今から約10年前

 

 

私は転勤の為

 

初めて大阪と言う地を訪れた。

 

 

 

始発近くの新幹線で地元を離れ

 

大阪に着いたのがam8:00手前

 

その日の朝から打合せが立て続けに入ってると言う

 

早々からのハードワークが私を待っていた。

 

 

 

打合せまで時間を持て余していた私は

 

とある喫茶店に入って時間を潰す事にした。

 

 

 

早い時間にも関わらず

 

何席か埋まった店内

 

 

私はホットコーヒーを注文した。

 

 

 

私が注文の品を待っている間

 

私の隣に座っていたお姉さんの元に

 

アイスコーヒーが運ばれた。

 

 

 

そのコーヒーをお姉さん

 

店員さんから受け取る時だった。

 

 

 

『ありがとう』

 

お姉さんは店員さんに

 

そう声を掛けた。

 

 

 

 

 

え?

 

 

今、なんて言った??

 

 

私がその光景に目を奪われていると

 

他の方にも同様に注文の品が運びこまれた。

 

すると、同様に

 

 

『ありがとう』

 

そう言って店員さんから

 

品物を受け取るお客さんの姿があった。

 

 

 

 

これまで、関東で過ごした約30年

 

初めて目にした光景に

 

私は驚きを隠せなかった。

 

 

自分が頼んだ品物を持ってきた店員さんに対して

 

 

『ありがとう』

 

そう、感謝の気持ちを伝える

 

 

持って来て貰って当たり前の状況に対して

 

感謝の気持ちを伝える

 

 

この一連の流れに

 

私は感銘を受けた。

 

 

 

 

郷に入っては郷に従え

 

 

 

大阪赴任初日

 

 

私を待っていた郷は

 

何とも気持ちの良いものだった。

 

 

**************

 

大阪転勤から数年後

 

 

再び、東京に戻った私は

 

大阪で培った経験を更に活かそうと

 

躍起になっていた。

 

 

 

なかでも、大阪赴任の初日で経験した

 

店員さんへの

 

 

『ありがとう』

 

と、言う気持ちを伝える文化については

 

馴染みのない関東に戻ってきてからも

 

継続して行っていた。

 

 

 

しかし、その文化については

 

気付く人間も居なければ

 

周りに浸透する事など一切無かった。

 

 

 

それとは逆に、店員さんに対して

 

乱暴な言葉遣い

 

過度なサービスの要求

 

等、人としての資質を疑う様な人達と

 

共に席を過ごさなければいけない

 

そんな環境だった。

 

 

 

身内なら強く諫める事が出来るが

 

それが仕事関係の中だと

 

そうも簡単にはいかない。

 

 

 

大阪で触れた

 

『ありがとう』

 

と、共に感謝をする文化は

 

ここには微塵も無かった。

 

 

 

 

そんな状況を憂いていた矢先

 

 

事件は起こった。

 

 

**************

 

その日は、仕事上のお付き合いで

 

20人程の会食が予定されていた。

 

 

 

その中で立場が一番下の私は

 

お店選びから出席者の人間への連絡等の対応に

 

追われた。

 

 

 

当日、私が選択をしたお店は

 

焼肉屋さんだった。

 

 

一つのテーブルで5人座れる席

 

 

それが4席横並びで一列

 

それが、当日の会食会場だった。

 

 

 

会食が始まり、早々に運び出される料理。

 

サラダ、キムチと前菜が運ばれて

 

最初のお肉の定番でもある牛タンが登場した。

 

 

 

各テーブル、一つある鉄板の上で

 

それを焼きながら食べる。

 

 

 

 

『美味しい!!』

 

運ばれるお肉はどれもが想像以上に美味しく

 

お酒と共に食事は進んでいった。

 

image

 

 

私の席は、久しぶりにお会いする面子ではあったが

 

普段、話せないような会話も交えて

 

盛り上がりを見せていた。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

『どうなってんだよ一体!』

 

 

 

 

和気あいあいとした会場の空気を切り裂く怒号が

 

隣のテーブルから聞こえてきた。

 

 

『肉焼けないんだったら

 何か持ってくるだろ、普通』

 

 

 

 

その怒号の主は

 

我々と同じ会食のメンバーの一人で

 

大きい身体とは裏腹にお酒を飲んでる時は

 

殆ど食事をする姿を見ていない為

 

 

 

『どこでカロリーを摂ってるんだろうね?』

 

と周りから揶揄されている方だった。

 

そして特に店員さんへの

 

横柄な態度でも有名な方だった。

 

 

 

『鉄板に火が付かないのは

 そっちの落ち度なんだから

 他のテーブルと同じ食事が出来るように

 一刻も早くどうにかしろよ!』

 

 

 

 

その身体以上に大きな怒号の内容を聞いて

 

ようやく状況の把握が出来た。

 

 

 

どうやら、私達の隣席テーブルの鉄板が

 

不具合で火が付かなかったようだ。

 

 

 

その後、お店の方とのやり取りの際に

 

何かが怒号主の逆鱗に触れた様で

 

怒号が飛び交う状況になった、ようだ。

 

 

 

『大変申し訳ございません

 すぐに調理場で焼いた物を

 お持ちしますので...』

 

 

 

