"Supplier shall resolve a claim" | 日々、リーガルプラクティス。

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現在、上場企業で法務を担当、
米国ロースクール(LL.M.)卒業し
CAL Bar Exam合格を目指しています。

ようやく株主総会が終了しました。今回は最後の最後に色々とありましたが。。。ともかくも終わってほっとしています。

それにしても、株主総会だというのに、契約書の審査依頼の数が非常に増えていて難儀な月となっています。。。トラブル系対応も重なり、来月もバタバタしそうな予感。

そんな契約書審査をしている時に、ふと疑問に思ったのが、表題にもつけた表現。

よく日本語の契約書でも、こういう表現ってありますよね。

売主は、第三者との間でクレームなどの紛争が発生した場合、自らの責任と費用によりこれを解決するものとし、買主に一切迷惑をかけないものする。


この表現って、そもそも製造業における買主と売主との契約書において利用するのに適切な表現なのか、疑問に思うことがあるのですが、「一切迷惑をかけないものとする」とあるので、英語で言うとhold harmlessのようなニュアンスも感じさせ、まぁまだ分からなくもない気もしなくもありません(自分だったら、この表現を使って起案する場合は、適用対象となるケースを限定させないといけないかな、という気がしています。そもそも、この表現は、もともとは例えば消費者が一定のサービスを利用する際の利用規約等で、消費者が他の消費者と揉めたり、他の権利者と揉めた場合を想定して作られた文言だと理解していて、それがなぜかBtoBビジネスの買主と売主との間の契約書にも転用されている、と理解しています)。

そして何より、日本の企業風土といいますか、紛争が生じても両者話し合いのうえ物事を解決することが多いことを考えると、こういった表現で契約書を締結していも、問題は少なさそうな気もしなくはないので、みんな許容範囲だと捉えて当該文言を利用しているのかな、という気もしています(実際のところは良くわかりません)。


でも"resolve a claim"ってどうなのさ?


ただ、これが英文契約書で、海外の企業との契約となると、ちょっと問題がある気がするんですが、どうでしょうか。

例えば、BtoBの買主と売主との契約書でも、特に買主が日系企業の場合だと、以下のような条項を見ることがありますよね(今日は手元に何も参考にするものがないので、ちょっと適当な例ですがご勘弁を)。

Supplier shall resolve a claim made by any third party, at its own cost and expense, which may arise out of (i) breach of this agreement; (ii) defect or non-conformance of the products; or (iii) any actual or alleged infringement of intellectual property right of any third party. Supplier shall bear all the cost and expenses thereof.


こんな条文を見て、いつも疑問に思っているのが、果たして"resolve a claim"ってどういう意味なんだろう、ということです。

どうも、上で述べたように、「迷惑をかけないものとする」というニュアンスから、ホールドハームレス条項の意味合いとしてこういった表現を使っている場合がある気がするのですが、そういった意味は正直ない気がしています。

むしろ、普通に"resolve a claim"といったら、クレームがあれば自分たちでSettleできるように相手方と協議して解決する、という意味で、"resolve a dispute"と同じresolveの意味合いではないでしょうか。要するに、自分たちで当該クレームを申し立てた人と話し合いをして、和解するなりして解決しろ、という意味合いになるかと思います。これは前述の通り、一定のサービスを消費者が利用する場合の利用規約において用いられる表現としては、理に適っている部分があるかと思います。

しかし、このような条文が買主と売主との契約書に用いられている場合、起案者側の意図として、どうも買主に対して第三者からクレームがあった場合が想定されているようですが、その場合はどうなってしまうのでしょうか。

そもそも、製造物責任訴訟のような事案の場合、最終製品の製造メーカーを消費者は訴えますが、通常、最終製品に関する安全性や、関連する情報やデータなどは、最終製品の製造メーカーしか持ち合わせておらず、部品メーカーが当該訴訟開始の前後で弁護士をたてて、自ら先頭にたって消費者と和解交渉することは、そもそも不可能です(先方の弁護士と共に和解交渉・防御するとか、共同で弁護士をたてて和解交渉・防御する、なら話は別)。そういった場合に、部品メーカーがしゃしゃり出て、消費者と和解協議をすることは普通できません。むしろ、最終製品メーカーが部品メーカーから情報を得たうえで、部品メーカーに了解を得ずに消費者と和解する、ということは少なくないかもしれません(逆に、特許侵害訴訟の場合などは、部品メーカー側でないと、当該特許明細及び第三者のクレームの対象となる部品メーカーの製造部品に関する知識はないでしょうから、そういった意味で"resolve a claim"という表現のもつ効果は多少異なってくる気はします)。

そんな感じで、サプライヤーに和解権限も持たせずに、買主が消費者と和解した後に、「かかった費用を支払え」とサプライヤーに要求して、サプライヤーがそれを拒んだ場合、果たして当該"Supplier shall resolve a claim"とか、"Supplier shall bear the cost and expense thereof(therefor)"といった表現が、その要求に寄与するのでしょうか。

(余談:ここで、英文契約書におけるEntire Agreement Clauseが逆に足かせになる可能性がありますよね。"resolve a claim"という表現がAmbiguousでない、と判断されれば、Plain meaning ruleに従い、当該文言の持つ意味で契約内容を判断されますから。)


それに、"resolve a claim"って、自分たちで弁護士費用などを負担して当該ClaimをSettleする、という意味合いで、claimを自分たちでresolveできない場合に裁判や仲裁に至るわけなので、"Supplier shall resolve a claim"という表現が、果たして裁判や仲裁に至った場合も射程範囲内とできるかが、ちょっとよく分かりません。裁判や仲裁に至った場合に、サプライヤーが防御するための費用を自分たちで負担するのはともかく、買主が防御に際してかかった費用までをサプライヤーが負担する義務が果たしてこの条文で生じるのか。疑問です。

少なくとも、そのあたりの論点についてサプライヤー側に揉める口実をつくらせる(=紛争解決コストを増大させる)ことになる気はします。

なお、こういった表現に関する論稿や判例があるのかな、とちょっと調べてみたのですが、まだ見つかっていません。

どなたか、分かる方がいれば教えていただければ、と思います。

とにもかくにも、こういった表現はちょっと想定していた結果と違う結果を招く気もしますので、起案者側は要注意ではないかと感じている今日この頃です。