コロナで5月末まで篭ってます。
ゲーム依存症について、NHKで番組があったようです。
外出自粛の陰で…ゲーム依存は大丈夫?
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4417/index.html
https://www.nhk.or.jp/gendai/kiji/185/index.html
番組は概ね良心的かと思われます。
自民党の藤末建三さんのツイートは以下のとおり。
https://twitter.com/fujisue/status/1263272381281255427
「NHKクローズアップ現代「ゲーム依存症」 ゲーム依存症の問題とゲームのプラスの面がバランスよく整理されていると思いました。 早く科学的根拠に基づく対策を整備しなければなりません。 ゲーム時間を規制するより状況を受け入れた上で対応することがいいと思いました。」
私も藤末さんに同感です。
1時間等の一律の規制は、以前から書いているとおり反対です。
ただ個人的な最終妥協ラインは藤末さんと違います。
これも以前から書いてるとおり「オンラインゲーム・夜間・未成年」の制限なら検討して、ありえる。
藤末建三さんは香川条例ができた際も、すぐに国会の質疑で「国の法が優先する」旨の答弁を引き出していました。
差し当たって香川条例のためだけに国で動く必要はないでしょうが、各自治体で動きが活発化した時などに、国で妥当な基準を作ることで中和化できます。また香川が11条の運用を誤り、本格的に迷惑条例ぶりを発揮した際も、国会議員の動きで上書きすることはできるでしょう。
この「国で上書き」は、私は香川条例可決の前から度々ツイッターで書いてましたし、自民党の、みたに英弘議員にゲーム依存関連の資料を送らせていただいた際にも、私見を書かせていただいてます。
ツイッターは、たとえばこれ (条例可決前の2月時点のもの)
https://twitter.com/dantarou/status/1231161220327034881
それらを藤末さんがご覧になられたかまでは知りませんが、実際に動いて回答を得たのは藤末さんであり、見事としか言えません。
柔軟な対応力と、無駄な攻撃性の無さを見ると、規制派と上手く対話をしてために貴重な議員さんだと思います。
オタクさんの大人げない態度とデマ
さて、NHKの番組ですが。
ツイッターでは、「ゲーム依存の話なのにチュートリアル画面は変」等のNHK叩きが1万以上リツイートされているようで、それは番組スタッフがどんなゲームか見ているシチュエーションなので、オタクさん達のデマなんですが…。こういう、反規制派の信用を落とす発信は困ったものです。
他にもeスポとゲーム依存を絡めることを批判する議員さんがいたり。
藤末さん以外は「HNKけしからん」的な論調が目立つように思います。
もうちょっと大人になろうよ。(;´Д`)
前も書きましたが、徳島県のeスポ担当者は「ゲームの健康問題もやりたい」と発言しており、バランスをとっています。
また、eスポをやってゲーム依存の治療を受けている方がいることは事実で、これは以前からの論点です。
ゲーム依存について、本を読んだり資料を集めれば一般の人でも見つかることなので、的外れな批判をしてる人たちは問題への無関心を露呈しているに過ぎません。
一般の人はともかく、ゲーム依存を守備範囲としなければいけない議員さんがこれではダメでしょう。
高橋名人があまり信用できない
個人的には、NHKの議論でも引っかかる点はあります。
韓国のシャットダウン制について、全く効果がないと言っています。
https://www.nhk.or.jp/gendai/kiji/185/index.html
「現時点では、私は時期尚早かなとは思います。実際、ゲームの利用をシャットダウンする制度が海外で行われたことがあるんです。2011年に、韓国で16歳未満に、午前0時から6時まで、ゲーム会社はサービスを提供してはいけないという法律ができました。
確かに2011年は、利用時間は少なくなったのですが、その後、着実に増加して2011年よりも増えて、インターネット中毒とか睡眠時間への影響はまったくなかったんです。」