そう言って、店長と言われた人物

 

平謝りしてその場を後にした。

 

 

 

『どうしたんですか?』

 

 

表情から見て、未だ怒り冷めやらぬ

 

怒号主私は声を掛けた。

 

 

 

『肉が食べれないから

 何か持ってこいって言ったのに

 いつまで経っても肉の一つも来ないんだよ』

 

 

 

そうまくし立てたあとに

 

 

『だったら、代わりに直ぐに食べれるもの

 持って来いってんだよ』

 

 

そう言い放つ顔は

 

まだ、言いたいことが山ほどある

 

そんな表情をしていた。

 

 

 

確かに、皆が料理を食べられている中

 

お店側の不具合(鉄板に火が付かない)

 

充分なサービスを受けられていない事について

 

不満が溜まる気持ちは分からなくない。

 

 

 

しかし、それに対してお店の方を指差しながら

 

周りが驚くほどの大きな声で怒号を浴びせる姿は

 

私には耐え難いものがあった。

 

 

 

『こっちのテーブル

 まだ焼いてない肉余ってますから

 良かったら召し上がりますか?』

 

 

本来なら、皆が見てる前で諫めたかったのだが

 

立場的にはそれが言えない環境

 

私はそう言って、の溜飲を下げる事ぐらいしか

 

出来なかった。

 

 

 

 

その後、そのテーブルには

 

厨房で焼かれた肉が運び込まれる事になったのだが

 

 

『肉が熱くない』

 

と、店員さんが持ってきた料理を

 

怒号主が突っぱねようとした

 

 

その時だった。

 

 

 

、こっちの網で焼き直しますから

 大丈夫ですよ

 

 

そう言って、私は店員さんが置けなかったお皿を受け取り

 

自身のテーブルの鉄板で焼き直して隣の席に置いた。

 

 

 

当たり前に対してありがとう、と感謝を伝える

 

その素晴らしい文化を

 

この場で浸透する事は出来ない

 

私なりのせめてもの抵抗だった。

 

 

 

 

それからと言うもの

 

徐々に焼かれたお肉のお皿で埋っていくテーブルに比例して

 

怒号主の怒りもどこかに消えたようだ。

 

 

 

 

**************

 

怒号主が呼んだ嵐があった事も忘れる程

 

楽しんだ会食が終わりに近づき

 

各々が席を立ち出しお店を出ようとした時だった。

 

 

 

席の下に収納をしてある鞄を取り出し

 

我々が席を立とうとした時だった。

 

 

 

ふと、嵐の原因となった

 

怒号主のテーブルに目を向けた時

 

 

驚きの光景が飛び込んできた。

 

 

 

 

 

料理が殆ど

残ってるんですけど

 

 

 

 

え、え、嘘でしょ!?

 

 

あれだけ

 

 

 

『熱々の料理持って来い!』

 

って、暴れておきながら

 

 

 

ここまで残す?

 

 

 

てか、私たちが焼き直したお皿も含めて

 

全然、食べてないじゃない!?

 

 

 

余りにも予想外の光景だった為

 

思わず、私は怒号主に声を掛けた。

 

 

 

『え、料理、殆ど手をつけてないじゃないですか?

 何かあったんですか?』

 

 

 

そう、問いかける私に対して

 

 

怒号主は、さも当たり前かのように答えた。

 

 

 

『え、俺って飲む時

 あんまり食べないじゃん』

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ何で

あの時暴れた?

 

 

だったら、何であんなにごねた!?

 

 

てか、未だ冷めやらぬ鉄板

 

 

今すぐ押し付けて

良いですか?

 

 

 

その時に、私はとある事を思い出した。

 

 

 

そうだよ、そうだよ

 

確かに、思い出したよ

 

 

この人、飲む時全然食べたないから

 

 

 

『どこでカロリー摂ってるんだろうね』

 

 

って、散々揶揄されてる人だって

 

今、改めて思い出したよ。

 

 

 

お店の方、残った料理見て

 

思うんだろうな。

 

 

 

何で暴れた?

 

 

って。

 

 

 

喰えないのなら

 

何であんなに暴れた?

 

 

そして、どこでカロリー摂って

 

その体系維持してるんだ?って。

 

 

 

 

店員さん、私も全くの同意です・・・。

 

 

 

 

**************

 

当たり前に対して

 

ありがとう、と言える気持ちは

 

誰しもが持っているものでは無いと思います。

 

 

 

だからこそ、常日頃から

 

小さなことでも感謝の気持ちを言える

 

 

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※手がナマステ

 

そんな人間になりたいものですイチゴ

 

 

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私が野球を始めたのは

 

成人式を迎える少し前

 

19歳の頃のとあるニュースがキッカケだった。

 

 

 

それは、1990年代後半に繰り広げられた

 

シカゴ・カブスのサミー・ソーサ


 

セントルイス・カージナルスのマーク・マグワイア


 

熾烈なホームラン争いだった。

 

 

 

当時、今ほど日本人メジャーリーガが活躍しておらず

 

メジャーリーグの話題が日本のニュースになる事は皆無だった。

 

 

そんな時代でも、このセンセーショナルな話題は

 

連日連夜、日本のスポーツニュースを賑わせていた。

 

 

 

