舞台は厩。下手にピアノ、舞台奥にスライド式の扉。上手には井戸、2階に上がるはしご。舞台のあちこちに俵が積まれ、床には藁が散らばる。
開演時間になるとベル役の高岡由季さんが登場し、無言のまま絵本風にページをめくって開演前の諸注意を表示。フランスの農民風の衣裳を着たピアノの大坪夕美さんがスタンバイし、演奏とともに本篇開始。

常に弱者の視点に立って物語を紡いできた鄭義信さん。
本作では家族と引き離され、ナチスによる迫害を逃れてきたユダヤ人少女サラが登場するが、その姿には当然、日本軍により虐待された朝鮮、中国、台湾などの人々の姿が重なる。
それだけではなく、ベルが学校に行かなくなったのは同じクラスの女の子が好きになって思いを告げたが、そのことをバラされ、笑い者にされたことが原因。
いわばメインの2人がともにマイノリティな存在で、ドン・キホーテとサンチョ・パンサよろしく世間の荒波に立ち向かっていこうとする。
そんな中、ベルの父親トーマスが娘に向ける愛情の深さ(『ジェイミー』のマーガレットにも相通じるところがありますな)に胸を打たれる。どうして妻に逃げられちゃったんだろう。笑

2人以外にも足が悪くて戦争に行けない馬丁のルイは自分を責め、酒に溺れてしまうし、ベルを迎えに来る担任のオードリーはかつてドイツ軍将校に手籠めにされたために飛行機を見ただけで具合が悪くなるというようにそれぞれが何らかの事情を抱えている。
人間たちだけではない。本作ではロシナンテとサンチョという2頭の馬が登場し、人間の言葉を話す(ロシナンテは芦毛、サンチョは茶色系統の被り物、同系統色のつなぎを着て、手は蹄、尻尾が生えているという格好)のだが、動物たちもまた軍に供出させられ、犠牲となっていったことを忘れてはいけない。
この馬たち、特にサンチョがお笑い担当となってややもすると暗くなりがちな物語に彩りを与えていたのがよかった。

上演時間2時間41分(一幕1時間11分、休憩16分、二幕1時間14分)。