走りながらなるべく水たまりを避けて走った。
しかし、後半からは水たまりも避けようがないくらいに道路はびちゃびちゃだった。
両足が水たまりにハマった時は、うわぁ~って思っていたが、
もう、ここまできたらどうでも良くなってきた。
走りながら、どうにか30キロ、いや、32キロ、37キロまでは4:30ペースでなんとか走り切らなくちゃ~と思っていた。
けど、距離が進むに連れて、平均ペースがどんどん落ちて行く。
まずい。
もう、貯金を使い果たしてきている…
それでも、まだなんとかぎりぎり4:35の数字が見えていたのでなんとかなるかも…なんて小さな望みを持って走っていた。
けど、よくよく考えると、貯金を使いながらの4:35ペースだから、その数字が見えている時点ですでに走っているペースはそれより遅くなっているんだよね。
3時間15分を切る為には、今現在を4:35で走ってゴールまでいかないと到底むりだったのだ。
なんとなく、危険なのはわかってはいたけれど、最後まで望みは捨てたくなかった。
30キロを越えるころには、さっきまでの楽しい!という気持ちはすでになかった。
必死に走っていた。
苦しいとまではいかないが、体に、いや、足に変化が起きているのは自分でもわかっていた。
右のハムに痛みが出始めていた。
いつもはどちらかと言うと左が痛むのにな…
時折あらわれるエイドのスポンジ。
こんな雨の中だれが使うんだ?って前半では思っていたのに、
まさか自分が使うとは思わなかった。
スポンジを手にして、走りながら足の痛むところに水をかけてみた。
効果が見られるかどうかはわからないが、冷した方がいいってどこかで読んだことがあったから。
そのあとも、何度かスポンジを手にした。
今度はその水を頭にかけた。
こんなに寒い中を走っているけれど、頭に水をかけた。
冷たい水は頭を冷やしてくれた。
頑張らなくちゃ…
気持ちとは裏腹に足の方がどんどん重くなっていった。
そして、35キロあたりだったろうか。
給水があったので、ジェルを使い、水を飲み、ポカリを飲み終えて
一つの決断をした。
ここで、レインコートを脱いだ。
高橋尚子がサングラスを投げるかのように、
レインコートを丸めて道の邪魔にならないところに投げた。
(ごめんなさい、ゴミ箱見つからずで…)
レインコートを脱いだ体は風の抵抗がなくなったからか、とても軽く感じた。
よし、ここからだ!
そう思って、走っていた。
しかし、それは思いだけで、足はどうやらついていっていなかったらしい…
あとからタイムみたら35キロから大失速じゃないか!
完全に判断を誤ったね。
そのままレインコート着て走るんだったわ。
実は、私の頭には、そろそろカメラポイントがある…というのがよぎっていたんだ(笑)
こんな時に写真の事を心配していた自分が馬鹿だったなぁ。
でも、レインコート脱いだら気合い入ると思ってたんだけどな。
そうではなかったのか?
ただ単に、35キロから疲労がピークにたっしただけなのかも知れないけど。
どちらにせよ、思ったように足が運べなくなったのは事実だった。
頭の中であと7キロ…
あと6キロ… いつもの家から公園までの往復の距離だ、頑張れ!
あと5キロ… 皇居一周したら終わりだ、頑張れ!
そんな風に自分を励ましながら走っていた。
あとすこし、あとすこし。
ゴールのオリンピックスタジアムがどんどん近くなるのがわかった。
この道をずっとまっすぐ行って、曲がってまっすぐ行って、また曲がればゴール会場だって走りながら考えていた。
ゴールに近づくにつれて、沿道の声援も増え始めた。
チャムシルあたりだったかな、ブラスバンドの演奏があった。
演奏されていた曲は朝鮮民謡を代表する曲
「アリラン」 だった。
この曲は私の心に響いた。
韓国らしいこの曲がきけてうれしかった。
最後はもうがむしゃらに走るだけだった。
もう、時計もあまりみなかった。
間に合わないというのはわかっていたけど、だからと言って心が折れてあきらめることはしたくなかった。
頭であと何分って考えた。
のこり10分で3時間15分になる。
何分ペースで走れれば間に合うのか?って計算してみたけど、どう考えてもそんなペースでは走れないのはわかっていた。
だからと言って諦めモードには入らなかった。
もう、頑張ったって速くは走れないけど、これ以上遅くも走りたくもない。
絶対に、諦めたくはない。
最後まで
本当に最後まで必死に走った。
残り1キロという数字を見た時に、悔しさが溢れ出した。
苦しくて走るのが大変だった。
涙で呼吸困難に陥った。
そして、オリンピック競技場に差し掛かった。
あと、400m!
声援を受けながら、競技場の中に入る。
いつもなら最後の力を振り絞ってダッシュができるのだが、今日はそれすらできなかった。
上半身はめちゃくちゃ元気だが、足だけが重たい。
鉛の様な足を一歩、また一歩と前にやるのがやっとだった。
ゴールが目の前に見えてきた。
ゴール前でカメラマンの姿が見えた。
目標達成できずのゴール。
どんなポーズでゴールしたら良いのだろうか?と迷う。
苦笑いかな
笑顔でゴールってのも微妙だし、喜ぶかのように両手上げてゴールってのもな~なんて思いながら中途半端な感じでゴールしたと思う。
そして、ゴールラインを切った。
また、ここで悔しさがこみ上げてきた。
あ~~~~
ゴールした後の自分がまだまだ元気なのが腹立たしかった。
普通に歩けるし、普通に元気だし。
本当はもっと頑張れたんじゃないのかって思えてならなかった。
ガーミンの表示は3時間19分26秒
正式タイムは3時間19分18秒だった。
私のソウルマラソン
これが精一杯走った結果だ。
つづく