当時、日本野球では

 

王貞治の持つシーズン55本塁打という

 

50年以上、塗り替えられていない偉大な記録があった。

 

 

 

しかし海を越えたメジャーでは

 

ソーサとマグワイア

 

この2人の偉大な選手が

 

日本野球の聖域である55本を遥かに上回る

 

60本以上のハイペースなホームラン争いを

 

繰り広げていた。

 

 

 

この両雄が繰り広げる桁違いの競争を見て

 

私の中で眠っていた感情が目覚めた。
 

 

 

野球がやりたい

 

 

 

今まで、野球部に所属した経験など無ければ

 

それ以外の運動経験は皆無。

 

 

 

野球を始めるのに必要な人数は

 

最低でも9人

 

 

しかも、それぞれが

 

それなりの技術が無いと

 

試合すら成り立たない

 

 

 

突拍子も無く湧き上がった感情は

 

それと同時に、実現に至るまでのハードルの高さも

 

実感させられた。

 

 

 

それでも

 

野球チームを作って

 

試合がしたい

 

 

 

この時既に

 

私の中でこの想いは

 

確固たるものになっていたのだ。

 

 

 

***********

 

私は、早速幼馴染のダーチ

 

声を掛けた。

 

 

 

私の突拍子のない提案に

 

同じく野球、スポーツ経験のかけらすらないダーチ

 

意外にもノリノリだった。

 

『いいね、楽しそうじゃん!』

 

 

 

勢いの良いスタートダッシュを切った私達だったが

 

それからの2年近く

 

私達の野球活動はダーチと2人きりだった。

 

 

 

2人だと必然的に

 

出来る事が限られてくる。

 

 

・キャッチボール

 

・ノック (ボールを探してる時間の方が多い)

 

・素振り

 

・バッティングセンター etc.....

 

 

 

当然にして、限られた練習を

 

幾らこなしても私達の技術は

 

向上する気配を見せなかった。

 

 

 

相変わずメンバーは集まらず

 

技術の向上すら見えない。

 

 

 

何より、その状況で満足をしかけていた

 

私達2人が居た事が

 

当初の気持ちを徐々に鈍らせていった。

 

 

(試合が出来る日なんて

 

本当に来るんだろうか・・・)

 

 

 

しかし、そんな状況を

 

とあるブームが打開をしてくれる事となった。

 

 

 

今ではドラマや映画の大ヒットで知る人ぞ知る

 

 

ROOKIES

 

不祥事を起こしたかつての伝統ある野球部は不良の溜まり場となっていた。

  そんな部員達の奥底に残る情熱を、野球の「や」の字も知らない新任教師が

  更生をして、夢の甲子園を目指す物語


 

 

 

当時、このROOKIES

 

絶大なる人気が、メンバー集めを解消してくれたのだ。

 

 

『直くんとダーチって野球やってるんでしょ?

 

 俺にもやらせてよ!』

 

 

『全然、経験無いけど大丈夫??

 

 それならやりたいんだけど!』

 

 

『つーか、ROOKIESみたいなチーム作ろうぜ!』

 

 


野球チームを作ろうと思い立った当時

 

あれだけ、熱心に声を掛けても興味を示さなかった人間が

 

1人、また1人と集まり

 

ROOKES人気にあやかった我がチームは

 

あっという間に必要最低人数の9人を越えたのだ。

 

 

 

動機はどうであれ

 

我々のチームが

 

ようやくスタートラインに立てた瞬間だった。

 

 

 

後は、試合に向けての

 

最低限の技術を身につけるのみ

 

なのだが、そうは簡単に行かなった。

 

 

 

私も含めてズブの素人集団が

 

そう簡単に試合が出来る程の技術が身につく訳がなかったのだ。

 

 

 

しかし、そのズブの素人集団達は

 

仕事に、家庭に、学校・・・と

 

限られた時間を野球の為に割いてくれた。

 

 

 

たかだか私の突拍子のない発言

 

 

野球がやりたい

 

 

当初は時代背景もあり

 

それに便乗をした彼等であったが

 

気が付くと本気で野球にのめり込んでいたのだ。

 

 

 

そんな彼等を見て

 

私も負けじと自主トレーニングを始めた。

 

 

・日課のロードワーク

 

・筋トレにインナーマッスルの強化

 

・素振り etc...

 

 

 

長年吸っていたタバコは

 

野球を始めた年から、もう吸っていない。

 

 

もう、そこには

 

野球について何も知らない

 

そんな顔をする男達は誰も居なかった。

 

 

 

寒さでかじかむ手を抑えながら

 

練習を耐え抜いて迎えた

 

チーム発足から3年目の春。

 

 

 

ようやくかたちになりかけた私のチームで

 

大事なポジション決めを行う事にした。

 

 

まずは皆で、50m、遠投をして

 

それから適性を見てからポジションを決めていこう

 

 

 

そう、提案をする私に対して

 

チームメイトは口を揃えて私にこう告げた。

 

 

『ピッチャーは直君がやるべきでしょ?』

 

 

『ってか、直君のチームだし

 

直君より速い玉投げれる人間

 

うちのチームに居ないし』

 

 

 

野球こそ知らないが

 

自己主張の強いチームメイト達

 

いとも簡単にマウンドを私に譲った。

 

 

 

そして、そこに

 

最初から私の我が儘に付き合ってくれていた

 

幼馴染のダーチが続けた。

 

 

『そうなったら・・・

 

キャッチャーは俺しか居ないよな?』

 

 

 

 

え?

