世田谷パブリックシアター+エッチビィ『終わりのない』 | 新・法水堂

新・法水堂

演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

世田谷パブリックシアター+エッチビィ

『終わりのない』

 


【東京公演】

2019年10月29日(木)~11月17日(日)

世田谷パブリックシアター

 

脚本・演出:前川知大

原典:ホメロス『オデュッセイア』

監修:野村萬斎

美術:土岐研一 照明:佐藤啓

音楽:かみむら周平 音響:青木タクヘイ

衣裳:今村あずさ ヘアメイク:西川直子

振付:下司尚実 ドラマターグ:谷澤拓巳

舞台監督:田中直明

プロダクションマネージャー:勝康隆

宣伝美術:鈴木成一デザイン室

宣伝写真:山添雄彦
宣伝写真協力:澤田育久「closed circuit」
宣伝スタイリスト:髙木阿友子

宣伝ヘアメイク:山口淳

 

出演:

山田裕貴(高校3年生・川端悠理)

奈緒(悠理の友達・能海杏/惑星調査班の一員・アン/イプノス人)

仲村トオル(ダイバー、悠理の父・山鳥士郎/イプノス人)

村岡希美(物理学者、悠理の母・川端楊/イプノス人)

大窪人衛(悠理の幼馴染、僧侶の息子・戸田春喜/イプノス人)

清水葉月(悠理の幼馴染・色川りさ/イプノス人)

浜田信也(アンドロイド(AI、巨大コンピューターの人型端末)・ダン)

安井順平(士郎の担当編集者・氏家理人/惑星調査班の一員・リヒト/イプノス人)

盛隆二(杏の父・能海然/惑星調査班の一員・ゼン/イプノス人)

森下創(ある星に漂着した地球人・日暮A)

 
STORY

2020年。18歳の悠理は旅の途中で目的地を見失い、立ち止まっていた。自分はなぜここにいるのだろう。悠理は自分の人生を振り返ってみる。短いけれど、沢山の楽しいことや辛いことがあった。恋愛もした。死にかけたこともあった。尊敬できる両親に、いつも気にかけてくれる友達もいる。かつて僕は世界と一体で、完全だった。でも今は違う。ある日、悠里は両親と友達に、湖畔のキャンプに連れ出される。立ち止まったままの悠理には、時間だけが通り過ぎていくように思える。過去に思いを馳せていると、いつの間にか悠理の意識はキャンプ場を離れ、見知らぬところで目を覚ます。そこははるか未来の宇宙船オデュッセウス号の中。その船は人類の新たな故郷を目指して旅を続ける、巨大な入植船だった。32世紀のユーリとして目覚めた悠理は、自分が誰で、どこにいるのかも分からない。宇宙船から逃げ出した悠理の意識は、宇宙空間を漂い、地球によく似た見知らぬ惑星イプノスで目を覚ます。自分そっくりの肉体の中で。奇妙な旅を経て、悠理の意識は再びキャンプ場に戻ってくるが、その世界は自分の知っている世界とは少し違っていた。自分はなぜここにいるのだろう。帰りたい。悠理は自分の世界で、目的地を探そうとする。【公式サイトより】


日本の古典を翻案した「奇ッ怪」シリーズ3作に続き、世田谷パブリックシアターとイキウメ・前川知大さんがタッグを組んだ新作。
 
ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』が原典ということで若干、構えていたのだけど、見事にSFの世界観と融和されていた。
なんせ1000年以上の時を超え、宇宙空間にまで飛び出すのだから、旅のスケールは本家を上回る。マルチユニバース(並行世界)や量子論などの概念も非常に分かりやすく説明してくれているので(村岡希美さんグッジョブ)、SFが苦手という人も心配なく。
 
主人公の悠理は、そうした旅の中で本当の自分というものを探し求めていく。
地球温暖化を憂えて政治家を目指す父親と、そんな父親の考え方は理解し、応援はしつつも自分の仕事がやりづらくなるために離婚をすることにした母親。カナダに留学するりさと実家の寺を継ぐ決意をした春喜。
自分だけが進むべき道を見つけられずに焦る悠理だが、物語は単なる“自分探しの旅”に終わらず、人類全体の話へと敷衍されていく。
その中で、「人類を救えるのは人類だけ」、「自分を救えるのは自分だけ」というこの作品に込められたメッセージに胸が震えた。
 
舞台美術と照明も素晴らしい。
床は円形になっていて、背景にも円形。
これが時にはキャンプ場になり、海底になり、宇宙船になり、異星の砂漠になりと変化していく。シンプルでありながら、豊穣な舞台空間が広がっていた。
 
キャストでは、ほぼ出ずっぱりの山田裕貴さんやこれが初舞台となる奈緒さんらフレッシュな魅力にくわえ、仲村トオルさんと村岡希美さん、清水葉月さんといった前川作品の常連、そしてイキウメのメンバーとほどよいバランス。
仲村トオルさんの「なぜそこを選んだ!」が本日のツボ。笑
 
上演時間約2時間。