砂漠の魚
暗い海中を見ながら、数年前の苦い記憶が脳裏をよぎった。
ケイタ・ヒヤマ:「少尉殿!あの民間船を攻撃するのですか?」
グズルク少尉:「そうだ、あの民間船には連邦の要人が乗船している。今ならやれる」
ケイタ・ヒヤマ:「しかし!民間人が多数乗っています」
グズルク少尉:「戦争に多少の犠牲はつきものだよ。
それに連邦は我々以上の行為をおこなっている!」
ケイタ・ヒヤマ:「しかし!・・・やはりやめてください少尉!おかしいです!」
グズルク少尉:「お前が出来ぬなら私がやる」
結果は火を見るより明らかであった。
多くの民間人が犠牲になり、さらにその船に搭乗していたのは連邦の要人ではなく
ユニセフで活動を行う「ユアサ・ロベルク」という人物であった。
当然、同部隊全員に処罰が下り、宇宙軍への転属が決まっていた彼も
1ヶ月の独房入りと、2ヶ月の謹慎処分、半年間の減給となった。
ケイタ・ヒヤマ:「なんて事だ・・・」
この間に予定されていた宇宙軍への編入は白紙になり、
彼の宇宙(そら)への夢は潰えたのであった。
謹慎処分から戻り、部隊編成をみた彼は驚愕した・・・
宇宙軍所属・・・グズルク・ガバナー
ケイタ・ヒヤマ:「!?」
人の信頼とは、もろく崩れやすいものである。
戦時中とはいえ何を信じればいいのか・・・
誰を恨めばこの気持ちは晴れるのだろうか
そして、彼の心は深い眠りにつく。
大海原にその宇宙(そら)を見いだす瞬間まで・・・
ハイドロジェットエンジンがうなりを上げ、大きな質量を持つそれは
無数の気泡の中を進んでいく。
今日はやけに静かな海だった。
海域は、ほぼジオンの制圧下といえるほど、連邦とジオンの水中用MSの性能差は
大きくなっていた。生産性・汎用性を重視した物作りと
局地戦を想定した物作りではそのコンセプトも性能も当然ながら大きく異なる。
ケイタ・ヒヤマ:「しかし・・・すごいな、陸戦型のザク2よりも地上性能が勝るか・・・」
先に戦場に投入されたゴッグとは違い、
このズゴックは水中はもちろん、陸戦においても高い運動性能を見せつけた。
攻撃面でも、ザクマシンガンの2倍程度の攻撃力しか持たないゴックビームと比べ、
数倍の貫通力を誇る腕部ビームを内蔵し、射界においても腕と腹では雲泥の差がある。
さらに水系MSのパワーは陸戦型のそれを大きく上回り、繰り出される爪攻撃は、
連邦軍のジムの装甲を1撃で貫通すると言われる。まさに死角のない機体といえる。
装甲?
ケイタ・ヒヤマ:(やられる前に相手を倒すさ)
暗い海中をグラブロに牽引され突き進む【蒼】のボディーは
それだけで威圧感を感じさせる。
ケイタ・ヒヤマ:「さて、鬼が出るか蛇が出るか、この作戦にズゴックはうってつけだが・・・」
作戦の内容はこうであった・・・
連邦軍が財政の厳しい港町への援助を条件に、
民間船を装い物資を他エリアから大量に運搬していると言う【情報】の確認である。
(連邦が物資を運ぶのに空でなく海上をねぇ・・・考えにくいが)
そう思いつつもケイタは再度作戦シートを眺め、細部の確認を行っていた。
マリンザクを搭載したユーコンは、先発隊として既に2日前に出発している。
港町周辺の海底の様子を探り、工作員を潜入させ、防衛部隊の【数】【質】
などを調査する事になっているが・・・
表向きは、「ただの」港町だ・・・
外部からはMSが駐屯している様子は見られない。
ケイタ・ヒヤマ:「作戦の確認を行う」
先発隊が既に情報を入手してくれていればいいのだが・・・
もしも本当に 「ただの」民間港だったら、後がやっかいだ。
そう思いつつも、無線で作戦の最終確認を個々に行う。
グラブロからの上空ミサイル爆撃で意表をつき、混乱に乗じ
港に入港している船を全て沈める。
極力 敵MSとの戦闘を避け、作戦成功率を上昇させる・・・か。
【机上で考えれば簡単な作戦だ・・・あくまで紙の上ならな】
そう、作戦としては今までこなしたどの作戦よりも簡単である。
ただ一点、情報の確認が間に合えばの話しだが・・・
ユーコンとの合流ポイントが近づく頃には、空の明るさは消え、海中は暗闇と化した。
ケイタ・ヒヤマ「人にも役割があるように、MSにもそれぞれ特徴と役割があるもんさ・・・」
そう呟くとLanzen_reiter-マリーン隊の部隊章を握りしめた。
大海原は全てを包み込む
人の気持ちはいつかその大きさを受け止める事が出来るのだろうか。
砂漠の魚 ケイタ・ヒヤマ編 前編 終わり
*今回の短編小説もリース・バヤの脳内で起こったことです。
*ケイタ・ヒヤマさんが槍M部隊を結成したての心理状況を文章にしてみました。
*文中に出てくるキャラクター名とUCGO内のキャラクターとは何ら関係がございません。
*ちなみに最後に【前編】と書いてありますが・・・続くかは不明です^^;