 

 

 

『・・・キャッチャーって

 

だって、ダーチ左効きじゃん?

※一般的に左利きはキャッチャーをやらない

 

キャッチャーミットだって無いよ?』

 

 

『そんなん、特注でも何でも作ればいいじゃん

 

そもそも、お前の球を受けるのは

 

俺しか居ないっしょ?』

 

 

 

日頃、皆の事を見ながら

 

私ながらに勝手に思い描いていた構想と

 

全く違うポジション決め

 

 

『じゃあ、ホントはイチロー好きだから外野やりたいけど

 

足遅いし、肩も弱いから俺はファーストやるよ』

 

『じゃあ、俺は・・・・』

 

 

 

今迄の練習で譲るところを見た事が無かった程

 

自己主張の強いチームメイト達

 

チームの事を考えて各々のポジションを決めていたのだ。

 

 

 

『みんな・・・』

 

 

 

チームの事を誰よりも考えてるつもりだったのに

 

誰よりもチームの事を考えていたのは皆のほうだった。

 

 

 

***********

 

それから、私達は

 

更に激しい練習を重ねる事になる。

 

 

 

その練習が報われたのか

 

バッティングでは鋭い当たりが出る様になったり

 

私自身は、始めた当初よりも

 

球速が20km/h以上あがった。

 

 

 

野球がやりたい

 

その思いで集まった我々は

 

その誰もが、見違える程の技術を身につける事が出来たのだ

 

 

ただ・・・

 

私だけを除いて・・・。

 

 

 

誰もが納得するぐらいの速球を手に入れた私だったが

 

重要なコントロールが、一向に定まらなかった。

 

 

スピードを抑えれば

 

ある程度、コントロールはつけられるが・・・

 

どうしても、スピードの速い球を投げたくなってしまい

 

球が荒れる事がしばしばあった。

 

 

 

しかし、そうなると必ずバックからは

 

『コントロール重視!』

 

『大丈夫、そのスピードだったらそうそう打たれないから!』

 

『打たれたら俺らが捕ってやるって!』

 

何よりも心強い掛け声を掛けられた。

 

 

(そうだよな・・・

 

一人で野球やってるんじゃないんだよな・・・)

 

 

何度もそんな大事な事に

 

気が付かされた。

 

 

 

そして更に月日は経ち

 

チーム発足4年目の春

 

私達は念願の初試合を迎える事になった。

 

 

 

相手は大学生の野球サークル。

 

 

 

サークルとは言っても実力もキャリアも

 

はるかに相手のほうが格上。

 

 

相手チーム先行

 

我がチーム後攻

 

 

 

野球がやりたい

 

 

ようやく、その想いが叶う瞬間だった

 

 

 

今迄の色々な思いを胸に

 

私はピッチャーマウンドに向かった。

 

 

(まずはストライク先行

 

・・・コントロール重視で行こう)

 

 

そう思いながらピッチャーマウンドの

 

ボールを拾った瞬間だった

 

 

気が付けばキャッチャーで幼馴染のダーチ

 

マウンドまで来ていた。

 

 

『・・・どうしたの?』

 

 

『あのさ、初球だけどさ・・』

 

 

あれだけ、練習で皆に口酸っぱく言われてるんだ

 

もう、大丈夫

 

 

そう思いながら

 

 

『分かってる

 

 

ストライク先行だよね?

 

コントロール重視で行くから』

 

 

そう諭す様にダーチに告げた。

 

 

『・・・いや』

 

 

 

『・・・?』

 

 

そう言うと、ダーチは私の肩を叩きながら

 

こう告げた。

 

 

 

『初球はさ・・・

 

コントロールなんて気にしなくて良いから・・・

 

思いっきり投げてよ

 

 

 

え?

 

 

今迄の想い・・・

 

初球にそれを

 

思いっきりぶつけてくれよな

 

 

『・・・え?

 

でも、それじゃコントロールが』

 

そう言おうとした瞬間だった。

 

 

大丈夫

 

どこにいっても必ず

 

俺が捕ってみせるから!

 

 

そう言って

 

また私の肩を叩いてポジションに戻るダーチ

 

 

 

 

程なくして聞こえてくる

 

プレイボールの声。

 

 

 

きっとダーチ

 

ど真ん中にミットを構えていただろう。

 

 

 

でもね

 

ほんとはあの時・・・

 

 

 

涙が溢れて

 

キャッチャーミットなんて見えてなかったんだ。

 

 

 

ダーチの一声で

 

この4年間の色んな想いが溢れてしまって・・・

 

 

今、こうしてピッチャーマウンドに立ててる事が

 

嬉しくてたまらなかったんだよ。

 

 

 

この1球を投げたくて始めたんだよな
 

 

そう考えると・・・

 

ここまで長かったよな

 

 

そんな俺等の想いが詰まったこの1球・・・

 

 

 

打てるものなら

打ってみやがれ!