これは井出草平さんのブログにもあった論です。
検証・議論が確りされているのか気になります。
Effect of the Online Game Shutdown Policy on Internet Use, Internet Addiction, and Sleeping Hours in Korean Adolescents.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29434003
一方で、シャットダウン肯定派の石川結貴さんの『スマホ依存』では、韓国のシャットダウンで数十万人のゲーム依存者が減ったと書かれていたように記憶していますが。それもおそらくスクリーニングで出した推計でしょうから、こっちも真に受けていいのか疑問です。
(※ 石川さんは香川の条例には批判的なのでご注意を)
井出草平さんの講演動画を見た印象としても、ここは彼の歯切れが良くない部分でもあり、韓国での不正利用(親のアカウント利用等)などもあって、日本で同じになるか分からないという立場だったはず。
また考慮すべき点として、デバイスの普及もあります。
よく批判される「日本でネット依存の疑い93万人」にも関連する観点ですが、同じスクリーニング調査(キンバリー・ヤング博士がギャンブル障害の診断ガイドを参考に作ったもの)を用いた数年前の結果より著しく増えていること。この期間に、デバイスの普及が進んでいる社会背景があることなどを踏まえると、あまり単純化して物を言えない部分があります。
(※ 木曽崇さんが指摘するように、スクリーニングで出た人数は依存症の確定ではなく「疑い」のある人が大目に出てくることは注意が必要です。そのうえの私見として、同じスクリーニング調査をして全国推計人数が約50万から90万以上に増えたことに、社会的な背景・デバイスの普及を見るべきということになります)
井出さんが引用した論文が、どの程度、デバイスの普及などを考慮しているかは不明ですが。
HNKの全文を見ると、そこに全く注意が払われず高橋名人が論じている点は、気をつけたほうが良いでしょう。
仮に元の研究でもここの考慮が抜けていた場合「ネット依存が増えた」だけではミスリードになる可能性はあります。
「依存性」を考える時にも、ここに絡めて議論する必要があるかもしれません。
「ゲームは薬物より依存性がない」という単純な話でなく、アクセスのし易さも考慮するべきという議論があります。
(※ 依存症の専門家が以前から指摘するだけでなく、どちらかというと反規制の立場の木曽崇さんも注意すべきという立場でツイートしています。特にご本人の承認を得ていないのでブログにスクショは貼りませんが、「アクセスし易さ」×「依存性の度合い」であって、依存性の強弱だけで議論を回すと、どこかで大きな反撃を食らうと仰っています。私も同感です)
私個人としては、国会図書館で集めた資料などを見比べながら思うに、井出草平さんのブログがかなり信頼性の高い議論を提供していることは否定しません。というか素人として凄く勉強になります。
だから、井出さんに対しては(素人がおこがましいですが)かなり高い点数をつけつつ、注意しないと不味い部分はあるのではないか・・・ということは申し上げておきたい。
(※ 上記の木曽さんの苦言は、井出さんの記事を受けてのものです)
また、井出さんのブログは規制派に対する反論を中心に組み上げられているため、ゲーム業界の高橋名人がそちらだけを引用してブログ記事を書いたり討論番組で語るのは、あまり好ましく思いません。
高橋名人のブログにコメントしてみたが、未承認でした
コメント未承認になると思ってなかったので、送信する前にコピーしておけば良かったですね。
書いた論点は
「ゲーム以外に原因がある・・・も行き過ぎると落とし穴がある」
「依存とメンタル不調は、どちらが原因という単純なものではなく相互影響的という議論がある(日経サイエンスの記事も紹介)」
