『東京原子核クラブ』(配信) | 新・法水堂

新・法水堂

演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

『東京原子核クラブ』

 

 

2021年1月10日(日)~17日(日)

本多劇場

 

作・演出:マキノノゾミ

美術:奥村泰彦  照明:中川隆一  音響:内藤博司(SBS)
衣裳:三大寺志保美  ヘアメイク:武井優子
技術監督・演出助手:郷田拓実  舞台監督:中西輝彦、矢島健
制作:村田紫音  イラスト:石渡治  宣伝美術:吉田電話  WEB:小林タクシー

 

出演:

水田航生(物理学者、平和館の住人・友田晋一郎)

霧矢大夢(平和館の住人・箕面富佐子)

小須田康人(平和館の大家・大久保彦次郎)

平体まひろ(大家の娘・大久保桐子)

加藤虎ノ介(ダンスホールのピアノ弾き、平和館の住人・早坂一平)

石田佳央(新劇青年、平和館の住人・谷川清彦)

久保田秀敏(海軍中尉、武山の友人・狩野良介)
浅野雅博(理化学研究所主任研究員・西田義雄)

上川路啓志(友田の同僚、平和館の住人・武山真先)

荻野祐輔(友田の同僚、平和館の住人・小森敬文)

大村わたる(東大野球部員、平和館の住人・橋場大吉)

石川湖太朗(東大野球部員、後に編集者・林田清太郎)

 

STORY

昭和七年、風変りな住人が集う下宿屋「平和館」。理化学研究所で働く若き物理学者の友田は周囲のレベルの高さに自信を失くし故郷に帰ろうとしていた。そこに、同僚の武山が朗報を持ってくる。海軍中尉・狩野は理研の研究で新型爆弾がつくれるのではないかと思いつき…。【公式サイトより】


1997年に初演された読売文学賞戯曲・シナリオ賞受賞作。

千穐楽の公演を配信にて。

 

舞台は本郷にある下宿屋「平和館」。

下手手前に台所へ、奥に玄関へと続く出入口、上手側にトイレと洗面所。センターにはテーブルやソファ、籐椅子があり、住民たちが集まる場所となっていて、下手側の一面から中庭に出られる。1階下手側に富佐子、谷川、上手側に早坂の部屋。中央に2階へと上がる階段があり、下手側に武山、橋場、上手側に友田と小森の部屋。

 

むかーしNHK BS2(この名称がもはや懐かしい)で放送されたものを観た記憶はある本作、マキノさん自身が演出するのは約20年ぶりだとか。

平和館を舞台に個性的な登場人物が繰り広げる人間模様を描きつつ、昭和7年から終戦後までを点描する構成で群像劇として秀逸。

主人公・友田はノーベル物理学賞受賞者の朝永振一郎氏、師の西田教授は仁科芳雄氏をモデルとしていて、

 

♪に、に、西田、西田のオヤジ

 み、み、みんなに無茶言ってガミガミ

 俺たちゃ腹立ってポンポコポンのポン

 負けるな負けるな オヤジに負けるな

 一服してスパスパ サボってスパスパ

 

と理化学研究所の面々が替え歌を歌うシーンなども楽しい。

後半は昭和16年、友田がライプツィヒでの留学を終え、東京文理科大学の教授となったところから。戦争が始まるにつれ、住人の中にも徴兵される者が出てくるあたりから戦時中の重苦しさも出てきて、人類の発展のためにと進化を遂げてきた原子物理学が兵器に利用されてしまった悲劇も描きつつ、その底辺にはユーモアがあり、劇後感は決して暗くない。

 

キャストでは桐子役の平体まひろさんが目を惹いた。浅野雅博さんが所属する文学座の準座員だそうで。その父・小須田康人さんは白髪多めで住人を温かく見守る大家さんを好演。

シスターになったり、水の江瀧子さんばりに男装スタアになったり、文字通り正体不明な富佐子役を演じた霧矢大夢さんもよかった。

 

あと、東大野球部員・橋場役の大村わたるさんが、ニセ学生であることが発覚して立て籠もっていたトイレから出てくる際に鼻水を垂らしていたけど、ちゃんと見えないところで泣いていたのかと感心。

 

上演時間2時間55分(一幕1時間25分、休憩15分、二幕1時間15分)。