 

 

 

そうして私の手から放たれた

 

渾身の一球

 

 

 

 

投げ終わった私が顔を上げると

 

私の目の前を転がっていた

 

 

ピッチャーゴロ!?

 

 

すぐ様、打球に駆け寄ろうとする私・・・

 

 

だったが、どうやら様子がおかしい

 

 

 

 

『ん?』

 

 

 

そして、すぐに異変に気が付いた

 

 

 

 

 

 

 

 

私の渾身のストレートは

 

ダーチのキャッチャーミットではなく

 

 

 

相手バッターの

 

頭に当たったのだ

 

 

 

 

転がる相手バッター

 

 

それを見つめる私

 

 

腹を抑えて

 

笑いを堪えきれず、うつむくダーチ

(※軟式野球、且つヘルメット着用なのでまず怪我はしない)

 

 

 

 

野球をやりたい

 

そう願い、長い道のりを経て

 

ようやく迎えた

 

記念すべき第1球が

 

 

頭部への死球

 

 

 

そんな、素敵な1球で幕を開けた

 

我がチームの初試合。

 

 

 

その後、動揺した私が打ち込まれてしまい

 

試合は大差で負けてしまった。


 

 

***********

 

 

久しぶりの更新は以前のアメンバー限定記事の

 

再掲載となりました。

 

 

なぜ、今になってこの記事を再掲載したかと言うと

 

久しぶりに活動を始めたバンドで

 

この時の出来事が曲になりました。

 


Neo's in summer

Gt.は当時のファースト

Bass.が幼馴染のダーチ

 

 

 

ここ最近、インスタでの更新しかしておりませんんでしたが

 

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徐々に徐々に

 

また、イチゴな日々を

 

綴っていこうと思っております。

 

改めて宜しくお願い致しますイチゴ

 

カバンを無くして3ヶ月

 

一向に進展を見せない捜査状況に痺れを切らした私は

 

被害のあったお店にその後の様子を尋ねた。

 

 

そこで常連客が再度

 

そのお店を訪ねてきた、と言う

 

これ以上ない進捗状況を聞かされる事となった。

 

 

 

 

第1話 ⇒ 【 10度目の春

 

第2話 ⇒ 【 銀座の夜で  】

 

第3話 ⇒ 【 与えられた試練  】

 

第4話 ⇒ 【 裏切るのが期待  】

 

第5話 ⇒ 【 ようやく出てきたカバン  】

 

 

 

 

 

**************

 

『カバンを持って行った男性

 

また、お店に来たんですよ。

 

警察の方に聞いてませんか?』

 

 

 

お店の方からの思いもよらない情報。

 

もちろん、そんな情報を

 

菊地刑事から聞いてる訳が無かった。

 

 

 

『カバンを持っていった方が来店された際に

 

こちらで名刺を頂きまして

 

それも警察の方に提出しております』

 

 

 

捜査状況の進捗状況を尋ねると決まって

 

『未だ、裏付け捜査が進んでおりませんので』

 

そう答えていた菊池刑事

 

 

 

お店の方が機転を利かせて手に入れてくれた名刺

 

 

 

これ以上の裏付けある?

 

本人特定できるじゃないか!!

 

 

 

ようやく被疑者の特定が出来た嬉しさ

 

 

それよりも、その状況から2週間

 

ほったらかしにされた怒りが勝った私は

 

直ぐに菊池刑事に電話をした。

 

 

 

『今、お店の方に聞きましたけど

 

カバンを持って行った方、またお店に来てて

 

更に、名刺迄手に入ってるのに連絡無いって

 

一体、どういう事ですか!?』

 

 

口調こそ丁寧だったが

 

私の語気はかなり強くなっていた。

 

 

 

『申し訳ないです。

 

只今、色々と立て込んでおりまして・・・』

 

 

 

事件が起きたのが2月中旬

 

それから3ヶ月近くが経過をして

 

もう5月に差し掛かっていた。

 

 

 

『色々と立て込んでるって

 

一体、いつになったら動いてくれるんですか!?』

 

 

更に語気を強めた私の問いに対して

 

申し訳なさそうに菊池刑事は答えた。

 

 

 

『申し訳ございません・・・

 

只今サミットで忙しくて・・・』

 

 

 

そうか、そうか

 

今は伊勢湾サミットで忙しくて・・・

 

 

 

て、ここ港区だよな?

 

 

 

 

サミットやってるの三重県だよね!?

 

港区の警察が証拠が揃ってる事件をそっちのけで

 

てんやわんやしちゃうの!?

 

 

 

世の中には溢れる程犯罪は起きている

 

それに比べたら、私の事件なんて

 

とても軽微な物だ。

 

 

だからと言って、ここまで解決の糸口が揃っているのに

 

この対応はあんまりだ。

 

 

 

ようやく私は、このままだと事件が解決しない事を悟った。

 

 

 

 

**************

 

『吉田さんの携帯番号で宜しいですか??