「井出草平氏の影響を受けて、精神疾患との安易な結びつけをしたコメントが見られる問題。依存症の支援団体の本で、教員がゲーム依存の子を精神疾患と見なしていたが、実際は違ったと。」
「基本的な情報、専門家の意見を先に学んだほうがよい」
などです。
もちろん暴言は一切書いてない。
これで未承認といのは「ヨイショ以外、聞く気がない」という意思表示なのかな。
とても残念です。
上記の論点の幾つかについて、話を繋げていきましょう。
少し長いので、気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
「依存の原因は別にある」という話と問題点
これは、厚生省の依存症対策全国センターの動画にもあります。
ですから、「原因は他にある」という議論自体は否定する必要はありません。
右下の「依存症 間違いだらけの常識」
https://www.ncasa-japan.jp/docs
とても大事な観点です。
しかしこれも程度問題であって、ある立場での行き過ぎは弊害も出てくると思われます。
ゲーム依存に関する意見を見るに、「ゲーム以外に原因がある」を悪い意味で解釈して、依存症対策を煙に卷く意図が先行しているのではないか、そう見えることもあります。
(※ 特に、「ゲーム以外の原因」に対策を進める気配がないなら、議論を煙に巻いて何もする気がないと見て良いかもしれません)
また現在の段階で明確な因果関係を元に対応するのが全て正しいのか、という見方もあると思います。
依存に陥る「原因」、それは人によって様々でしょう。
というか一つのことが「原因」と単純に言えるのか。
専門家の本を見ると、どちらかというと「要因」(本人要因・環境要因・防御要因など)と書かれています。
リスクが高い人、リスクが高い環境、リスクを下げる要素、などがある。
様々な要因が絡む中で、いかに依存リスクを下げていくか、その観点は忘れないほうが良いと思います。
「原因は別にある」系の議論は、それを忘れたり、煙に巻くには都合が良いかもしれません。
また、率直に言うと「リスクを下げる」の観点は、コロナでも似てますが「自粛」「制限」に繋がりがちで、その議論に乗ると規制派の思う壺というところは大いにありえます。
しかしだからと言って無視してしまうと、依存症に対する適切な教育等(ゲームとの健全な付き合い方)も行えません。
また依存症対策そのものに後ろ向きという印象を強く与えます。
放置するとかえって規制派の論拠のひとつになったり、彼らとのすれ違いが解消できません。
堂々と議論した上で、リスク管理の観点からの教育は許容し、不要な規制を防ぐほうが良いのではないでしょうか。
このあたり、高橋名人の「コメント未承認」や、表現の自由系議員さん達の論調・態度を見るに、より良い議論を積み重ねる気がないように見えます。
私のように元依存者かつ規制反対の立場から見て、
彼らの態度はハッキリ言って現状、あまり信用できません。
影響は相互的か
依存の原因に「メンタルヘルスの悪化」が指摘されることもあります。
これも「原因は他にある」的な発想を、統計的に導き出したエビデンスとして注目される。
日経サイエンス4月号の、米国でのソーシャルメディアの議論が参考になります。
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/202004.html
記事を見ていて面白かったのは、「ソーシャルメディアを薬物と同じようなもの」という意見に異を唱え「原因は別」と見ていた研究者も、調べた結果「それほど単純ではなくて、相互影響的かも…」と思考を巡らしているところですかね。
・「依存」→「メンタルを病む」
・「メンタルを病む」→「依存」
どちらが原因かという単純なものではなく、両方あると。
両方あるから、悪循環になる。という物の見方が出てきます。
そして依存症の専門家の本を読むと、上記の米国の議論を踏まえたわけでもなく、診療現場の観察から同じことは指摘されています。
だから「原因はべつにあるからゲームは悪くない」が行き過ぎて、このあたりを見落とすとマズイ。
これは「ゲームが悪い」と言いたいのではなく 「付き合い方を間違えるとやはり悪影響は出てくるかもよ」 ということ。
