『転がれ!たま子』 | 新・法水堂

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『転がれ!たま子』

2005年日本映画 103分
監督:新藤風  脚本:しんどうぎんこ
出演:山田麻衣子(桜井たま子)、岸本加世子(桜井タツコ)、竹中直人(鳥越平吉)、松澤傑(桜井大輔)、与座嘉秋(トラキチ)、ミッキー・カーチス(日進月歩堂のジイチャン)、草村礼子(日進月歩堂のバアチャン)、広田レオナ(マーブル)、平岩紙(美容院従業員)、根岸季衣(オバチャン)、松重豊(中村)、永澤俊矢(バス会社人事担当)、津川雅彦(バス会社社長)、坂野真弥(少女時代のたま子)、中村正(ナレーター)

桜井たま子は、美容室を経営する母・タツコと、高校三年生の弟・大輔と暮らしている。
幼い頃から用心深い性格だったたま子は、24歳になった今もどこへ行くにも鉄かぶとをかぶっている。
たま子の好物は老夫婦が営む〈日進月歩堂〉の甘食。「せめて甘食代は自分で稼げ」と母に言われたたま子は、幼馴染のトラキチの紹介で、工場で働き始める。
幼い頃、かくれんぼの途中で家を出て行った父・平吉は、同じ町で自動車修理をしており、たま子の遊び場ともなっている。
ある日、たま子は道端にできた穴に落ちる。
その間、家では自分に恋心を寄せていたはずのトラキチと、母・タツコがただならぬ雰囲気に。
必死の思いで穴から這い上がって帰宅したたま子は、二人のキスシーンを目撃する。
更に、〈日進月歩堂〉が店主の急病により休業したり、アーティストとおだてられた父がニューヨーク行きを決意したり、弟・大介が母の友人・マーブルこと馬渕晴子に感化されてバスガイドを目指したり、猫のタマがいなくなっていたり、たま子を取り巻く環境が一変する。
甘食を食べたい一心で、橋を渡って隣町に行くたま子だったが、どれも〈日進月歩堂〉の味には程遠かった。たま子はジイチャンが入院しているという市民病院に押し寄せ、甘食を作って欲しいと頼みこむ。作るのは無理だけど、とジイチャンとバアチャンはかつて〈日進月歩堂〉で修行し、今は独立してパン屋を開いている中村という男を紹介する。一度は特別に作ってやる中村だったが、店が忙しくて毎日は作らないという。「だったら自分で作れ」と言われたたま子は、中村に弟子入りする。

新藤兼人監督の孫娘・新藤風監督の長篇第2作。
製作の新藤次郎は父で、脚本は叔母だそう。

巻頭のタイトルクレジットで、これはいける、と確信した。
更に『奥様は魔女』でおなじみ中村正さんのナレーションが作品世界を確固たるものにする。
これは一種のおとぎ話。
物語のポイントとなるのは、いつたま子がかぶとを脱ぐのか、ということだったのだが、新藤風監督はいともあっさりと私の期待を裏切ってくれる。観ていて心地よくなるぐらいだ。
全体を通しても、間の使い方が絶妙。特にトラキチとタツコが見つめ合うシーンが出色。
ラストがちょっともたついたのが惜しかったところ。それと、最後も中村正さんに締めて欲しかった。

たま子はとにかく真っ直ぐである。純粋である。
父親に段ボールに入っているように言われたら、日が暮れてもじっとしているし(幼少時代を演じるは『茶の味』坂野真弥ちゃん)、大好きな甘食のためなら自分の行動範囲を越え、パン屋の店主にストーカーまがいの行為をして弟子入りを認めさせる。
パン屋で働き始めたたま子は双子の先輩従業員にいびられながらも、パンの名前を必死で覚え、ついには自分の力で甘食を作る。
自分の居場所を見つけたたま子に、もはや鉄かぶとは必要なかった。
ジイチャンが亡くなり、日進月歩堂もなくなってしまうが、もう大丈夫。
パンが作れるようになった、たったそれだけのことかも知れない。
だが、たま子にとってはそれこそ地球がひっくり返るぐらいの出来事なのだ。
たま子役の山田麻衣子さんは、ドラマ『青い鳥』での鈴木杏ちゃんのその後、ぐらいにしか認識していなかったが、風変わりなヒロインをキュートに演じていた。
岸本加世子さん、広田レオナさんはじめ、その他のキャストも適役。
永澤俊矢さんの女装姿はちょっと意外だったけど(笑)。