 

私、佐々木弁護士事務所の

 

佐々木(仮称)と言う者ですが・・・』

 

 

 

このままだと事件が解決しない事を悟った私は

 

この事件を弁護士に相談をした。

 

 

カバンを常連客に持って行かれた事

 

その様子が防犯カメラに残っている事

 

その常連客の連絡先を警察が入手している事

 

それなのに事件が解決しない事

 

その理由がサミットで忙しいと言う事

 

 

 

真っ先に電話をくれた佐々木弁護士

 

電話口で呆れた様に答えた。

 

 

 

『メールに書いてある事が事実であれば

 

これは飛んでもない事です。

 

この事件ですが、直ぐに解決出来ますよ!』

 

 

 

最後の一言が、とても心強かったのを

 

今でも覚えている。

 

 

 

 

翌日に佐々木弁護士から連絡が入った。

 

 

『吉田さん、今回の件ですが私が代理する旨と

 

事件の進展が無い旨、担当刑事にお伝え致しました。

 

特に捜査状況についてはかなり強く伝えましたので

 

直ぐに進展があると思いますよ』

 

 

 

佐々木弁護士の言う通り

 

その数日後に菊池刑事から連絡が入った。

 

 

この事件が起きてから4ヶ月

 

思えば菊池刑事から連絡を貰うのは

 

事件が起きた日を除けば

 

これが初めての事だ。

 

 

 

『弁護士先生からご連絡を頂いた件ですが

 

その後、被疑者の方にも警察に来て頂いて

 

後は被疑者の方と弁護士先生の方で

 

お話をまとめて頂けるかと思いますので・・・』

 

 

 

 

あんなにも何も動く気配を見せなかった事件

 

弁護士が介入するだけで

 

ビックリするぐらいに事が運んだ。

 

 

 

 

数日後。

 

 

佐々木弁護士から連絡が入った。

 

 

『あれから被疑者の方と面談を致しまして・・・

 

今回の件ですが、かなり泥酔をされてたみたいで

 

全然覚えてなかったみたいです』

 

 

 

今回の犯人とされる常連客。

 

どうやら私のカバンを持って行ったのは

 

故意ではなかった様だ。

※その後、お店に普通に行ってる時点で大体察しはついていたが

 

 

 

『警察の方に防犯カメラ等を見せられて

 

今回の事件に関しては

 

誠心誠意を持って謝罪をさせて頂く

 

と言っておりますので』

 

 

 

故意では無いにしろ

 

酔ってカバンを持って行った事は許されない事実だ。

 

 

しかし、それに対してしっかりと謝罪が出来る

 

そんな方が犯人で逆に安心した私に

 

佐々木弁護士はこう告げた。

 

 

 

『ただ、被疑者の方も言ってました・・・

 

何で、今なんだ?

 

と』

 

 

 

揃った状況証拠から

 

自分の特定は難しくなかっただろう。

 

事件発生直後なら、あぁあの時そんな事やらかしてしまった

 

そうなったのに、何で4ヶ月も経った今なんだと。

 

 

 

その被疑者の方の言葉を聞いて

 

この方もある意味、被害者なんだな

 

そんな事を私は感じた。

 

 

 

 

**************

 

 

『こんな事があったんですよ

 

ありえないですよね!?』

 

 

 

この長かったカバン事件を

 

私はいきつけの美容院で担当の方と話していた。

 

 

 

この担当の方との付き合いは10年以上になり

 

大阪転勤時代の2年近くの間も

 

東京出張の度にカットをして貰っていた。

 

 

お店が都内から川越に移った際も

 

当初は後任の方にカットをして貰っていたが

 

しっくりこなかった私は2時間近く掛けて

 

川越まで通い、カットをして貰っている。

 

 

 

『しかし、その菊池刑事

 

とんでもないですねぇ・・・

 

同じ菊池として申し訳ないです』

 

 

奇しくも、私の担当の方の名前も菊池だった為

 

菊池さんは笑いながらそう答えた。

 

MANITA LUXUCE

マニタ ラグス

埼玉県川越市脇田町17-25 畑中ビル2F

JR埼京線/東武東上線『川越駅』東口より徒歩3分

 

 

『でも、解決して良かったですよね

 

財布とかお金はどうなったんですか??』

 

 

心配そうに菊池さんは聞いてくれた。

 

 

『お蔭様で、全部弁償して頂いた上に

 

とても大きな額の慰謝料まで払って頂きました』

 

 

 

お蔭で私は長年買いたかった

 

財布とキーケースまで買い揃える事が出来た。

 

 

 

 

 

 

カバンが無くなってから

 

仕事にプライベートにかなり支障をきたしたので

 

むしろ、安いぐらいと言う人も居た。

 

 

 

ただ、何よりも大事なカバンが返ってきた

 

それだけで私は充分だった。

 

 

『プレゼントで貰ったばっかりのカバンが

 

一週間後には無くなってしまったので

 

それだけ戻ってきて何よりでしたよ』

 

 

 

その話を聞いて、菊池さん

 

思いだし笑いをしながら答えた。

 

 

『しっかし、菊池刑事のカバンのやり取り

 

ほんっと、笑えますよね!

 

 

ネイビーって言ってるのに灰色って応えて

 

紺色って言ったら、そっちの?

