ニュータイプの欠片
ねぇパパ。
どうして人は戦うの?
なんで仲良くできないの?
どうして・・・
リース・バヤ:「そうだね。みんな仲良くなるといいね」
そう答えた後、出撃した私の命は、その戦場で散っていた。
爆発音と共に目が覚め、それが夢であると確信するまでに
数秒の時が必要だった。
(悪夢だ・・・)
横のベットで、小さな寝息をたてる生まれたての@息子を見ながら
リースはそう思った。
戦時下において、パイロットは何時死ぬか判らない、いつまで守れるか・・・
この時の私は戦場を@息子と共に駆け回るなどと想像もしていなかった。
そう、生まれたてのリース・バヤ@息子を見るリースの目には
遠い未来など見えはしないのだ。
数年の時が経ち、
あの時、夢に見た光景が今目の前にあった。
リース・バヤ@息子:「ねぇパパ。どうして人は戦うの?
なんで仲良くできないの?どうして・・・」
リース・バヤ:「そうだね・・・」
隠れていた記憶が蘇る、そうだこの後、私は・・・
未だメルボルンに平穏な日々は訪れない、以前のように頻繁な襲撃は
無いにせよ戦時下において安全な場所はない。
7歳になった@息子は今日、学校の遠足でプチ(Jr)モビルスーツの
見学に行ったと話してくれた。
(こんな子供にそんなことまでおしえるのか・・・長引く戦争の影響か)
そんなことを思いつつ、せがむ息子を連れ整備班の待つハンガーに向かう。
整備部隊班長:「リース、グフ仕上げておいたぞ!もうちと大事に使えよ」
リース・バヤ :「すいません。まだその機体に慣れなくて」
整備部隊班長:「お!めずらしいお客さんだwお前の子か?」
リース・バヤ :「はい。どうしてもMSが見たいというので。じゃまですか?」
整備部隊班長:「かまわんよ。何なら、おチビちゃん乗ってみるか?」
いつもは見せない優しい表情で、@息子の頭を撫でながら整備班長はそう言った。
リース・バヤ@息子:「うん」
愛機のグフに乗り込むと、@息子は
きょろきょろと物珍しそうに周りを見回した。
その目はとても澄んでいて、新しいおもちゃを
手に入れた時のように輝いている。
私は、@息子に少しだけ操縦方法を教えてみることにした。
リース・バヤ:「こっちのレバーを前にするとジャンプして・・・
こっちのボタンを押すと・・・で、こっちが こうで・・・」
すると、少し首を斜めにして不思議な事を言い始める・・・
@息子 :「わかるよパパ!ここを前にすれば手が上がるんでしょ?」
リース・バヤ:「う、うん。判るの?なんでかな・・・」
@息子 :「わかるよ~だってこのロボットが教えてくれるから」
リース・バヤ:「ふ~ん。そうなんだ・・・(さっぱり意味がわからんな)」
正面モニターに映る画像を見せようとハッチを閉めたその時!
グワシャ!
大きな音を立て、ハンガーの一部が倒壊した。
グフの胸部装甲に飛び散った金属片が容赦なくあたる音が聞こえる・・・
(何だ!?)
@息子:「みてパパ!ロボットだ!」
@息子の指す方向に陸戦型ジムの背中が見える。
陸ジムは背中に装備されたパラシュートを
パージし、立ち上がろうとしていた。
リース・バヤ:「連邦の降下部隊!直接街を狙ってきたのか!」
@息子をシートの後方に移動させ、幸いにも起動していたグフの操縦桿を握り
すぐに迎撃の体制を整える。
ザクバズーカとグフシールドを装備し、急いでハンガーを飛び出すと
陸ジムがハイパーバズーカを構えこちらを狙っていた。
(くっ!かわせない!)
次の瞬間、グフシールドが消し飛んだ!
間一髪バズーカ砲の直撃は防いだものの、
至近距離からのバズーカ攻撃を受け止めた為、機体へのダメージは
想像以上のものであった。
衝撃で左腕が動かなくなり、その反動でグフは後ずさりをし片膝をついた。
その隙をついて陸ジムは装備を近距離戦闘用に変え、容赦なく攻撃を続ける。
(さすがに降下部隊だけのことはある。手練れがそろっている。)
確実に至近距離から胸部周りに撃ち込んでくる。
リース:「痛い!」
コックピットの右横を弾が貫通し、右モニターが
バチッ!と言う音と共に消えた。
その熱と突き抜ける衝撃で、右腕に引き裂かれるような痛みが走る。
(@息子は!?大丈夫なのか・・・)
後ろを振り向くと半泣きのまま頭を抱えているのが見えた。
(よし生きてるな・・・)
そう確認した後、グフを立たせようと操縦桿を握るも右腕に力が入らない。
ケロイド状になった右腕は、パイロットスーツの重要性を物語った。
(くそ!こんなときに!)
幸いにも@息子には大きな怪我はなく、泣きながら膝に座り、
右側の操縦桿を動かすそぶりを見せた。
リース:「やれるのか?・・・」
軽くうなずき、袖口で涙をぬぐう@息子を見た時
私は「生きたい」と実感した。
「よし、逃げよう」
大人が乗ることを前提に設計されているMSのペダルに
@息子の足が届くはずがなく、彼の動かしたい方向に
機体を振るようにペダルを踏み込む。
目の前では2機の陸ジムが戦闘を繰り返している。
友軍がこれに対応し、戦いは民家をも巻き込むほどに拡大してしまっていた。
@息子:「パパ!右!」
左操縦桿を奥へ押し、慌てて正面モニターで敵機を確認しようと
ペダルを踏込み機体を右に振るリース。
それに合わせ右レバー下のトリガーを迷いもなく引く@息子。
リース・バヤ:「な・・・なんなんだ」(撃ったのか!?)
@息子 :「だって、このロボットが今、引けって言ったんだもん」
訳がわからなかった・・・自分の子の言っている意味がわからないのだ。
リースは困惑したが、今はそうさせるしかない。
放たれた弾が陸ジムの胸部に吸い込まれる。
ザクバズーカの弾が胸部装甲に当たりめり込みながら爆発するのが見えた。
リース:「直撃だ!」
(逃げ出すチャンスはここしかない!)
爆散する陸ジムの方向に走り込み、閃光の中をグフで駆け抜ける。
@息子:「僕が撃った弾があたったよ!」
こんな子供が敵を倒すのか・・・
いや、@息子には何かが聞こえるのか・・・
30歳をこえた今の私には、目に見える物以外は理解できない。
そう、時に人は残酷なまでにその感じ方にギャップを生ずる。
たとえ親子であっても・・・
これがオールドタイプと新人類の差なのだろうか。
それともジオン・ズム・ダイクンの言っていた人類の革新か・・・
その答えは誰も知らない。
そう、連邦エースに「メルの親子鷹」と呼ばれる物語へ続くその日まで
【小さな狼】は戦い続ける。
【ニュータイプの欠片 @息子編終わり】