冷たい雨が降りしきる中、私達は荷物を預けにいった。
ねぇ、みんなで写真撮ろうよ。
そう言って、携帯で写真を撮った。
せっかく、みんなでお揃いにしたランドレだけど、レインコートで全然見えないや。
その後は、どうにか体を冷さないようにと、小さなテントへ避難。
ところ狭しとランナーが雨宿りしようとどんどんと押し寄せてくる。
なんだかんだと、スタート時間が迫ってくる。
この大会自体、ネットでの計測なので、よほどの事がない限りは多少後ろからのスタートでも問題はない。
けど、やっぱり前の方からスタートしたいと思ってた。
それを察してくれたかのか、わかばちゃんが、
「ユーそろそろ、スタートラインに行った方がいいんじゃない?前から走った方がいいよ」と声をかけてくれた。
私も、「うん、前から走るよ」
そう言って、みんなより少し早くスタートラインに向かう事にした。
でも、本当はひとりで先に行くのは少し寂しかった。
みんな一緒にいるのに、ひとりでスタートするのはやっぱり違う。
みんなと一緒にいたかった。
こんな雨の日だし、余計にそう思ったのかもしれない。
でも、そういう訳にはいかない。
スタートラインに向かう前、姉さん、ERIちん、わかばちゃんと一人ずつギュっとハグしてくれた。
みんなが頑張れって力をくれた。
大丈夫、私はひとりじゃない。
じゃあ、行ってくるよ!
そう言ってみんなと離れた。
ひとりで、Aグループの前方を目指す。
相変わらず雨は降っていた。
昨年のソウルはいつになくいい天気だった。寒さもそれ程気にならないくらい。
しかし、今年のソウルはなんだか薄暗く、冷たい雨が降り続けた。
レインコートを着ているからか、それ程寒さや雨が気にならなかった。
私は、人の間を縫って、Aグループの前方を目指した。
すると、そこには赤のおおしんTを着たHOTさんがいた。
後ろから人をかき分け、HOTさんに近づき声をかけた。
Hotさんに会ったのは行きの羽田以来だ。
昨日、何を食べたかとか、調子はどうですかとかそんな話をしているうちに、会場はスタート数分前。
会場では韓国のMBCアナウンサーが司会進行する。
国歌斉唱では全部は歌えないけれど、わかるところだけ一緒に歌う。
そして、今回は隣国日本のために、韓国国民もレース前に黙祷。
ざわついていた大会会場もこの時だけは静かになった。
韓国と日本は歴史上色々あったけれど、この国の人達は日本の事を本当に思ってくれている。
この黙祷だけでなく、街のあちこちで、日本頑張れ!と応援してくれていた。
街ではたくさんの人達が募金活動を行っていた。
こういう時は過去の歴史や国籍なんて関係ないのだ。
黙祷が終わり、スタートタイムが近づく。
男性アナウンサーの10秒前!という合図でカウントダウンが始まる。
10, 9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1 !!
スタート と同時にガーミンを押す。
2万余名のランナーを背に、先頭の方から走り始める。
私もすぐにスタートだ。
すでに何度と走ったこの道のり。
この広い道路がランナーで埋め尽くされていく。
今回は東京マラソンの時のようにつられてダッシュする事もない。
あくまでもマイペースで。
なので、スタート早々後ろから抜かれていく。
大丈夫、慌てるな。
そう良い聞かせながら私は光化門を背にし、市庁前を走り抜け、ミョンドンを走る。
そして、今日は右手にはカメラがない。
ホテルを出る前にわかばちゃんに聞いた。
ねぇ、ねぇ? 今日はカメラ持って走らなくてもいいかな。
いいよ、持たなくたって。大丈夫だよ。
そう言ってくれたから、カメラは持たずに走った。
カメラのない右手はとても自由だった。
べつに、いつもカメラに縛られている訳ではないが、やはり何も持たずに走るのは体が自然体そのものだった。
ただ、レインコートを着て走っているので、カサカサ、シャカシャカと多少気になりはするが…
走り始めは思った通りのペース。
しかし、2キロ、3キロと軽く道が下っている。
まったく意識した覚えはないけれど、3キロ目の下りでかなりハイペースだったようだ。
体感ではとくに息も切れるたりしていないので、気がつかなかったようだ。
すぐにペースをもどし、4:30に戻る。
4キロくらいで最初の折り返しがある。ここから、唯一一緒に走るランナー達と近くですれ違う事ができるチャンスがある。
どうしても、仲間に会いたかった。
だから、なるべくランナー側を走った。
最初に現れたのはHOTさんだった!
手を振って合図。
そして、そのあとも、みんなに会えると信じて反対側を走るランナーを横目に走った。
東京の時に、ERIちんが私のこと見つけられなくて心折れたって言うから、今日は私が見つけようと思って、ずっとランナーを見ていた。
行けども、行けども、みんなの姿は見つからず…
そのうち、右側に最初の給水が現れる。
あ~ 会えなかったか…
この後も折り返しはあるが、この先の折り返しは川を挟んでなので、見つけられる可能性は低い。
だから、どうしてもここで見つけたかったのに…
仕方ない。
仲間とのスライドはもう諦める事にした。
ここからは自分の走りに集中しよう。
走っていると、寒さはそれほど気にならなかった。
むしろ、途中で暑くなるくらいだった。
そんな時は少しレインコートを腕まくりした。
さすがに、少しすると体はすぐに冷えてくる。
これの繰り返しだ。
それでも、走っているのが気持ちよかった。なんだかとても楽しかった。
2度目の折り返し地点の先は昨日みんなで走った清渓川(チョンゲチョン)。
ここから、東大門方面を目指し、また折り返すのだ。
この辺りはホテルの近くなので何度もみた景色だ。
私は歩道と道路の間の30cm幅の場所が好きだ。
そんな、狭いところを走るのがなぜか好きだ。
ここから出ては行けないと勝手にルールを作って走るのが好きだ。
しかし、それを邪魔するように、前を走っていたランナーが突然歩き出す。
おいおい!
走っては歩いてをなんども繰り返されて、こちらは走りずらかった。
リズムを崩されそうだったので、その人の前を走ったが、いつの間にか近くにいる…
そして、私はある人を見つけた。
あ! 縄跳びおじさんだ!
そう、昨年もいた、縄跳びを飛びながら走る人だ。
なんと、この人、今年の大会パンフにも載っていた。
彼はギネス記録に載るまで縄跳びで走り続けるそうだ。
そんな彼は縄跳びで走りながらサブ3.5もやってのけている。
もともととても早いランナーらしい。
それにしても、人にぶつかる事なく縄跳びで走る姿は圧巻だった。
この雨の中、応援の人達もたくさんいた。
たしかに、昨年に比べれば少ない。
しかし、この寒い中で応援してくれる人がいるというのはなんとも嬉しい。
だから、その声援に少しでも答えられるようにと、手を伸ばす応援団にはハイタッチをして返した。
みなさん、ありがとう。
10キロまでのペース。
まだ、余裕あり。
つづく