 

って、もはやコントですよね 笑』

 

 

 

あの時は切羽詰まっていて笑えなかったが

 

今となっては、かなり笑えるだよなぁ・・・

 

 

と、同時に私はある事を思い出した。

 

 

 

『そう言えば戻ってきた私のカバン・・・』

 

 

 

『カバンがどうしたんですか??』

 

 

菊池さんが不思議そうに尋ねた。

 

 

 

 

 

TAKEO KIKUCHIでした』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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全てが詰まったカバンを

 

不意に奪われてしまった。

 

 

その時の残った数々の証拠のお蔭で

 

事件は早期解決するかに見えた・・・

 

 

しかし、あまりにも消極的な担当刑事の対応は

 

その僅かな希望すらを簡単に奪っていった。

 

 

無くなったカバンが出て来た

 

 

と、言う連絡を貰うまでは・・・。

 

 

 

 

第1話 ⇒ 【 10度目の春

 

 

第2話 ⇒ 【 銀座の夜で  】

 

 

第3話 ⇒ 【 与えられた試練  】

 

 

第4話 ⇒ 【 裏切るのが期待  】

 

 

 

**************

 

 

事件から4日経った日

 

早朝に私の携帯が鳴った。

 

 

『こんな朝早くに誰だよ・・・』

 

 

そんな電話の主は

 

被害届を出した警察だった。

 

 

要件は、無くしたカバンが届けられた

 

と、いう事。

 

 

その待ちに待った発言を受け

 

眠気が吹き飛んだ私は

 

すぐさま、警察に向かった。

 

 

待ちに待ったカバンとの対面

 

の、はずだった。

 

 

しかし、そこには

 

無情な現実も

 

一緒に待っていた。

 

 

事件のあったお店近くの路地裏に

 

捨てられていた私のカバン

 

財布や定期、携帯の充電器、等

 

仕事道具以外の物は一切なかった。

 

 

 

約10年間、私と色々な思い出を供にしてきた財布

 

様々なお店でコツコツと貯めてきたポイントカード

 

立て替えた分も含めると10万以上の現金

 

 

その全てが、奪い去られた事を

 

改めて実感した瞬間だった。

 

 

『何が何でも

 

犯人を捕まえて償わせてやる』
 

やり場のない怒りが

 

当たり前の様に犯人へと向けられた

 

瞬間でもあった。

 

 

 

**************

 

 

 

私の確固たる気持ちとは裏腹に

 

捜査は一向に進む気配を見せなかった。

 

 

そんな私を見兼ねてか

 

事件当日に一緒に居た友人が

 

私を飲みに誘ってくれた。

 

 

場所は事件のあった新橋。

 

 

『遅れて行くから

 

先に飲んで待ってて!』

 

 

その友人の連絡を受けて

 

いつも、独り飲みをする焼き鳥屋に足を運ぶ。

 

 

 

カバン事件の幕開けとなった

 

元上司と一緒に来た以来だった。

 

 

『あ、吉田さんすみません!

 

今日、いっぱいなんですよー』

 

 

そう、そんな事言われるのも珍しくない

 

人気店だったよな、このお店は。

 

 

 

仕方なく、その焼き鳥屋を後にして

 

独りで時間を潰せるお店を探す。

 

 

『困ったな・・・

 

あそこぐらいしか一人で行く様なお店

 

知らないんだよな・・・』

 

 

そう、思いながら新橋の街を歩いてると

 

 

男性から不意に声を掛けられた。

 

 

『すみません!

 

ちょっと良いですか!?』

 

 

夜の繁華街を歩いていると

 

いわゆる客引きに声を掛けられる事は珍しくない。

 

 

新橋のそれは私が知り得る繁華街の中でも

 

かなりの数で声を掛けてくる。

 

 

(・・・うっとおしいな)

 

 

大抵、目線も合さず無視をしていれば

 

引き下がってくれるのだが・・・

 

この日、声を掛けてきた男性は

 

やけにしつこかった。

 

 

『すみません!

 

ちょっとで良いんでお話だけでも良いですか!?』

 

 

 

(・・・しつこいな)

 

 

視界の端に映るスーツ姿らしき男性に

 

目線すら合せず無視をしようとした時

 

その男性の顔が私の視界に飛び込んできた。

 

 

 

え?

 

 

 

その顔を見て

 

私は思わず声が出た。

 

 

『・・・澤部さんですよね?』

 

 

 

そう、私に声を掛けてきた男性

 

それはお笑い芸人

 

ハライチの澤部さんだったのだ。

 


 

 

『すみません

 

今、テレビの取材をしてまして・・・

 

少しだけお時間を頂いても良いですか??』

 

 

突然の要求で状況が呑み込めなかったが

 

お店すら決まっていなく時間を持て余していた私は

 

その突然の要求を快諾した。

 

 

『別に大丈夫ですけど・・・』

 

 

その私の発言と共に

 

一斉に私の周りに集まるスッタフ

 

そして向けられるカメラに照明

 

 

『ただいま、新橋にいらっしゃるサラリーマンの方に

 

お話を伺っておりまして・・・』

 

 

そう、切り出す澤部さん

 

その後、やたらと私の持ち物を褒めだした。

 

 

『ネクタイもすごく素敵ですね、どこのブランドですか??

 

時計も高そうで・・・』

 

 

あまりの褒めように気持ちが悪くなった私は

 

『え?