長時間プレイが必ずしも依存とイコールと言えませんが、一つの指標・リスクを高める要因として考える必要はあるでしょう。
さらに生活が順調だった方が依存に陥ったケースもあると指摘されますし、自分がSNSでやり取りしてる方でも同様の体験を語る方はいます。体験を統計より優先するのは特に政策論議をする際には良くないでしょうが、どちらを重視するというより、そういう例もあるということは留意が必要でしょう。
「様々な要因が絡む」
「影響は相互的」
これくらいの、ざっくりした理解で 「ゲームは悪くない」 は、あんまり強調しなくてもいいかな。
教育系雑誌で、現場のゲーム依存対策を見てても、昨年以前のもので既に 「ゲームは悪くない」 は大書されながら、付き合い方を考えるように子供達を導いています。ことさらゲーマーや、ゲーム業界が訴えなくても、そんなもん皆わかってるやろ…と思いますよ。
不必要に変なとこを強調したり思考・議論を固めるより、もっと柔軟に見てはいかがでしょうか。
「エビデンス」が全てなのか、コロナも絡めて考える
感染症と依存症は違いますので、コロナとあまり重ねても適切でないかもしれませんが。
西浦博さん(8割おじさん)の数理モデルも、必ずしも統計や明確な因果関係というものではありません。
データが不足していたり、分からない事が多い中で出したモデルです。
それを根拠に「リスクを減らす」という観点で社会が動くことはあります。
ゲーム依存の場合、コロナほどの緊急対応が必要とは思えず、「リスクを減らす」の観点だけで「1日1時間」を法令化する必要も全くないと思われますが、しかしリスク管理の観点に対して「科学的根拠がない」で切り捨てる態度も、専門家を軽視しすぎではないでしょうか。
(※ エビデンス階層図には、専門家の知見や診療も含まれるため、ランダム化試験やメタ解析など強いエビデンス以外を「非科学」と切り捨てるのは行き過ぎということもあります)
久里浜の樋口進氏はネットで批判されがちですが(私も全面同意まではしませんが)、彼の治療を受けに来る9割はオンラインゲーム依存で昼夜逆転になっている等、どこに問題が多いか、コロナで言うところのクラスターの特定に繋がるような示唆を与えてくれています。
私がオンゲの夜間規制(未成年のみ)に、検討する価値があると思うのは、「1日1時間」と違って多くの青少年ゲーマーを「巻き込まずに」、問題を抱えるクラスターにリーチする政策になりえる(可能性がある)からです。
専門家が警鐘を鳴らしているのに、無視するのはもったいない。
否定から入らず、もう少し議論を積み重ねるべきかと思います。
議論で隙を作らないために、専門家から基礎を学ぶ
そして最後になりますが。
専門家の本などを見ずに否定から入った場合、かなり基本的な間違いを犯したまま議論を展開している議員さんもいました。
その人も、井出草平さんの講演は聞いています。ブログも見ているでしょう。
しかし、依存症の専門家の意見(他分野の医療関係者などの本でも、基本的な前提となってる見解)を見ずに批判に前のめりになった結果、随分ボロが出てしまったという印象があります。
たとえば、依存症が「否認の病」と呼ばれることも知らずに、先述したヤング博士の質問事項を笑い飛ばしたり…。
彼が統計の専門家として「質問が恣意的」と言っても、ここは関係ない話なのです。
保健所にコロナの相談をして、スクリーニング(問診)を受けたとき、その質問内容が「恣意的」と言う人がいるでしょうか?
依存症の専門家が、症状に適合するか質問しているものに、「統計に詳しい議員」は、全く的外れな批判をして笑っていたのです。
これは、専門家の本(一般向け)を1冊でも読めば、未然に防げる失態でした。
ですから基本的な知識を放り投げて、拾った反対意見だけを武器に戦うのは要注意。
一般の方はともかく、ゲーム業界の方や政治家は隙を作ることになるので注意したほうが良いでしょう。
(※ こと政策に反映する段階に於いては、スクリーニングで大雑把に導き出された推計ではなく、統計で考える方が好ましいと思います。この点で、樋口進氏と私のスタンスは明確に異なると思われます)