KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~』 | 新・法水堂

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KAAT神奈川芸術劇場プロデュース

『ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~』

DR. HOFFMANN'S SANATORIUM

 

 

【神奈川公演】

2019年11月7日(木)~24日(日)

KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール〉

 

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
振付:小野寺修二  映像:上田大樹  音楽:鈴木光介

 

美術:松井るみ  照明:関口裕二  音響:水越佳一
衣装:伊藤佐智子  ヘアメイク:宮内宏明
演出助手:山田美紀  舞台監督:福澤諭志、竹井祐樹
プロダクション・マネージャー:平井徹  技術監督:堀内真人

宣伝美術:榎本太郎  宣伝写真:尾嶝太

宣伝ヘアメイク:稲垣亮弐

制作:小沼知子、桑澤恵、藤野和美、小田未希
プロデューサー:伊藤文一  制作統括:横山歩

出演:

多部未華子(カーヤ/カフカの恋人・ドーラ)

瀬戸康史(カーヤの婚約者・ラバン/ラバンの双子の弟・ガザ/編集者D/カフカ 他)

渡辺いっけい(男1・ブロッホ/軍人 他)

大倉孝二(男2・ブロッホの友人/出版社社長 他)

犬山イヌコ(女1・ブロッホの妹フリーダ/女3・ユーリエの女/レニの母・オルガ/看護婦 他)

麻実れい(女2・フリーダとブロッホの祖母/少女・ユーリエ/ラバンとガザの母・マルベリ/ハーゲンベック師団長夫人・マグダレーナ 他)

緒川たまき(乗客/編集者B/食堂の女主人・ピアンタ/マグダレーナの娘・グレーテ 他)

音尾琢真(バルナバス大尉/医師・ホフマン 他)

村川絵梨(乗客/アマーリア/列車の中の妊婦・レニ/別の看護婦 他)
谷川昭一朗(乗客/男4・カバンを届けに来た男/編集者A/車掌/司令官 他)

武谷公雄(乗客/クラム中尉 他)

吉増裕士(乗客/男3・ユーリエの父/編集者C/太った退役軍人 他)

菊池明明(乗客/マグダレーナの娘・インドラ 他)
伊与勢我無(社長の秘書/門衛主任 他)
王下貴司(墓にいる男/処刑人 他)

菅彩美(少女・ユーリエ 他)

斉藤悠(救急隊員/若い兵士・トルソー中尉/処刑人 他)

仁科幸(タイピスト 他)

鈴木光介(郵便配達)

 

演奏:鈴木光介(Tp) 、向島ゆり子(Vn)、伏見蛍(Gt)、関根真理(Per) 

声の出演:白井晃(アナウンス)、緒川たまき(人形)

 

STORY

フランツ・カフカの晩年に、ある有名なエピソードがある。公園を散歩中のカフカと人形をなくした幼い少女ユーリエの交流だ。

現代、かつての少女は今や100歳の老女となり、孫息子ブロッホは祖母の手元に遺されていたフランツ・カフカの未発表原稿を出版社に持ち込もうとしていた。出版されれば『失踪者』『審判』『城』と並ぶカフカ第4の長編小説ということになる。若い女性が主人公の、愛と受難の冒険物語だ。

主人公カーヤは出兵間近の婚約者ラバンと旅に出た。結婚後の暮らしを夢見る幸せそうな2人だったが、不穏な空気に飲み込まれるように旅の途中で生き別れてしまった。やがてカーヤのもとにラバンの戦死の報せが届く。

2人の兵士バルナバス大尉とクラム中尉に付き添われ戦地に赴くカーヤ。ラバンの生死を自ら確かめたいカーヤだったが……人々の誤解や裏切り、欲望が渦巻き、カーヤの前に立ち塞がる。果たしてカーヤは、恋人を探し出すことが出来るのか――物語はいつしか、現在、カフカの居た過去、カフカの小説世界とが、体外に影響し合ってゆき――【パンフレットより】

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『カフカズ・ディック』(2001年)、『世田谷カフカ』(2009年)に続き、KERAさんが三たびカフカの世界に挑む。

 

本作はカフカ第4の長編が見つかったらという想定のもとに描かれているが、その小説の世界と現実世界が複雑に絡み合っていく。更には2019年の登場人物が1924年の世界に紛れ込み、ドクター・ホフマンのサナトリウムで療養中のカフカにも出会ったりもする。

こうした虚実入り乱れ、時空間も飛び越えた作品はKERAさんの面目躍如といったところ。

『キネマと怪人』でも感じたことだけど、誰が主役ということはなく、アンサンブルも含めた役者陣と、振付、映像、音楽などのスタッフワークが一体となって作品世界を作り上げているのが見事。

 

作品全体を通して感じたのは、存在の不確かさ。

例えば、ブロッホがカフカの原稿を出版社に持っていくと、次から次へいわくありげな編集者が現れ、社長を名乗る人物に原稿を渡すも、その人物も気の触れた近所の老人だったりする。

このあたりは実にカフカ的。

1924年に紛れ込んだブロッホたちがあれこれ苦労した挙句、ちょっと角を曲がると元の世界に戻ってこられるというのも人を食ったようなオチだが、現実世界とカフカ的世界は紙一重、いや既に現実世界がカフカ的世界に侵食されているということなのかも。

 

キャストは上述通り、特に誰がということはなかったけど、多部未華子さんは疑問文の語尾がちょっと強いのが若干気になった(細かいねぇ。笑)。

 

上演時間約3時間33分(一幕1時間48分、休憩17分、二幕1時間28分)。