 

ホントは何が聞きたいんですか??』

 

 

と質問返しをした。

 

『今回の番組ですが

 

【聞きにくい事を聞いてみた】と、言う番組でして

 

新橋のサラリーマンの方に

 

聞きにくい事を聞いておりまして・・・』

 

 

私も何度か見た事がある番組だった。

 

 

 

(聞きにくい事ってなんだろう・・・)

 

 

そう思った矢先に澤部さんから

 

本題の質問が飛んできた。

 

 

『ずばり、財布の中身には

 

幾ら入ってますか??』

 

 

 

確かに、聞きにくい質問だったが

 

 

事件のせいで、それ以上に私はその質問に対して

 

答え辛い状況だった。

 

 

『すみません、先日

 

カバンを盗難されまして

 

財布が無いんですよ』

 

 

先日の事件が解決するまでは

 

新しい財布を買わないと決めた私は

 

財布が無い状態だったのだ。

 

『またまたぁ~

 

そんな事言わずに教えて下さいよ~』

 

 

私が財布を出し渋っているかと思い

 

食い下がらない澤部さん

 

 

 

『本当なんですって!

 

この前、すし三昧でカバンごと盗られちゃって

 

財布が無いんですって!』

 

 

 

私の必死の訴えを見て

 

ようやく、その出来事が本当だと悟った澤部さん

 

 

『え?

 

じゃあ、今現金はどうしてるんですか??』

 

 

『今ですか??

 

銀行の封筒に入れてます』

 

 

そう、この時の私の財布代わりは

 

銀行の封筒だったのだ。

 

 

 

『そんな、いくらなんでもそれは無いですよね?笑』

 

そう笑いながら応える澤部さんを尻目に

 

私のカバンから三井住友銀行の封筒が出て来た際に

 

澤部さんを含めて、スタッフ一同から爆笑が湧きあがった。

 

 

『本当だったんですね!!』

 

その後、何度かやり取りを交えて

 

私に対しての取材が終わった。

 

 

 

『本日はありがとうございました!!』

 

そう澤部さんに御礼を言われた後に

 

ディレクターらしき男性が私にこう告げた。

 

 

『すみません、先程の

 

すし三昧でカバンを盗られちゃったって言うくだりですが・・・

 

お店の名前が出ると色々とまずいので

 

すし三昧ってところを

 

お寿司屋さんに変えて

 

撮り直しをお願いできますか??』

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

ちょっと待って、私・・・

 

 

 

ただの素人だよ??

 

 

 

 

そんな、素人に

 

さっきのやり取り無かったことにして

 

新たな内容に差し替えて❤️

 

 

って、なにさらっと高度な要求してるのよ!?

 

 

そんな、何事も無かったかのように

 

もう一回、出来る訳・・・

 

 

 

『それでは財布を見せて貰って良いですか??』

 

 

おい、澤部

 

 

 

なに、さらっと進めてるんだよ!!

 

やらなきゃいけない流れになってるじゃないか!!

 

『・・えっと、財布ですが

 

この前、カバン盗られちゃって無いんですよ・・・

 

・・・お寿司屋さんで

 

 

 

 

 

 

私の苦労が詰まった今回のインタビューの流れを

 

私は親しい友人達にのみ放送日と共に伝えておいた。

 

 

 

『それ、絶対放送されるよ!

 

そんな面白い出来事ないもの!!』

 

 

話を聞いた友人たちは

 

口を揃えてこの出来事を絶賛してくれた。

 

 

 

 

そして迎えた放送日。

 

 

 

仕事で会議だった為

 

OAを観る事が出来なかった私に

 

放送直前に次々と連絡が入った。

 

 

 

 

『そろそろ始まるね!』

 

『録画スタンバイしてるよ!!』

 

 

そうOAを楽しみしてくれてる連絡を横目に

 

私は長い会議に入り

 

放送開始から、1時間後に再び携帯を見た。

 

 

そこには放送を観てくれた皆からの

 

連絡で埋め尽くされていた。

 

 

『放送観たけど・・・

 

直君、映ってなかったみたいだね・・・』

 

 

待って

 

あんな高度な要求させておいて


 

 

カットされたの?

 

 

 

おい!

 

 

 

おい!!!

 

 

 

カットするんだったら

 

 

 

あんなクダリ

 

要求しないでよ!

 

 

 

酷いにも程があるぞ!!!

 

 

カバンが盗られた事により

 

思わぬところにも影響が出ていた。

 

 

 

**************

 

 

事件から3ヶ月経ったが

 

未だに警察から事件の進展を継げる連絡は

 

入らなかった。

 

 

私から菊池刑事に定期的に連絡をするも

 

『未だ裏付け捜査が取れていなくて・・・』

 

相変わらずな返事しか貰えなかった。

 

 

 

業を煮やした私は

 

再度、事件のあったお店に連絡をした。

 

 

カバンを持っていった常連客が

 

その後、お店に来ていないかを直接確認する為だった。

 

担当の副店長に繋いでもらい

 

様子を伺う。

 

 

すると、驚いた様子で副店長

 

私に告げた。

 

『警察の方から何も聞かれていませんか??

 

例のお客様、この前お店に来られたので

 

私が名刺を頂いて、既に警察の方に提出してますよ』

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

『それ・・・

 

いつの出来事ですか??』

 

 

『えっと・・・

 

2週間ぐらい前です』

 

 

 

 

 

 

つづく