ケムリ研究室『ベイジルタウンの女神』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

ケムリ研究室 no.1

『ベイジルタウンの女神』

The Goddess of Basiltown

 

 

【東京公演】

2020年9月13日(日)~27日(日) 

世田谷パブリックシアター

 

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

振付:小野寺修二  映像:上田大樹  音楽:鈴木光介

 

美術:BOKETA  照明:関口裕二  音響:水越佳

衣裳:黒須はな子  ヘアメイク:宮内宏明
演出助手:山田美紀  舞台監督:竹井祐樹、福津諭志
レコーディング・ミュージシャン:長尾朗(vc)、長尾麻実(fl)、日高和子(cl)、藤田淳之介(sax)、伏見蛍(gt)、向島ゆり子(vn)
宣伝美術:チャーハン・ラモーン

制作:川上雄一郎、瀬藤真央子、重松あかり、仲谷正資

プロデューサー:高橋典子  製作:北牧裕幸

出演:
緒川たまき(ロイド社の女社長マーガレット・ロイド)
山内圭哉(マーガレットの婚約者、ロイド社の専務取締役ハットン・グリーンハム/水道のハットン/白い服の男他)
菅原永二(ロイド社の弁護士チャック・ドラブル/トレンチコートの男/ジャムを食べる乞食他)
尾方宣久(執事ミゲール/警官パト他)
高田聖子(ソニック社の女社長タチアナ・ソニック/スージーの母親/乞食他)
植本純米(タチアナの秘書コブ・スタイラー/宿の女主人/公園の乞食/家を買った男他)
仲村トオル(王様(マスト・キーロック)他)

水野美紀(ハム(メリイ・キーロック)他)
温水洋一(ドクター/古物商フォンファーレ他)
犬山イヌコ(サーカス/盲目の女/オババ他)
吉岡里帆(スージー/靴磨きの少女他)
松下洸平(ヤング他)
望月綾乃(ロイド家のメイド/貴婦人/近所の住人他)
大場みなみ(ロイド家のメイド/伝道所の配膳係/ソニック社の社員/家を買った男の妻他)
斉藤悠(公園の乞食/ジャムを食べたがる乞食/役所の男他)
渡邊絵理(乞食他)
荒悠平(鞄を盗まれる男/ピラをまく男他)
髙橋美帆(乞食他)
 

STORY

大企業ロイド社の女社長として、経営に辣腕を振るうマーガレット。ハイタウンに生まれた彼女は、父から受け継いだ会社をさらに発展させ、巨大ショッピングセンターの建設や、リゾートホテルの開発など、さまざまな事業を推し進めていた。目下の目標は、乞食たちが住むベイジルタウンの再開発。そのため彼女は婚約者でビジネスの右腕ハットンと、顧問弁護士のチャックとともに、ベイジルタウン第七地区の買収交渉のため、ソニック社を訪れる。ソニック社の社長タチアナは子供の頃、小間使いとしてマーガレットの家で働いていたことがあり、マーガレットとも顔見知りであった。久しぶりに再会したふたり。タチアナは当時の思い出を語り合おうとするが、マーガレットはタチアナのことをすっかり忘れていて、タチアナはショックを受ける。気を取り直したタチアナに、ソニック社が所有する第七地区の買収を切り出すマーガレットだが、それに対してタチアナは、第七地区を売る気はないこと、そして逆にマーガレットが所有する第八地区と第九地区を買いたいと言い出す。ベイジルタウンは自分が再開発すると譲らないマーガレット。そこでタチアナはある賭けの提案をする。「あなたが1ヶ月間、無一文で正体を明かさずベイジルタウンで暮らせたら、第七地区は差し上げる。そのかわり、もし途中で断念してベイジルタウンを出たら、私が第八地区と第九地区を頂戴する」と。この賭けに乗ったマーガレットは、会社経営をハットンに任せ、ベイジルタウンに身ひとつで乗り込む。乗り込んだはいいものの、ベイジルタウンにいるのはおかしな乞食ばあり。木賃宿に泊まることもできないマーガレットは、紆余曲折の末、王様とハムの兄妹が暮らすバラックに居候することに。治安の悪いベイジルタウンだが、ドクターやサーカスら乞食たちにだんだんと馴染み、楽しく暮らすようになるマーガレット。一方、ハットンはタチアナのもとに出向き、ある提案を持ちかける。このまま1ヶ月が過ぎるようにも思われたある日、兄妹のバラックで事件が起きる――。【公演パンフレットより】


ケラリーノ・サンドロヴィッチさんと緒川たまきさんによる新ユニットの旗揚げ公演。

 

今年は4本の舞台が上演される予定だったKERAさんだが、『桜の園』と『欲望のみ』が中止となっただけに待ってましたの劇場公演。

これまでもクレジットこそないものの、KERAさんの作劇に欠かせない存在となっていた緒川たまきさんとのユニットに仲村トオルさん、水野美紀さん、山内圭哉さんといったお馴染みのメンバーにくわえ、吉岡里帆さん、松下洸平さん、高田聖子さん(意外なことに初!)、菅原永二さんといった初参戦組が名を連ね、小野寺修二さん、上田大樹さん、鈴木光介さんといったスタッフも最強の布陣とあれば期待するなという方が無理というもの。

 

ストーリーとしては個性的な乞食の住む貧困地区に上流階級の女性が入りこむというKERAさんのお好きな枠組。笑(ネタ元の一つはメル・ブルックスさん監督・主演の『逆転人生』という映画)

マーガレットは父親の後を継いで社長となり、再開発に着手しようとはしているものの、我利我利亡者というわけではなく、よくも悪くも無垢な人。だからこそベイジルタウンに足を踏み入れてもマイペースに交流することが出来ていたのだろう(身分を明かさずにという条件はあっさり破られていたけど。笑)。

とかく分断分断の世の中だけれど、マーガレットのようなしなやかさこそは見習うべきものという気がする。そんな素の彼女と触れ合っていたからこそ、一度は裏切られたと思い込んだベイジルタウンの住民たちも再び信じることができたのであろう。

 

『キネマと恋人』同様、緒川たまきさんをいかに魅力的に見せるかにかけてはKERAさんの右に出る者はいないであろう(そりゃそうだ)。

最初はまったくタチアナのことを覚えていなかったマーガレットが、終盤になって昔のことを思い出し、「クリスマスの夜」「苺ジャム」「ロッキングチェア」のことをタチアナと語り合うシーンは涙なくしては見られない。

王様との告白シーンも胸がキュンキュン(死語)。スージーとヤングの若者同士のカップルに負けず劣らず見ていて微笑ましい気持にさせられた。

 

キャストはみんなよかったけど、『キネマと恋人』に続いて尾方宣久さんが起用されていたのはMONOファンとしては嬉しい限り。しかも滅多に見たことのない老け役で途中で死んで幽霊となって活躍もしてくれたし。

山内圭哉さんは双子の演じ分けが卑怯なぐらいに面白い。特に水道のハットンのような役をやらせたら天下一品。

 

上演時間3時間28分(一幕1時間46分、休憩16分、二幕1時間26分)。