『すばらしき世界』(西川美和監督) | 新・法水堂

新・法水堂

演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

『すばらしき世界』

 

 

2021年日本映画 126分

脚本・監督:西川美和

原案:『身分帳』佐木隆三著(講談社文庫刊)

原案監修:小先隆三

プロデューサー:西川朝子、伊藤太一、北原栄治

音楽:林正樹

撮影:笠松則通 照明:宗賢次郎 音響:白取貢

美術:三ツ松けいこ 編集:宮島竜治、菊池智美

衣裳デザイン:小川久美子 ヘアメイク:酒井夢月
キャスティング:田端利江 音響効果:北田雅也

助監督:中里洋一 制作担当:横井義人

ラインプロデューサー:奥泰典

プロデューサー補:池野加奈

音楽プロデューサー:福島節

 

出演:

役所広司(三上正夫)

仲野太賀(TVディレクター・津乃田龍太郎)

橋爪功(身元引受人・庄司勉)

梶芽衣子(勉の妻・庄司敦子)

長澤まさみ(TVプロデューサー・吉沢遥)

安田成美(三上の元内縁の妻・西尾久美子)

六角精児(スーパーの店長・松本良介)

北村有起哉(ソーシャルワーカー・井口久俊)

白竜(兄貴分・下稲葉明雅)

キムラ緑子(明雅の妻・下稲葉マス子)

康すおん(医療刑務官・大下潤之介)、井上肇(処遇主席刑務官)、山田真歩(女性警官)、マキタスポーツ(検察官)、桜木梨奈(風俗嬢・リリーさん)、松澤匠(介護士・服部優也)、田村健太郎(アルバイト・阿部)、三浦透子(介護士・江藤)、松浦慎一郎(分類統括)、沖原一生(刑務官)、まりゑ(女性医師)、山口航太(ゴリライモ)、白鳥玉季(久美子の娘・西尾あゆみ)、松角洋平(免許センター・試験官)、松岡依都美(ロワイヤル白金の女・声)、奥野瑛太(中年狩りの若者・中田)、田中一平(同・山口)、高橋周平(下稲葉組・高橋)、松浦祐也(あかつき学園・園長)、小池澄子(田村さん)、安楽将士(介護士・大竹徹)、今藤洋子(同・川口)、森本のぶ、大友律、ANDI SAFARUDIN、DANANG CATUR SULISTYAWAN、SADEWO、小出ミカ、安藤彰則、黒田浩史、高間智子、内村遥、青戸昭憲、高根沢光、龍実、桑田由季子、関義夫、根本桜輔、沖田京子、押淵平、田中温人、えいしん、董開亮、廖芳華、董雨澤、明石ゆいな、新名基浩、鍛代良、小野寛幸、飯田圭子、中村圭太、目黒光祐、小澤雄志、諫早幸作、藤原陽人、咲音、Meyou、安東純也、二木靖史、木村優介、酒井晴人、中川翔太、田村義晃、三浦景虎、長村陽介、左近、佐藤晴哉、蔵ゆうき、影山真子、由貴、伊藤ゆう子、道本成美、土子春男、小林恵美、小林さくら、野村昇史、比佐仁、吉村えり、大貫千代子、本岡なり美、戸﨑貴広[TBSアナウンサー]、長峰由紀[TBSアナウンサー]

 

STORY

冬の旭川刑務所でひとりの受刑者が刑期を終えた。刑務官に見送られてバスに乗ったその男、三上正夫は上京し、身元引受人の弁護士、庄司とその妻、敦子に迎えられる。その頃、テレビの制作会社を辞めたばかりで小説家を志す青年、津乃田のもとに、やり手のTVプロデューサー、吉澤から仕事の依頼が届いていた。取材対象は三上。吉澤は前科者の三上が心を入れ替えて社会に復帰し、生き別れた母親と涙ながらに再会するというストーリーを思い描き、感動のドキュメンタリー番組に仕立てたいと考えていた。生活が苦しい津乃田はその依頼を請け負う。しかし、この取材には大きな問題があった。三上はまぎれもない“元殺人犯”なのだ。津乃田は表紙に“身分帳”と書かれたノートに目を通した。身分帳とは、刑務所の受刑者の経歴を事細かに記した個人台帳のようなもの。三上が自分の身分帳を書き写したそのノートには、彼の生い立ちや犯罪歴などが几帳面な文字でびっしりと綴られていた。人生の大半を刑務所で過ごしてきた三上の壮絶な過去に、津乃田は嫌な寒気を覚えた。後日、津乃田は三上のもとへと訪れる。戦々恐々としていた津乃田だったのだが、元殺人犯らしからぬ人懐こい笑みを浮かべる三上に温かく迎え入れられたことに戸惑いながらも、取材依頼を打診する。三上は取材を受ける代わりに、人捜しの番組で消息不明の母親を見つけてもらうことを望んでいた。下町のおんぼろアパートの2階角部屋で、今度こそカタギになると胸に誓った三上の新生活がスタートした。ところが職探しはままならず、ケースワーカーの井口や津乃田の助言を受けた三上は、運転手になろうと思い立つ。しかし、服役中に失効した免許証をゼロから取り直さなくてはならないと女性警察官からすげなく告げられ、激高して声を荒げてしまう。さらにスーパーマーケットへ買い出しに出かけた三上は、店長の松本から万引きの疑いをかけられ、またも怒りの感情を制御できない悪癖が頭をもたげる。ただ、三上の人間味にもほのかに気付いた松本は一転して、車の免許を取れば仕事を紹介すると三上の背中を押す。やる気満々で教習所に通い始める三上だったが、その運転ぶりは指導教官が呆れるほど荒っぽいものだった。その夜、津乃田と吉澤が三上を焼き肉屋へ連れ出す。教習所に通い続ける金もないと嘆く三上に、吉澤が番組の意義を説く。「三上さんが壁にぶつかったり、トラップにかかりながらも更生していく姿を全国放送で流したら、視聴者には新鮮な発見や感動があると思うんです。社会のレールから外れた人が、今ほど生きづらい世の中はないから」。その帰り道、衝撃的な事件が起こる…。【公式サイトより】


西川美和監督が佐木隆三さんの『身分帳』を映画化。

 

前作『永い言い訳』を見逃してしまったので(原作まで買ったのに)、かなり久し振りの西川美和監督作品だったが、相変わらず細かいところまで行き届いたすばらしき作品だった。

 

本作で描かれているのは日本の社会そのもの。

主役はもちろん三上だが、名もなき登場人物にまで役割が与えられている。

例えば三上が公衆電話で剣道防具店に仕事はないかと電話をするシーン。そこから三上はスマホで電話をしながら歩道橋を駆け上がるサラリーマンやベビーカーに手を貸すガードマンなどを見つめる。

そうした人にもそれぞれの人生があり、社会を形成している。

就職が決まった後、サラリーマンと同じように三上が電話をしながら歩道橋を上るシーンがあるが、このシーンは三上が社会の一員になったことを表している。

 

だが、三上にとってこの社会は決して居心地のいい場所ではない。

老人介護施設で働き始めるも、そこで知的障害のある職員・阿部を同僚の服部たちが虐待している現場を目にする。三上は就職祝いをしてくれた身元引受人の庄司夫妻たちの助言に従い、暴力を振るおうとする衝動を抑えてその場を後にする。その後、服部たちが阿部を馬鹿にして真似をしていても、内心でははらわたが煮えくり返っていながら、「似てますね」と愛想笑いをする。

最後に「すばらしき世界」と表示されるが、果たして三上にとってもそうだったのか、非常に皮肉が込められていると感じるタイトルだった(カメラが上空へとパンするのもいいのよね)。

 

キャストはまさに実力派揃い。

役所広司さんは言わずもがな、髭をたくわえた仲野太賀さんもいい。

下の部屋で騒いでいた住人とのタイマンシーンや教習所でのシーンなど、笑えるところも結構あったけど、場内は反応薄し。役所広司さんが生真面目に演じているから、おかしみが増していたのになぁ。

個人的には下稲葉組の前にパトカーが停まっているのを見て駆けつけようとする三上を押し留め、このラストチャンスをフイにしてはいけないと諭すキムラ緑子さんと、就職祝いのシーンで「見上げてごらん夜の星を」を披露する梶芽衣子さんがよかった。

松澤匠さんのいやーな奴演技と田村健太郎さんの知的障碍者演技も見事。